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内閣支持率急落の要因「首相長男の忘年会」から政治家の世襲問題を考える

6月19日の毎日新聞1面に、岸田内閣の支持率が、わずか1か月で12ポイントも下がった――という世論調査結果が載った。理由はさまざまだが、秘書官だった長男・翔太郎氏らの「首相公邸ファミリー忘年会」が影響したのは間違いなさそうだ。「国会議員の世襲問題」について、元サンデー毎日編集長・潟永秀一郎さんがRKBラジオ『立川生志 金サイト』でコメントした。

首相長男の「公邸ファミリー忘年会」で支持率急落

前回の世論調査が「広島サミット開催中」で支持率が上がったということを割り引いても、45%から33%へ、1か月で12ポイント減というのは大きいです。閣僚や自民党議員らと旧統一教会との関係が次々明らかになった去年の夏、7月から8月にかけて16ポイント下がったとき以来で、6月15日に岸田首相が「今国会での解散はない」と表明した背景には、その空気感もあったようです。

では、その理由です。前回調査からの1か月で言うと、マイナンバーカードを巡るトラブルが次々発覚したり、財源を示さないままの少子化対策が批判されたり、さまざまありましたが、調査時のタイミングで多くのメディアが理由に上げたのはやはり、長男・翔太郎氏らの「首相公邸ファミリー忘年会」と、その後の対応の遅さでした。

この件、念のため経緯をおさらいすると、翔太郎氏が首相公邸で親族と忘年会をし、赤じゅうたんの階段で写真を撮るなどしていたと、文春オンラインが写真付きで報じたのは5月24日。翌日の会見で、松野官房長官は、首相が翔太郎氏を注意したとして、処分や更迭はしない考えを示し、首相も参院予算委員会で、野党の質問に対して更迭を否定しました。

ところが、直後の朝日新聞の世論調査で「ファミリー忘年会は問題か」という問いに、「大いに」が44%、「ある程度」の32%と合わせると8割近くが「問題だ」と答え、与党内からも批判の声が出るなどして29日に更迭を決めました。…が、時すでに遅し。毎日新聞の世論調査で「この判断をどう思うか」という問いに、「交代が遅すぎた」が過半数の51%に上りました。

小選挙区制以降の首相は12人中9人が世襲

これをきっかけに再び注目を集めているのが「国会議員の世襲問題」で、今回の本題はこれです。

まず岸田内閣。全閣僚20人のうち、妻の父も含めて父親が国会議員だった人が、首相を含めて8人。4割を占めます。ほかにも、夫や伯父など親族に国会議員経験者がいる人を含めると11人で半数を超えます。

首相に限ると世襲率はさらに高く、1996年に小選挙区制が導入されて以降の首相12人のうち、世襲でないのは菅直人、野田佳彦、菅義偉の3氏だけで、自民党に限れば菅義偉氏1人。ほかは全員世襲です。

また、衆院議員全体で見ると、全465人のうち102人が「父母や祖父母、または三親等内の親族に国会議員がいて、同じ選挙区から立候補して当選した」いわゆる世襲議員です。党派別では自民党が断トツで、261人中84人。3人に1人の割合で、この中には3世、4世議員も含まれます。

「親ガチャ」と重なり若者の政治離れを加速化

中でも最近話題になったのは、防衛大臣だった岸信夫氏の辞職に伴う4月の衆議院山口2区補欠選挙で当選した、岸氏の長男・信千世氏でした。選挙前に立ち上げたホームページに、曽祖父の岸信介氏やその弟の佐藤栄作氏、伯父の安倍晋三氏ら、首相経験者3人を含む国会議員6人が並ぶ家系図を載せて批判が相次ぎ、ホームページの閉鎖に追い込まれました。

そこへ加えて「首相公邸ファミリー忘年会」が明るみに出て、改めて世襲問題がクローズアップされたわけです。もちろん、世襲はそれ自体が悪いわけでなく、憲法も職業選択の自由を定めていますから、政治家の子供が政治家を目指すのも自由です。しかも選挙で当選するということは、有権者がその人を選んでいるわけですから、批判は当たらないという意見もあります。

ただ、世界的に見て日本の政治家の世襲率はかなり高く、朝日新聞が紹介したアメリカの研究者の調査では、タイやフィリピンなどに次いで世界で第4位。先進7か国では突出していて、イギリスの貴族院ですらおよそ1割です。しかも先ほど言ったように、首相に限れば小選挙区制導入以降の12人中9人、閣僚も近年は半数前後が世襲という、国際的にみればちょっと異様な状況です。これが、昨今の「格差社会」や、「親ガチャ」と言われるような格差の固定化と重なって映り、若者の政治離れを加速しているとも言われるわけです。

選挙は『地盤』『看板』『カバン』

では、なぜこんな状況になったのか、です。

一つには小選挙区制の導入があります。中選挙区制だった当時は、一つの選挙区で複数の与党議員が立候補することが多く、トップ当選もよく入れ替わっていました。それが1人しか当選しない小選挙区になって候補の固定化が進んだうえ、比例復活という制度もあって与党の候補は落選しにくく、選挙区ごとに“殿様”が生まれやすくなったんです。

さらにこれは制度上の欠陥だと思うんですが、選挙資金の問題もあります。一般に親から子へ相続があれば、額に応じて相続税がかかりますが、政治家には抜け道があります。政治団体の継承です。例えば、現職の国会議員が毎年、自分の政党支部に寄付を続けて、総額が何億円になっても、その政党支部を引き継いだ子供に相続税はかかりません。

よく「選挙は『地盤』『看板』『カバン』」と言われますが、地盤の後援会と、親の名前という看板を引き継いだうえ、政治資金というカバンも残されれば、そりゃあ選挙は強いですよ。実際、日本経済新聞の調査では、小選挙区制の導入後、世襲議員の当選率は8割近く、それ以外の当選率3割に比べて突出して高いと言います。

しかも、世襲議員はそうでない議員に比べて初当選年齢が低く、例えば小選挙区制で首相に上り詰めた世襲議員9人の初当選年齢は、福田康夫氏の54歳を除いて全員20代から30代。政界は一般に、年齢ではなく当選回数で序列が決まるので、若くして当選すればそれだけ早く入閣できるので、必然的に大臣も首相も世襲議員が多くを占めるようになるわけです。

一極集中、男女格差、機会不均等…世襲の弊害

繰り返しになりますが、現実がそうだということで、世襲議員が悪いというつもりはありません。ただ、結果として弊害は生まれています。

一つは、彼らの多くが選挙区で育っていないということです。特に父親が国会議員である場合、選挙区が地方でも育ったのは東京、というケースが多く、特に首相に限れば、小選挙区導入以降の世襲の首相9人中7人が選挙区ではない東京の高校を卒業しています。

以前は全く逆で、田中角栄氏から昭和の最後の首相だった竹下登氏までは全員が地方出身者でした。ただでさえ、定数是正で首都圏選出の議員が増える中、二重に議員の一極集中が進んでいるとも言えます。

また、日本的な家制度の中で、後継者はどうしても男子から選ばれやすく、女性議員が増えにくい理由の一つとも言われます。

そうして私が一番大きいと考えるのは、機会の不均等です。先ほど言った「格差の固定」ともつながるんですが、熱意や能力より、家柄が首相や閣僚など国家中枢への近道だとなると、社会のダイナミズムは失われて若者は希望を持ちにくくなり、ひいては国の衰退につながりかねないと、もしかしたら既にそうなりつつあるのではないかと心配しています。

絶望する前に投票へ

でも、そうしないための手はあります。一つは政治の力です。先ほど言った「政治資金の相続」に法的な規制をかけるとか、政党が自ら、親族が同じ選挙区で立候補することを禁じるとか、仕組みを改めることです。

実際、日本でも政権交代選挙となった2009年の総選挙で、旧民主党は3親等以内の親族が同じ選挙区を引き継いで立候補することを認めない、と党のルールに明記し、これに対抗して自民党も同じく「次の総選挙から公認、推薦しない」と公約しました。政権復帰とともに反故にされましたが、ぜひもう一度考えてほしいものです。

そして私たち有権者ができることは、投票率を高めることです。投票率が低ければ、結果的に後援会などの固定票を持つ候補が強くなり、世襲に有利に働きますが、投票率が高くなれば、浮動票も獲得できる候補でなければ当選できず、今よりもっと人物・政策本位の選挙になるはずです。

日本は残念ながら世界194の国と地域の中で国政選挙の投票率が139位と低く、先進国の中では最下位レベルです。次の総選挙は、早ければこの秋とも言われています。「どうせ何も変わらない」と絶望する前に、投票に行きましょう。

◎潟永秀一郎(がたなが・しゅういちろう)
1961年生まれ。85年に毎日新聞入社。北九州や福岡など福岡県内での記者経験が長く、生活報道部(東京)、長崎支局長などを経てサンデー毎日編集長。取材は事件や災害から、暮らし、芸能など幅広く、テレビ出演多数。毎日新聞の公式キャラクター「なるほドリ」の命名者。

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