自転車の交通違反に「青切符」と呼ばれる交通反則切符を交付する新たな制度が4月1日に始まって2週間余りがたちました。悪質な自転車の利用者に迅速にペナルティーを科すのが狙いで、高止まりする自転車の事故を減らす効果が期待され、少しずつ浸透しているようにみえますが、まだ戸惑いを感じる人も多いようです。新制度の導入から間もない4月17日放送のRKBラジオ『立川生志 金サイト』に出演した、毎日新聞出版社長の山本修司さんがこの制度についてコメントしました。
背景にある悪質な違反の増加
私も自転車に乗ることは多く、前々から時折見かける悪質な自転車の利用者は取り締まってもらいたいと思っていましたので、今回の新たな制度には賛成です。私の周辺では、歩道を走る人はかなり減って、車道の左側を走る人が増えたようですし、当たり前ですが飲んだら乗らないということもより一層徹底されているようです。街頭での取り締まりでは、切符を切らずに指導や警告をするケースが多いようですが、警察官にいろいろと質問していた人も目立っています。まだ戸惑いがあるということですね。それで、今日は一緒にこの問題を考えていきたいと思います。
親しい警察の幹部に聞いたところ、警察内部では何年も前から「青切符」による反則金の導入は検討されていたのですが、急なルール変更ととらえられて強い反発も予想されるためなかなか踏み切れていなかったのが実態のようです。それがここへ来て、「悪質な自転車を取り締まってほしい」という一般からの声が強まって、今回の改正が可能になったということです。実際、自転車が歩行者を巻き込む事故は増えていましたね。自転車の悪質な違反が見過ごせない事態にまでいっていたことは確かなようです。
「青切符」導入の仕組みとおさらい
ここでちょっとおさらいをしたいと思います。自動車の交通違反では、駐車違反や一時停止違反など比較的軽い違反のときには「交通反則告知書」(紙が青いため「青切符」と呼ばれます)が交付され、著しい速度違反やひき逃げなど重い違反には、刑事手続きに進む「告知票・免許証保管証」(これは赤いため「赤切符」と呼ばれます)が交付されます。青切符は前科にならず、決められた反則金を支払うことで終わりますが、以前は自転車の違反については悪質な違反を取り締まる「赤切符」しかなく、実際に刑事手続きに進んでも比較的軽い違反であるため不起訴になることが大半でした。つまり、手続きに手間がかかった割には、責任追及ができていなかったわけです。
このため、従来は「赤切符」で摘発されていた違反を「青切符」に移行することで、摘発後の手続きが簡素化されるうえ、実効性のある責任追及ができ、自転車利用者が交通ルールを順守することにつながるというのが今回の趣旨になります。実際、2024年に警察が「赤切符」で摘発した自転車の違反をみると、96%以上が信号無視や一時停止違反など今回「青切符」の対象となる違反だったということですので、その面では今回の制度改正は理にかなっているといっていいと思います。
通行ルールの徹底と取り締まりの方針
一方で、戸惑いを感じているものの多くは左側通行のようです。日本では車は左側を走っていますが、自転車も道路交通法上は車両なので左側通行なのです。ですが、手軽な乗り物のため歩行者と同じ感覚で右側を走行したり、また歩道を走ったりしていたのです。「車道は車、歩道は歩行者と自転車」と誤解していた人も少なくありませんでした。
ということで、歩道や道路の右側を走ると通行区分違反ということになります。自転車で右側を走ると、交差点では右側からルールを守って左側を走ってきた自転車と出会い頭に衝突する危険性が高まります。ですから左側通行を徹底させることにはきちんとした理由があることは知っておくべきだと思います。
警察は、何度注意しても改めないとか、傘を差して信号無視をしたなど複数の違反をしたとか、スマホを見ながらの走行、周囲の音が聞こえないほどの音量でのヘッドホンの使用など悪質なものは即座の取り締まりとする方針ですが、そうでない限りは基本的には指導や警告にとどめる方針です。いずれにしても公平で相応な取り締まりをするということは当然です。
自転車を取り巻く交通環境の構図
私が本当に言いたいのはここからで、今回の改正で浮き彫りになったのは、行政機関が「自転車に乗る人がルールを守ることができないような交通環境を事実上放置して、さらに自転車の違反を大目に見すぎたために、ルールを守らないことが普通になった」ということです。車中心の道路にしたことで、自転車が走れるようなスペースがなく、やむを得ず歩道を走ることで歩行者との区別もなくなり、道路の右側を走ったり、横断歩道も車道も都合よく走ったりすることが普通になってしまったということです。そして状況としては自転車側にやむを得ない面があって、また比較的軽い違反であることもあって取り締まりを事実上しないということになってしまった。これが私の考える構図です。
それに加えて電動アシストの自転車が普及して、その人の体力に関係なく上り坂であってもどこでもスピードを出せるようになり、結果的に歩道上で無謀な乗り方になるケースが増え、また歩行者と同じマインドですので、スマホを見ながら(これは歩行者でも危ないですが)、または大音量のヘッドホンを付けての走行も増えてきたということです。飲食物の宅配が増えて、時間に余裕のない自転車が増えたことも事故が増えた一因ですね。
車社会の変化と自転車社会への転換
オランダは自転車王国といわれますが、100人あたり109台の自転車を持つそうで、都市部では約半分の交通手段が自転車だということです。ですから車道とはっきりと分けられた自転車専用道路が発達しているのですが、そのオランダも1970年代までは相当な車社会で日本と同じ状況だったということですから、参考になると思います。
日本も車社会であることは間違いありませんが、20歳~24歳の運転免許保有者は2024年に約451万人で、四半世紀前の1999年の約727万人から4割程度減り、一方で電動キックボードや自転車のシェアが広がっていて、車社会にも変化がみられているようです。そんな中での制度改正というタイミングです。
これは車に対する認識を一変させて、自転車社会を作る契機になるかもしれません。いま疑問を感じながら危険に見える車道を走ったり、安全な歩道を走れなくなったりしていることには戸惑いがありますが、車道とポールなどでしっかりと分けた自転車のための道路環境を整える必要性を訴える動きにつながる可能性があります。今回の制度改正を経て、自転車社会への転換を考えてみる時期に来ているのではないかと考えています。
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この記事を書いたひと

山本修司
1962年大分県別府市出身。86年に毎日新聞入社。東京本社社会部長・西部本社編集局長を経て、19年にはオリンピック・パラリンピック室長に就任。22年から西部本社代表、24年から毎日新聞出版・代表取締役社長。




















