福岡の焼鳥店といえば、豚バラを筆頭に牛サガリ、タン、野菜巻きなど鶏以外の多彩な串焼き、さらには様々なフードメニューを揃え、もはや串焼きメインの居酒屋というスタイルが一般的でした。そこにぽつりぽつりと東京の焼鳥店で修業した方が開業した鶏のいろいろな部位をコースで提供するというスタイルが出てきて、その走りが現存するところでいえば大名の「益子」、そしてそこでも経験を積んだ大手門の「鳥次」、あるいは高砂の「貴」などです。
しかし、昨秋オープンした「しん月」は、鶏のいろいろな部位に加え、鴨料理、そしてその他のつまみもラインナップ。しかもコース主体ではありながら、単品注文で酒場的にも使えるという、他になかなか類を見ない嬉しい焼鳥店なのです。
場所は商工会議所の斜め前で博多駅からも祇園駅からもアクセスのよい好立地。店主の中須信吾さんは元々体育大学に入り教員や警官への道を考えていたそうですが、その学生時代にアルバイトとして入った兵庫の焼鳥店で焼鳥に魅了され、その後全国チェーンの焼鳥店、地域密着の個人店と、同じ焼鳥でも違うタイプのところで、焼鳥の基本からマネージメントのこと、さらには外国人スタッフの教育まで、様々な経験を積んだと言います。
その後、一度関西を出て東京か福岡で働いてみようと思い、以前旅行で福岡に来たときに感動した水炊きの「橙」の門を叩き入社。その時点では福岡で有名な焼鳥店「鳥次」が経営しているということも知らなかったそうです。しかし、最初の配属は開業準備中だった鳥焼肉の「名門」、続いてその後に開業した立ち飲みの「チキンショップ」の立ち上げに携わることになり、その後ようやく念願の「橙」へと配属されるに至ります。ここでは本丸の「鳥次」で焼鳥を学ぶことはありませんでしたが、それまで焼鳥一筋だったスキルが、このときに劇的に広がり多くのことを学べたそうです。
長きに渡り関西や福岡で物件を探した末にこの物件との出会いがあったわけですが、福岡で焼鳥店を始めるにあたりなにか独自性を持ちたいと考え、関西ではけっこう一般的で焼鳥店でも出しているところが多いという鴨を出す店が福岡には少ないことに気づき、鶏と鴨の両方食べられる焼鳥店という業態にたどり着いたそうです。
「しん月」はアラカルトでも楽しめますが、この日は鴨と鶏の両方を堪能できるコース料理(4,600円)をいただきました。まず、先付けとして卵黄とニラのお浸しをさっぱりといただきつつハイボールで乾杯。続いて串焼きが5本出てきます(実際は1本ずつ供されます)。この日はホルモン(こころのこり=心臓と肝臓の間の大動脈)、鴨、ささみ、せせり、だんごで、コースの場合メニューには載せられないような希少部位が入ってくるのが嬉しいところ。そして鴨は山形の最上鴨を使用し山椒焼きにしてありました。
どの部位もそれぞれの食感や味わいを考えて、切り方、串の刺し方、焼き方に工夫を凝らして仕上げています。
また、鶏や鴨の串焼きを提供する間には野菜の串焼きも挟み、コースのメリハリをつけていました。
次に出てきたのは鴨ステーキ。口に入れて噛むとじゅわっと甘い脂が出てきて、鴨肉ならではの旨味を感じられました。
その次に出てきたのはなんと鴨とじゃがいもの春巻きです。そういえば、黒板メニューにも生春巻きや揚げ春巻きが数種類書いてあります。
焼鳥店で春巻き、しかもコースにも入れるという力の入れようにびっくりしていると、「焼鳥は季節感が出ないので、春巻きで旬の野菜を使い季節感を出すことにしたんです。ぼく、春巻きが大好きなもので」と中須さん。アラカルトの人も大抵一品は注文するというこちらの名物だそうです。
コースの最後はミニにゅうめんでさっぱりと。胃袋に余裕のある人はこの後にミニそぼろ丼を頼む人もいるんだとか。確かにここのそぼろはうまいんです。
アラカルトでは、レバーが苦手という人にこそ食べてほしいという「鶏の肝煮」(500円)が人気だとか。苦手な人は独特の匂いやパサパサ感が嫌いとよく言うそうなので、丁寧に臭み抜きをして、低温で慎重に火を入れて、ねっとり感がありながら火は入っているところを見極めています。上に乗せている他の店では見たことがないくらい太めにカットした生姜が匂い消しにひと役かっているようです。また、この日は食べられませんでしたが、「鶏のあたりめ」(400円)も人気らしいし、「ポテトフライ」(500円)が細いのか太いのか選べるというのもおもしろいですね。
お腹もいっぱいになりそろそろ帰ろうかと思っていると、メニューの隅にお土産用の「そぼろ弁当」(1,100円)と書いてあるのが目に入りました。
お客さんの要望で作りはじめ、今ではメニューにも載せるようになったそうですが、この日一緒に行っていた方が家族へのおみやげとして買って帰ったところ大好評だったと聞きました。ごはんの上に海苔、その上にそぼろ。そしてうずらの玉子、モモ焼き、ニラが入っていて、家族へのおみやげはもちろん、この後に行く店への差し入れにもよさそうです。
あと、まだお邪魔してはいませんが、23時くらいからはアラカルトとお酒を楽しめるバー的な使い方ができるんだとか。2軒目、3軒目に立ち寄って軽く飲み、にゅうめんやそぼろ丼で〆て帰るというのもいいんじゃないですか。
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