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『闘いの庭 咲く女 彼女がそこにいる理由』著:ジェーン・スー

自分の居場所を自分で作って花を咲かせた女たちの物語

“自分を信じられないのは、私たちに気力がないからではない。あきらめずに信じるやり方の具体性に欠けるからだ。”

作詞家・コラムニストのジェーン・スーさん。第31回講談社エッセイ賞を受賞した『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』などの著書のほか、ラジオ・Podcast番組も人気を誇る。その彼女が、“めげず腐らず花を咲かせた”13人の女たちにインタビューをした本が、『闘いの庭 咲く女 彼女がそこにいる理由』である。

ジェーン・スー

悲しいけれど、「女ってだけでこんな扱いかよ」と思ったことが、これまで私は何度かある。妙に女として扱われ持ち上げられることに、嫌気がさしたこともある。それらを跳ね飛ばす強くかっこいい女たちの、スカッとする物語をどこかで期待してこの本を手に取ったが、そんな憂さ晴らしに使う本では毛頭なかった。不条理に焦点をあてて嘆き怒るのではなく、とにかくめげずにコツコツと自分に水をやること。そしてそれを、読者の私たちに諦めさせない本だ。

スーさんは、「実用的な技術や方法を示すサンプルが、女の場合は少なすぎる。だから私は、自分の居場所を作り出す女の話がほしかった」と書いている。インタビューには、田中みな実さんや柴田理恵さん、野木亜紀子さんなど著名な女性が並ぶ。柴田理恵さんは、所属していた劇団の上層部たちの「飲み屋で決めた」発言に反発したところ、「今度はいい役をやるから」と言われたという。そういう問題じゃないぞと奮起して自分で劇団を作り上げたのちに、劇団を維持することの大変さを知る。「私なんかもうダメだ」と思う日々を過ごしながらも、自分たちのやっていることが人の役に立つとわかってから自信がついたのだそうだ。思うに、「こういうときはこうすべき」という正解などはなくて、ただまっすぐ、めげずにやるしか自分の居場所を作り出す術はないのかもしれない。世の中は期待するほどうまくはいかないが、絶望するほど悪くもない。自分がめげずに生きていれば。

芸能人に限らず身近な女性の人生や志のようなものさえ、そういえばあまり知らないでいる。「自分にはできないかも」「私はこのくらいでいいや」と思ってしまうことがあるのは、あきらめずに自分を信じるやり方を、人生の先輩たちから聞いたことがないからだとスーさんは言い切ってくれる。私たちは実例を聞いて初めて、「めげないこと」「あきらめないこと」が実を結ぶ可能性を、綺麗事ではなく信じられる。

話はそれるが、昨年末のM-1で準優勝したお笑いコンビ「ヤーレンズ」出井さんのXのプロフィールに、「もう負けない」と書いてある。それが大好きで、思い出しては度々見に行ってしまうのだが、この本もたくさんの女性にとってそんな存在になるのではないか、と思う。インタビューで出てくる女性たちの芯のある言葉を、お守りのように心にしまって、時折取り出して眺めたい。

私たちには、自分を信じて花を咲かせた仲間がたくさんいるのだ。この本を後ろ盾に、女は今よりもっと自信をもてる。私たちだって、もう負けない。めげず腐らず、自分で花を咲かすのだ。

著者:プロフィール

ジェーン・スー
(コラムニスト・ラジオパーソナリティ) 1973年東京生まれの日本人。 2021年に『生きるとか死ぬとか父親とか』が、テレビ東京系列で連続ドラマ化され話題に(主演:吉田羊・國村隼/脚本:井土紀州)。 2023年8月現在、毎日新聞やAERA、婦人公論などで数多くの連載を持つ。

INFORMATION

書名: 闘いの庭 咲く女 彼女がそこにいる理由
著者: ジェーン・スー
出版社: 文藝春秋
価格: ¥1,650(税込)

この記事の著者について
[テキスト/天野加奈]
1993年大分生まれ。2023年より本屋「文喫 福岡天神」ディレクターとして企画や広報を担当。
大切にしている本は『急に具合が悪くなる』(宮野真生子・磯野真穂 著/晶文社)

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