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「この歌詞がすごい」番外編・今ならアウト!の愛情表現とは?

元サンデー毎日編集長の潟永秀一郎さんがRKBラジオ『櫻井浩二インサイト』でお送りしていた人気コーナー「この歌詞がすごい!」が、この春からは『立川生志金サイト』に引き継がれた。初回は元事件記者という経験をもとに番外編をお送りする。  

元作詞家志望で、元雑誌編集長ですが、駆け出しは事件記者でした

私、毎日新聞で主に社会部畑、事件とか事故とか災害とかの取材を重ねて、北九州や福岡で長く勤務した後、サンデー毎日の編集長を務めました。ですから基本的に、この時間は社会や暮らしにかかわるニュース解説をさせていただくんですが、今日は初回ということで、「この歌詞がすごい!」と、社会問題のミックスでお届けします。

今なら“ストーカー規制法違反”な「サルビアの花」

ちょうど50年前、1972年のヒット曲「サルビアの花」です。当時のラジオ番組『コッキーポップ』で流れて話題になり、いろんなカバーバージョンが登場するんですが、青山学院大学の女子学生3人のグループ・もとまろの歌が最もヒットしました。

 

簡単に言うと、大好きだった彼女が別の人と結婚式を挙げる日「どうして僕じゃないの?」と嘆く歌です。当時はヒットしましたし、私もギター弾いて歌っていましたが、いま聴くと怖いというか、本当にこんなことをしたら、ストーカー規制法違反で、間違いなく警察につれていかれます(笑)。

 

こんな歌詞です。

「サルビアの花をあなたの部屋に投げ入れたいと、いつも思っていた。

それを君のベッドに敷き詰めて、死ぬまで君を抱きしめていようと。

なのにどうして、ほかの人と結婚するの。だから僕は、君の結婚式の日、

泣きながら君を追いかけて行った。

教会の扉が開いて、彼と出てきた君は、僕を見て頬をこわばらせていた。

それでも去っていく君を、僕は泣きながら追いかけ続けた」
と、まあ、こういう内容で。ねえ…(笑)。

 

でも、誤解しないでください。私はこの歌を批判しているわけでは、決してありません。50年前、ここまで愛されることは、ある意味、美しかったわけで、作詞も女性です。

 

ここからは私の想像ですが、この歌は当時大ヒットしたアメリカ映画『卒業』に影響されたんじゃないか、と。自分ではなく、医学生の彼を選んだ彼女が結婚式を挙げている、その教会にダスティン・ホフマン演じる主人公が現れ、彼女の名を呼ぶと、彼女も駆け出して二人で教会を飛び出す――そんなラストシーンでしたが、これ、彼女が本当は彼を好きだったから成立したわけで、そうじゃなかったら通報されて、へたしたら立てこもり事件になって、違う映画になっていたかもしれません(笑)。

 

ちなみに、日本で「ストーカー規制法」が施行されたのは2000年11月です。警察が被害相談にまともに取り合わず、女子大学生が元交際相手の男ら犯人グループに殺害された「桶川ストーカー殺人事件」がきっかけでした。今でこそ、ストーカー行為は悪質な犯罪ですが、それまでは「痴話げんか」的に扱われて、警察も基本的に「民事不介入」というスタンスでしたが、ここから世間の認識は一変するわけです。

 

よく「歌は世につれ 世は歌につれ」と言いますが、まさに歌が生まれて30年足らずで世の中が変わり、歌詞の受け止め方も180度変わった一例です。

片想いなら悲惨な「夜明けまでずっと部屋を見上げ続け」

1996年のヒット曲、オリジナル・ラヴの「プライマル」です。これ、実は私のカラオケの十八番(おはこ)で、大好きな歌なんですが、冒頭の歌詞は

「眠れない夜、彼女の部屋を、夜明けまでずっと見上げ続けていた」
という内容で、これ、今やったら多分、近所の人に通報されます(笑)。

 

それでも、両想いの彼女だったらいいんですよ。もし彼女が気付いても「何してるの。寒いでしょう。さあ、部屋に入って。コーヒー淹れるわ」って。でも、片思いだったらホントに悲惨ですよ。通報で警察が来て、「いえ、あの部屋の人、知り合いなんです」って言っても、彼女は「気持ち悪っ。迷惑です」って。パトカー行きです。

 

つまり、このケースで言うと、社会の受け止め方もそうですが、そうされることを女性がうれしいと思ってくれるかどうかで、歌詞の受け止め方も大きく変わるという、悲しいかな、こちらは不変の真理ですね。

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