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待ったなし!相次ぐ災害と「防災庁」に求められる真の司令塔機能

潟永秀一郎

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今年は、というべきか、今年も、というべきか。各地で大きな災害が発生しています。国は来月にも、政府の災害対応の司令塔となる「防災庁」を発足させます。10月9日放送のRKBラジオ『立川生志 金サイト』に出演した元サンデー毎日編集長の潟永秀一郎さんが防災庁の課題について解説しました。

なぜ今「防災庁」が必要なのか?現体制の二つの弱点

防災庁構想は石破前首相の長年の持論で、高市首相は総裁選時「既にある復興庁の役割強化」でいいんじゃないか、と言っていました。ただ、いいんです(笑)。国に組織的な司令塔が必要なのは事実なので、実現すれば一歩前進には違いありません。ということで、まずはなぜ必要なのか、から説明します。

今の国の防災体制は、専門の省庁を置くのでなく、消防・警察・国交省・防衛省などが、専門分野ごとに対応を分担し、内閣府の防災担当が横の連携を調整しています。1959年の伊勢湾台風後にベースができたので、もう70年近く前の仕組みで、大規模化、広域化し、しかも頻発する近年の状況には対応しきれない弱点も浮かび上がっています。

弱点は大別して二つあります。一つは「平時対応」です。内閣府の防災担当はおよそ220人体制と規模が小さく、これだけ災害が多いとその対応に追われ、同じくらい大切な「平時の備え」(事前の防災・減災対策)に十分なリソースが割けません。もう一つは「人材蓄積」です。職員の多くは他省庁や自治体からの出向者で、2年もすると元の職場に戻るので、知識や経験が組織に蓄積されにくい、という構造的問題です。

また、そもそも日本の災害対策基本法は、避難所の開設や物資の備蓄の「第一責任者」は国ではなく「市区町村」と定めていて、国は総合調整や財政支援にとどまっています。

そこで、能登、熊本のように相次ぐ大地震や、ゲリラ的に急増する水害、何より近い将来起こり得る南海トラフや首都直下など、国難級の巨大災害に備えて「被害を最小限に抑える、徹底した事前防災」=例えば建物の耐震化や避難環境・避難ルートの整備=などを、平時から専門的・一元的に進める司令塔の必要性が高まっています。防災庁はこの要請に応えるため、▽平時の備え▽災害発生時の調整▽復旧・復興――まで一貫して取り仕切る体制を目指しています。

アメリカ「FEMA」との違いと防災庁の「勧告権」

見本があります。アメリカのFEMA(フィーマ)と呼ばれる「連邦緊急事態管理庁」です。役割は四つ。一つは「事前準備」=平時からの自治体や住民の教育・訓練のほか、支援物資の備蓄も行います。二つ目は「被害軽減」=将来の災害に備えて、建物やインフラの補強や、ハザードマップに基づいた土地利用の規制などを指導します。三つめは「救助・救援」=大統領が「緊急事態」を宣言すると、軍や政府機関の役割を調整して物資や救助部隊を被災地へ送ります。最後に四つ目は「復旧」で、被災者が生活再建するための補助や融資、インフラの再建を財政面から支えます。

防災庁は基本的にこの考え方を踏襲していますが、規模にはかなりの差があります。防災庁は職員数およそ350人で発足しますが、FEMAは常勤の正規職員だけでおよそ5000人、これに災害時に数年単位で投入される有期職員など総勢およそ2万人体制です。

そもそもFEMAは地震やハリケーンなど自然災害のほか、テロ、コロナのようなパンデミックなどあらゆる緊急事態に対応するので、規模も違って当然なんですが、自然災害についても、日常的に対処計画を更新し、公的機関だけでなく民間企業やボランティア団体なども含む大規模訓練や、全米各地にある支援物資配送センターの管理などまで担っています。

もう一つ違うのは、自前の予算です。災害発生時、FEMAも防災庁も直接ほかの省庁や軍を動かす権限はなく「調整役」ですが、FEMAが自らの予算でその費用を提供するのに対し、日本は基本的に各省庁の予算です。また平時の防災事業についても、フィーマは年間数兆円もの予算を使って対策を主導するのに対し、防災庁は各地の防災上の弱点などを洗い出し、耐震化やインフラ整備などの予算を優先的に配分するよう、他の省庁に求める「司令塔型」です。

ただ、内閣府の一部門のときと違って、防災庁には法的な「勧告権」が与えられ、勧告を受けた省庁にはそれを「尊重する義務」が課されます。これによって、川は国交省、山林は農水省、市街地の排水は自治体――といった縦割りの弊害を排し、流域全体で考えるといった防災対策が進むと期待されています。

避難所の大幅改善と「防災DX」の推進

とりわけ期待されているのが、避難所をはじめとする被災者支援の改善です。 まだ概算要求段階ですが、来年度予算で防災庁関連は今のおよそ3倍となる650億円が計上され、最も重視されているのが被災者支援だからです。

例えば、避難所の改善では、熱中症対策でエアコン付きの大型テントや移動式のクーラーなどの備蓄を大幅に増やしたり、支援物資が被災地で目詰まりを起こして避難所まで行き渡らない問題を解決するため、全国に新たな中継備蓄基地を設けたりします。また、自治体の避難所運営に充てる交付金を4倍に増やして、プライバシーが守れて温かい食事が提供できるといった避難所の質の改善を図るほか、あらかじめ地域の宿泊施設を「みなし避難所」として確保する協定の推進などを進めるといいます。

また、デジタル庁と連携する「防災DX(デジタル改革)」も重点施策の一つです。 例えば、避難所に来た住民がスマホやマイナンバーカードをかざすだけで登録され、誰がどの避難所にいるかをリアルタイムで把握できるようにするとか、その人のマイナ保険証情報から医療支援や必要な薬を届けるとか、罹災証明書の発行もデジタル技術を使って迅速化する――といったことが考えられています。

手本はイタリア・避難所の「スフィア基準」と「TKB48」

改善を期待しますが、ただ率直に言って、日本は災害大国でありながらこうした対応が遅れ、ようやく先進国並みになる、というのが現実です。見本となる国を紹介します。 代表格は、日本と同じ「地震・火山大国」のイタリアです。

イタリアでは、現場の指揮系統の乱れで救助や物資輸送が混乱した大地震の教訓などから、1982年、政府に市民保護局という専門組織が設置されました。避難所に関して言うと、大災害は発生直後から、被災した自治体ではなく(ここ大事です。日本では被災自治体の職員が、中には自らも被災者なのに出勤して、時に不眠不休で対応するっておかしいですよね)、政府が最寄りの巨大な物資備蓄基地から、国の基準で標準化されたコンテナや大型テントを被災地に送り、専門のボランティアチームなどが設営を行います。

防災庁が取り組むのもこの「標準化」で、国際的には既に「スフィア基準」という最低基準があります。1994年のルワンダ虐殺で大量の難民が発生した際、不衛生なキャンプで多くの人が命を落とした反省から生まれました。「避難所だから我慢して当然」でなく、「被災者も尊厳を持って生きる権利がある」という考え方に基づきます。

ところが2011年の東日本大震災の際、プライバシーのない体育館での雑魚寝や劣悪なトイレ環境などが、海外の支援機関などから「最低基準も下回っている」と指摘され、内閣府は2016年にようやくスフィア基準に基づく「避難所運営ガイドライン」を設けました。ですが、避難所の環境整備は自治体にゆだねられてきたため、財政力の差でその質や量に格差が生まれ、後の大規模災害でも災害関連死が相次いでいるのは、皆さんご存じの通りです。

そこで提唱されているのが「TKB48」です。TKBのTはトイレ=イタリアでは清潔なトイレだけでなくシャワーや洗濯・乾燥機まで避難所に設置し、Kはキッチン=大型のキッチンカーが料理人と共に派遣され、Bはベッド=簡易ベッド付きで冷暖房完備のファミリーテントやコンテナハウスが広場に設置されます。しかもトイレは数時間以内、その他も48時間以内に、です。だからTKB48。イタリアのGDPは日本のおよそ6割、人口は半分ほどですが、こうした物資の購入・維持100万人規模の登録ボランティアの訓練や賃金補償などに年間およそ3000億円を費やしています。

有給のボランティア制度と「プロ」の育成

このボランティア制度も見習うべき課題で、イタリアでは登録ボランティアが被災地に出動する際、仕事を「有給扱い」で休む権利が法律で定められています。しかも企業が支払ったその間の給与は後で市民保護局が会社に払い戻し、自営業やフリーランスでも減収分を補償するか税額を控除します。もちろん往復の交通費も支給され、活動中の事故などに備える専用の保険料も国費です。訓練で仕事を休む場合も同じ扱いで、さらに登録されたボランティア団体には日常の維持・活動費も助成されます。

一方、日本も東日本大震災の教訓から2016年に「全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)」という全国組織が発足し、日本赤十字社など多くのNPOや団体が各種支援活動の調整を行っています。防災庁はこのJVOADと連携し、災害時にはリアルタイムで情報共有しながら、被災者支援を充実・強化する方針です。

ただ、イタリアと決定的に違うのは、「消防団」の活動を除いて、休業補償など公的な支援がないことです。企業として有給の「ボランティア休暇」を認めるところもありますが、その数はまだ全体のおよそ1割にとどまり、欧米の数分の1という水準です。

背景には、「ボランティアは個人の善意で行うもの」という意識が根強いことと、専門性の問題があります。イタリアのボランティアは、電気や水道工事、調理、医療など「職能ごとのプロ」が、国などが主催する訓練を受けて登録されます。日本にはまだここまでの制度はなくて、JVOADの会員など、実績のある支援組織を事前登録し、国が出動費用を補助したり、民間の募金などから活動費用を助成してもらったりする仕組みにとどまります。

ということで、新たに発足する防災庁の役割と「目指すべき姿」など、ご理解いただけたでしょうか。はっきり言って、今の日本の防災行政はまだ「先進国」とは言えません。災害大国でありながら、です。防災庁にその改善を期待しながら、「税金の使い道」ということも改めて考えたいと思います。ことは「命」に関わることですから。

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この記事を書いたひと

潟永秀一郎

1961年生まれ。85年に毎日新聞入社。北九州や福岡など福岡県内での記者経験が長く、生活報道部(東京)、長崎支局長などを経てサンデー毎日編集長。取材は事件や災害から、暮らし、芸能など幅広く、テレビ出演多数。毎日新聞の公式キャラクター「なるほドリ」の命名者。