福岡には幾多のイタリア料理店がありますが、その個性は十軒十色。それぞれに華やかで奥深い美味の世界はあらゆる世代を魅了してやみません。そんな人気のジャンルに「kôki 香季」が新たに参戦。ハイコスパなコースの提供に加え、「シェリーの魅力発信」をテーマとするこのレストラン、特に洋酒ファンには面白い存在になりそうですよ。
所在地は中央区大名の「大名ことうビル」。レトロモダンな風貌を持ち、小粋な飲食店も集まることから界隈でも独自の存在感を放つ建物です。
階段を上がって通路を進むと、最奥部に店のプレートを発見。店主の増田博宣さんが2月16日に構えた「kôki」は、どこか“都会の隠れ家”を思わせる趣で客たちを迎えています。
料理と接客を一人でこなす増田さんは、バーテンダーから飲食のキャリアを始めた37歳。その名残が伝わる柔和な所作に、こちらの緊張もすぐにほぐれます。この空気を後押しするのがカウンター6席の親密な空間。あくまで店はレストランですが、肩肘張らぬ雰囲気は「kôki」の持ち味の一つでしょう。
また棚にはボトルが数々並び、洋酒へのこだわりが窺えます。「ウイスキーやワインなど、合わせて200種類はありますね」と増田さん。「なかでも僕はシェリーが大好きなんです」
シェリーとは、スペインのアンダルシア州で造られる酒精強化ワイン。独特の香りや飲み口は既存のワインにない魅力をたたえ、甘口から辛口まで味のバリエーションも多彩です。この酒の虜になった増田さんは、20代半ばに南区でシェリーを柱にしたバーを開きました。
が、「美味しい料理があって酒は引き立つ」と考え、一念発起し料理の道へ。平尾の名店「メルモーゾ・ダ・ドロカワ」などで研鑽し、「kôki」の開店に至ったそうです。現在シェリーの在庫は15種類と、福岡ではかなり豊富な品揃え。ペアリング(6杯/4,000円)にも2種のシェリーを加え、その魅惑を教えてくれます。
もちろん、料理が引き立て役で終わることもありません。月替わりの「季節のおまかせコース」は、どれも真面目に仕込んだ料理7~8品で構成。しかも今どきフルコースで6,000円というから驚かされます。「ならば量も少なめだろう」と思った人は、きっと食後にもう一度驚いているはずです。
さて、今回僕がいただいたのは4月のコース。アミューズのスープで始まり、前菜(馬のタルタル×トマトのカッペリーニの前菜)やフリット(ホタルイカ×バジル×新じゃがいも)と、素材の旨みが際立つ料理が続きます。4品目のパスタがまた出色で、リングイネに絡まる桜エビやハマグリ出汁の香りが実にふくよか。フワリと漂う“春”を吸い込むと、増田さんがこの店に「香季」と名付けた理由がわかった気がしました。
これに続く魚料理は、炭で炙った九州産甘鯛。サフランと金華ハムのベースに葛粉を加え、とろみを出したスープと共に楽しみました。こちらも出汁のコクと炭の香ばしさが食欲を促す一品で、厚めに切った白身も食べ応え満点です。
「肉料理ではジビエをお出ししています」と説明付きで供されたイノシシも絶品の一語。「糸島ジビエ工房」から仕入れる素材は臭みがなく、上品な野生味だけを残した赤身はクセになる美味しさです。そこへフルーティーな木苺ソースを合わせ、爽快な余韻さえ生むセンスも絶妙。予約時に伝えれば他の肉にも変更できますが、これはジビエが苦手な方にこそ味わってほしい逸品に思えました。
この後マンゴーのジェラートとレモングラスティーで充実のコースは終了し、「本当にこれで6,000円?」と思わず感嘆が漏れました。すると「今は試行錯誤中なので、提供の仕方次第では今後値上げもあると思います」と増田さん。「それでも、ここは“レストランビギナーの入口になりたい”との想いも込めた店。色々工夫しながら、使いやすい価格帯の維持にこだわっていきます」。ちなみに6,000円コースは11月末まで継続予定。ぜひとも早めの来店を!
そんな増田さんのもう一つの目標は、無論シェリーの魅力を広めること。「まだまだ馴染みが薄いシェリーですが、どんな料理にも合う懐深さや悪酔いしづらい飲みやすさなど、知るほどに素敵な酒なんです。大名には“同志”でもある『BAR Coda』の能美さんもいらっしゃるので、一緒に普及を頑張りたいですね」と微笑みました。
なお21時からはチャージ無料のバータイムとなり、「牛ホホワイン煮」(1,400円/写真)など軽めのアラカルトも用意されます。二次会や帰宅前に、シェリーという新たな愉しみに会いに来ませんか?
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