中国の李尚福(り・しょうふく)国防大臣が10月24日解任された。7月には、外務大臣だった秦剛(しん・ごう)氏もその職を解かれている。2人はどちらも今年3月に就任したばかりだが、東アジア情勢に詳しい、飯田和郎・元RKB解説委員長は「びっくりした」というより「やっぱり」という思いの方が強いという。同月26日に出演したRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で解任の背景を語った。
習近平氏が高く評価していた2人の解任
すでに外務大臣を解任されていた秦剛氏と、国防大臣の李尚福氏。2人は、日本なら外務大臣と防衛大臣。アメリカなら国務長官と国防長官。閣僚の中でも重要ポストだ。さらに、2人は大臣よりも一ランク上の国務委員を兼務していた。ともに大臣と国務委員ポストの両方をはく奪されている。
日本のメディアでは「副首相級」と表記する国務委員。かつては閣僚に昇格した者が、そこで実績を積み、選ばれて国務委員を兼務するケースがふつうだった。しかし秦剛氏、李尚福氏とも、今年3月にそれぞれ閣僚ポストに昇格したのと同時に、国務委員の肩書を得ていた。
2人はいずれも、習近平主席から高く評価されていた。だから、国務委員の兼務を含めて習近平氏が直接、抜てきしたとも言われている。57歳の秦剛氏は、プロトコル(=外交儀礼)のセクションの責任者を務めていた。
また以前は外務省のスポークスマンだったこともあり、「時に攻撃的な発言が気に入られた」という話もある。外務大臣を解任されたあとも、国務委員ポストを維持してきたが、やはり身辺に不祥事があったということだろう。
一方の李尚福氏は長く軍の装備部門を担当していた。アメリカは、ロシアからの戦闘機の調達などに関わったとして、李尚福氏を制裁対象に指定してきた。装備部門は巨額のカネが動く。だから、就任からわずか7か月の解任は、汚職が絡んでいるとも指摘されている。
いったいどこの国のニュースなのか
中国で夜7時(=日本時間8時)のニュースといえば、現地に駐在する特派員が「なにか異変がないか」と毎日必ずチェックする番組だ。解任を伝える報道は10月24日、その中で“さらっと”流れた。解任理由は説明されていない。
翌25日、習近平主席は、北京を訪れたアメリカ・カリフォルニア州のニューサム知事と会見して米中関係の重要性を語っている。来月11月にはそのカリフォルニア州のサンフランシスコでAPEC(アジア太平洋経済協力会議)の首脳会議が開催される。習主席も出席し、その機会に米中首脳会談が開かれるだろう。
閣僚を解任した直後だが、トップはスケジュールを予定通りにこなし、解任については一切触れていない。解任理由が今後、説明されるかどうかは見通せない。性的なスキャンダルなら公表されないだろう。もし、腐敗・汚職に関することなら、刑事訴追される可能性がある。その場合、どこかの段階で、公になるかもれない。
汚職に対して厳しい姿勢で臨んでいる習近平指導部だから「大臣であれ、法を犯したり、規範に逸脱したりするなど、任に就くのに不適格であれば、解任する」ということだ。その一方で、その人物を抜てきした任命責任もあるはずだ。
日本の組織なら、例えば株式会社において、ある取締役が不適格で解任・降格となるとする。社長がその理由を説明しなれば、株主や、その会社と取引のある人たちは納得しない。結局、その会社は社会的信用を落としてしまう。
ところが、中国は違う。25日の中国の共産党機関紙「人民日報」は第4ページに解任の事実を短く伝えただけだ。一方、同日の日本の新聞各紙は1面で大きく報道して、別のページにも解説記事を掲載している。どこの国のニュースなのか、と思ってしまう。
「異質な考え方をする国」がすぐ隣に
2人の閣僚解任。私には真相はわからない。ただ、はっきり言えることが二つある。一つは、外務大臣、国防大臣とも、「解任理由」が現時点ではまったく公表されない。つまり、私たちの常識や価値観が違う「異質な国」がすぐ隣にある、ということだ。
この考え方は、閣僚人事にとどまらないのではない。外交においても、防衛においても、人権においても異質な考え方をする国ということだと感じる。
もう一つ。共産党の高級幹部や、閣僚の人事を最終的に決めるのは、中国の「ナンバー1」の習近平氏。以前から指摘してきたが、習近平政権がこれまでなかった3期目に入って、習近平氏の権限がかつてないほど強まった。
最高指導部のメンバーも、習近平氏と近い部下ばかり。だから、指導部内の「力の均衡」、または「序列が何番目」という以前のような表現はあてはまらないのかもしれない。
一方で、任命責任は中国にもある。これも日本の組織と同じと考えればいい。起用からたった数か月なのに、すぐクビになる人材を登用し、また、すぐクビにする「人事面での独裁」が起きている。当然、それを見つめる国民の不満や不信は溜まり、国際社会の目は一層、厳しくなる。
いずれにせよ、政権内部は足を引っ張る勢力が出てこないように、混乱しないように国内の引き締めに入るだろう。さらに内向きになるように思える。ただ、それ以上に、自分たちのやり方=中国流を貫くのかどうか。ますます、中国が国際社会から遠のくような気がする。
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◎飯田和郎(いいだ・かずお)
1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。
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