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「違憲と言い切ってほしかったが“前進”」同性婚“違憲状態”判決にみる裁判所の価値観

「違憲と言い切って欲しかったところはありますが、一歩前進していると感じて今は安心しています。一刻も早い検討・議論を国会の場で進めていただきたいと強く思います」同性婚の実現を求めて国と戦う原告のまさひろさん(男性パートナーと事実婚)は、力を込めた。虹色の旗をかかげた原告団が8日午前、福岡地裁に入った後、裁判長から“違憲状態”ではあるものの違憲ではないとの判断が示された。国に対する損害賠償の請求も退けられた。判決には「婚姻の価値観が変遷しつつあるとは言い得るものの、社会的承認が得られているとまでは認めがたいところがある」との記載がある。家族のあり方、実際の家族の形、性的指向の受け止め方は時代によって変わり、人それぞれの部分も大きい。判決全体を俯瞰すると同性婚は「時期尚早」ということになるが、随所に「世論」の変化を切り取った描写が存在する。弁護団はそれを裁判所が社会に投げかけた “強いメッセージ”だと受け止めている。

男女3人の「裁判体」が感じ取った“世論”


そもそも、この裁判は婚姻届が受理されなかった福岡などに住む同性カップルが、民法と戸籍法の規定が「憲法違反だ」と主張し、国に慰謝料などを求めたものだ。全国5地裁で同様の訴えが起こされ、福岡地裁の8日の“違憲状態”で「違憲」が2件、「違憲状態」が2件、「合憲」が1件と地裁レベルの判決が出そろったことになる。

判決を受け原告の同性カップル3組は「違憲状態」との判断に安堵しながらも「違憲と言いきって欲しかった」などと悔しさもにじませた。

原告・こうすけさん(33)「今回の違憲(状態)判決、大変力強く味方になってくれているなと感じる。一方でもっともっと強くメッセージを送って国会が議論しなければいけないとわかるようにして欲しかった」

判決そのものは「棄却」だった。つまり、民法や戸籍法の規定はすべて憲法に反しないと判断され、原告の訴えは“ご指摘に当たらず”と判断された形だ。一方、そのような判断に至った裁判所の“思考過程“も論理的に記された。そこから裁判所が感じている同性婚を取り巻く多数の“課題”も明らかになった。裁判長の男性と男性裁判官、女性裁判官の3人で構成された、福岡地裁の“裁判体”の目に同性婚はどのように映ったのだろうか―。

唯一の「違憲状態」は、婚姻制度の“利益”を認めないこと


訴えの内容が憲法の複数の条項に違反しているという主張だったため、裁判所はそれらの一つ一つを検討した結果(回答)を示した。最後に登場したのが、憲法24条2項(個人の尊厳に立脚した家族法の制定)に違反するかどうかの判断だ。ここでは“違憲状態”という最も踏み込んだ表現が記される。

前半では主に「実現の在り方は、その時々における社会的条件、国民生活の状況、家族の在り方等との関係において決められるべきもの」と、同性婚は「世論次第」との考え方を前面に出した。そして次は世論分析における裁判所の“視点”が入る。「近時の未婚の者に対する意識調査も踏まえると、婚姻制度の目的において、婚姻相手との共同生活の保護という側面が強くなってきている」「我が国でも婚姻は異性のものという社会通念に疑義が示され、同性婚に対する国民の理解も相当程度浸透されている」

そして件の“違法状態”の指摘だ。

「同性婚に対する社会的承認がいまだ十分には得られていないとはいえ、国民の理解が相当程度浸透されていることに照らすと、本件諸規定の立法事実が相当程度変遷したものと言わざるを得ず、同性カップルに婚姻制度の利用によって得られる利益を一切認めず、自らの選んだ相手と法的に家族になる手段を与えていない本件諸規定はもはや個人の尊厳に立脚すべきものとする憲法24条2項に違反する状態にあると言わざるを得ない」

「60歳以上は意見が拮抗」、「肯定的な意見は近時のこと」


最も踏み込んだ「違憲状態」の言葉が登場したその直後、「しかしながら」の表現が現れ、最終結論へと導かれる。(後述するが、「しかしながら」は判決の中で何度も何度も登場する)

「しかしながら、近時の調査によっても 20代や30代など若年層においては、同性婚又は同性愛者のカップルに対する法的保護に肯定的な意見が多数を占めるものの、60歳以上の年齢層においては肯定的な意見と否定的な意見が桔抗しており、国民意識として同性婚又は伺性愛者のカップルに対する法的保護に肯定的な意見が多くなったのは、比較的近時のことであると認められる。婚姻を認めていない本件諸規定が立法府たる国会の裁量権の範囲を逸脱した物として憲法に反するとまでは認めることができない」

そう、最終的には“時期尚早”というのが裁判体の考え方だ。とはいえ、弁護団は同じく「違憲状態」だった東京地裁の判決よりも、福岡地裁の判決はやや踏み込んでいると評価する。弁護士の一人は判決後にこう語った。

原告弁護士「いまの結婚制度をそのまま同性婚にもあてはめたら、いろいろ問題が生じてくる。別の制度を考える必要もある。だから立法府はどんな問題が生じていくのか検討をしていかなきゃいけないよね。と書いている。でもまだ、検討してないでしょ。だから立法府の検討と対応に委ねますと言っているように受け取れる」

判決全体を通して「到底看過できない」「看過しがたい不利益」「重大な不利益」などと現在の同性愛者がおかれている境遇を問題視する言葉が何度も繰り返された。そこには裁判体からの社会への問題提起、メッセージがにじんでいる。同性婚をめぐっては、5地裁の判決中、4地裁が違憲、または違憲状態とした。原告弁護士は「(国は)放置はできないと言われたと思う」と手応えを感じている。


原告のまさひろさん(35)「『しかし』と言われると、まだ言うの?って思って、結局「違反しない」と聞きすごく疲れました。一喜一憂しながら聞いていました。一刻も早い検討・議論を国会の場で進めていただきたいと強く思います」と述べ、裁判所を後にした。

国内で価値観の対立「社会的承認は得られていない」


そのほかの憲法条項についての福岡地裁の判断も振り返る。最初に登場したのは、憲法24条1項(婚姻の自由)だった。かいつまむと、憲法制定時に同性婚は“想定外”で、各法律の規定は「異性間の婚姻を指す」。社会の価値観は変遷し、同性婚が婚姻に含まれる余地があり諸外国では法的保護の動きもあるが「世論調査の結果等によれば、同性婚に対する価値観の対立が存在し、異性婚と変わらない社会的承認が得られているとまでは認めがたい」と回答した。

看過しがたい不利益だけど・・・


続いて、憲法13条(幸福追求権)についての判断だ。ここでは、婚姻によって得られる経済的なメリットが列挙された。「医療における家族への説明や同意権、不動産購入、賃貸借又は保険等 の各種契約の審査における家族状況の確認、家族を共同名義人や保険等の便益の受取人に指定できること、職場の異動等における家族の状況への配慮、同じ墓の利用の可否等の冠婚葬祭への参加」。そしてこの“効果“を同性カップルが受けられないことは「看過しがたい不利益」とした。その上で、再び「しかしながら・・・」と続く。「婚姻自体が国家によって一定の関係に権利義務を発生させる制度であることから、同性愛者の婚姻の自由や婚姻による家族の形成という人格的自律権が憲法上の権利とまで解することはできない」。

“婚姻は男女のもの”社会通念は現在も失われていない


次は憲法14条(法の下の平等)に対する裁判所の回答。「原告らは婚姻制度を利用できずこれらを享受する機会を得られないことで重大な不利益を被っている」と説明した上で、再び「しかしながら・・・」とつなぎ、「婚姻制度の目的は、国が一対の男女(夫婦)の間の生殖とその子の養育を保護することにあった。婚姻は男女によるものであるという当時の社会通念もまた変遷しつつあるものの、現在においてもなお失われているということはできない」そして、各法律の規定は合理的な根拠があり憲法違反ではないと結論づけた。

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