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南海トラフ巨大地震の被害想定10年ぶり見直しへ…新たな課題とその対策

国の中央防災会議が10年前に公表した、南海トラフ巨大地震の被害想定を見直すことになり、今週その初会合が開かれた。九州でも大きな被害が想定されているこの地震について、RKBラジオ『立川生志 金サイト』に出演した、元サンデー毎日編集長・潟永秀一郎さんは「特に若い人ほど、今から備えてほしい」と呼びかけた。

100~150年周期で起きる巨大地震

中央防災会議というのは、災害対策基本法に基づいて設置された、国の災害対策の司令塔で、トップは総理大臣です。このうち特に大きな被害が予想される災害は、「防災対策推進検討会議」のワーキンググループで、専門家が、予想される被害や被害を減らすための対策などを検討して報告します。

南海トラフ巨大地震については2013年に報告書を出しているんですが、この10年間で社会も街も変わったことから、その見直しに着手することになったわけです。

なぜいま見直すのか、については後で説明するとして、その前に、この南海トラフ巨大地震がどれくらい大きな被害をもたらすとされているのか、そして10年前に設定した「減災=被害を減らす」目標はどうなったのか、についてお話します。

まず「南海トラフ」についてですが、これ本州のほぼ西半分に匹敵する長さで、東は静岡県の駿河湾から西は宮崎県・日向灘沖まで、およそ600キロにわたって連なる水深4,000メートル級の深い溝です。

ここで何が起きているかというと、海側のプレート=つまり海底=が年に3~5センチくらいずつ陸側に動いて、日本列島がある陸のプレートの下に沈み込んでいます。これがスルスル入っていってくれればいいんですが、岩盤と岩盤ですから、当然ギシギシとこすれて、陸側のプレートの端は、下に沈み込む海側のプレートに引きずり込まれ、限界に達すると跳ね上がって巨大地震が起きる、と、そういう仕組みです。

跳ね上がるまでの限界は、おおむね100~150年。実際、過去もこの間隔で大地震が起きていて、前回は1944年(昭和東南海地震)と1946年(昭和南海地震)に起きました。それからもう80年近く経っていますから、そう遠くない将来に起きるであろうというのは、残念ながら根拠のある予測なんです。

震度7が広範囲で発生、死者は最悪32万人

では、その規模ですが、トラフ全体が一気に動いた場合、最大震度は静岡や高知、宮崎県などの一部で「7」とされます。これは気象庁の「震度階級」で最も高く、阪神大震災や東日本大震災、熊本地震など、日本の観測史上5回しかなく、それが広範囲に各地で起きればまさに未曽有。その周辺部でも震度6と予想され、九州ではほぼ東半分が震度5以上と想定されています。

また、先ほど言ったように海底で地面が跳ねますから、広範囲で大津波の発生が予想され、関東から九州にかけての太平洋岸では最大20メートル、瀬戸内海や九州の西岸でも最大5メートル程度の高さになるとされます。

いずれも最大規模の場合ですが、起こり得る予想です。これ、ネット検索で「気象庁」「南海トラフ地震」「地図」と入力すれば、最大震度と津波の分布が見られますから、ぜひ一度ご覧になることをお勧めします。

次に被害想定です。これもあくまで「最悪」の場合ですが、建物の全壊、または焼失がおよそ240万棟。死者は32万人に達すると予想されています。阪神大震災が6,437人、東日本大震災でも2万2,252人ですから、その規模の大きさがお分かりいただけると思います。

併せて、水や電気、交通など、ライフラインの被害想定もお話しすると、▽断水被害がおよそ3,400万人▽停電が2,700万軒▽電話は各地で3~9割が不通になり▽道路は3万から4万か所、鉄道は1万か所以上で破損して、避難者は最大950万人発生すると想定されています。ちょっと凄まじ過ぎて実感が湧かないかもしれませんが、これも国の中央防災会議が公表しているデータです。

10年間で生まれた新たな課題

では、この被害想定を、なぜ今見直すのか、についてお話しします。

一つは、10年前に想定を公表してから進んだ被害対策や、最新の研究成果を反映するためです。国は来年4月までに死者を8割、全壊する建物を半分に減らすことなどを目標とする基本計画を作り、対策を進めてきました。

例えば、津波の襲来に備える「避難タワー」はこの間、静岡や高知を中心に500棟以上が建設され、2分の1だった国の補助率が去年から3分の2に引き上げられたことで、さらに建設が進むとみられています。また、住宅の建て替えも進み、10年前には1,500万戸近くあった古い耐震基準の家が、今はおよそ1,000万戸まで減りました。マンションなどビルの耐震化率は9割を超えています。

ただ、それでも来年までにこの目標は達成困難だと、見直しに関わる専門家は率直に認めています。

一方で、新たな課題も生まれています。例えば、過疎化や高齢化です。人口が減った地方の市や町は財政力が弱まり、災害対策に充てるおカネも足りません。結果として、役場の庁舎や、避難所となる体育館や公民館ですらまだ1割前後が耐震化されず、警察署では14%にも上ります。

その多くが過疎地で、耐震化されない古い住宅も多いうえ、高齢者ばかりの集落では避難を手助けする人もいないという厳しさです。孤立する集落は、10年前の想定では最大で2,300と想定していましたが、さらに増える可能性が高そうです。

一方で、都市部ではタワーマンションなど超高層ビルの増加という、新しい課題もあります。大地震ではこれら超高層ビルをゆっくりと大きく揺らす「長周期地震動」が発生して、家具の転倒やエレベーターの閉じ込めなどが起こります。とりわけエレベーターの閉じ込めは深刻で、南海トラフ巨大地震では、被災や停電などで最大2万3,000人が閉じ込められるとしていて、被害が広範囲に及ぶと救助までかなりの時間がかかることも予想されます。

こうした様々な要素を加味して、国のワーキンググループは、新しい被害想定と対策を検討します。ここまでお話ししたのは最悪の想定で、ちょっと怖い話になりましたが、でも、起こり得ることだということはご理解ください。

今すぐにでもできる防災対策を

さて、では私たちはどうすればいいのか、です。一つは、避難対策です。先ほど、南海トラフ巨大地震の最大震度と津波の分布図は、一度はご覧になるようお勧めしましたが、改めて言います。ネット検索で「気象庁」「南海トラフ地震」「地図」と入力すれば出てきます。この地図でお住いの場所やご実家が危ないと思われた方は、必ず避難経路や避難先を確認してください。

特に津波の襲来が予想される所では、避難タワーや高台への最短の道を、実際に歩いてみることをお勧めします。福岡は比較的安全とされますが、ご実家が危険地域の方は、帰省の折にでもぜひお願いします。

また、買うにせよ借りるにせよ、住まいを選ぶときは、その地域のハザードマップを必ず見るようにしてください。例えば福岡市ならネット検索で「福岡市」「ハザードマップ」と入れれば、市のデータが見られて、地震だけじゃなく洪水や土砂災害など様々な危険度がわかります。もちろん、建物が耐震基準を満たしているかも大事で、最新の基準は2000年6月以降なので、参考にしてください。

そして誰でもできるのは、非常袋などの備えです。東京も首都直下地震がいつ来るかわかりませんから、私は大きなリュックサックに現金と保険証などのコピー、懐中電灯や万能ナイフ、携帯の充電器など詰めて、非常食と水などは1週間分用意しています。また、家の電球の一部は停電しても数時間消えないものに替えていて、カセットボンベが燃料になる発電機も近いうちに備えようと思っています。

非常袋はまだ、という方は中身もセットになったものが売っているので、これを買う手もあります。進学や就職などで、お子さんが家を離れた方は、ぜひ準備しておくようお伝えください。

「心配性だなあ」と思われるかもしれませんが、1991年の雲仙普賢岳災害で同僚3人を亡くし、1993年の鹿児島水害で実家が被災し、1995年の阪神大震災を発生初日から取材した者として、私は警鐘を鳴らし続けようと思っています。

何も起きなければそれに越したことはありませんが、南海トラフ巨大地震も首都直下地震も「今後30年で70~80%」の確率で起きる可能性があるとされます。特に若い人ほど、今から備えてほしいと、心から思います。

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