昨今の福岡グルメでも、特に勢いあるジャンルの一つが寿司です。数年前から出店ペースが加速し、志ある職人が切磋琢磨。福岡の寿司文化が今後どこまで成熟するのか楽しみです。
が、選択肢が増えれば店選びにも迷うもの。ある意味贅沢な悩みですが、「天音」はそんな時の“正解”になるかもしれません。なにしろ福岡でも類のない寿司体験が待つ店なのですから。

「天音」が入居するビルは、薬院大通と薬院六つ角の両交差点の中間あたり。交通量の多い一帯ながら、2階にあるため隠れ家的な静けさを感じます。
僕はこれが初訪問ですが、前から近くを通るたび、こちらの看板──つまり「鮨」と「天草大王」の不思議な組み合わせが気になってたんですよね。一体どんな美味に出逢えるのか?と期待を込めて暖簾をくぐりました。

L字のカウンターとテーブル2卓を持つ店内は、開放的で明るい空間。板場では店主の舩田万紀夫さんが、淀みない所作で仕事に励んでいます。東京の寿司店などで研鑽し、福岡の「たつみ寿司」総本店では料理長を任された熟練職人です。
さっそく先の“謎”について尋ねると、「天草大王は私の故郷・熊本県天草市に伝わる地鶏のこと。父と兄が実家で養鶏をしており、それをコースに取り入れたんです」と答えてくれました。他の食材も天草産が多く、実に7割を占めるそう。「この店が、お客様と地元生産者を繋ぐ“天草の魅力発信基地”になればと願っています」

そんな郷土愛が彩るコース(18,000円)は20品前後と内容も多彩。この夜もヤリイカの沖漬け、天然トラフグのてっさ、低温で蒸した牡蠣など、のっけから魅惑の海の幸が舌を喜ばせます。
ヨコワマグロ・シロアマダイ・トリガイのお造り3点盛りもハッとするような美味でした。大半の魚介は、同郷の放送作家で美食家の小山薫堂氏に「ここの魚は間違いなし!」と紹介された天草の「本田屋」から仕入れたもの。東京の高級店も信頼を寄せる鮮魚店だそうですよ。

さらに、天草大王の出汁を用いた茶碗蒸しに続き、胸タタキ・砂肝・白肝の「天草大王3点盛り」が供されました。歯触りと香味が抜群で鮮度も最高。同じく絶品だった茶碗蒸しと共に、この地鶏のポテンシャルを見せつけます。
「かつて昭和初期に絶滅した天草大王は、地元の人々の努力で復活した“幻の地鶏”です。全国の地鶏を食べ比べましたが、私にはこれが一番ですね」と舩田さんが胸を張りました。

さて、ここからは料理を交えつつ寿司が登場。江戸前の技法に「たつみ寿司」譲りの創作要素を加えた、舩田さん曰く“良いとこ取り”の握りが10貫以上味わえます。写真は左からシロアマダイ、マグロ、車海老、地アジ、紫ウニ(※コースでは1貫ずつ提供)で、大間のマグロ以外は天草産。なかでも舩田さんの同級生が養殖し、築地で高い値がつくという車海老は見事でした。
奥様の実家で作る糸島産の無農薬米に、赤酢と米酢を合わせたシャリの酸味もまろやか。いくら食べても食べ飽きることがありません。


合間に出される料理も印象的で、寿司と呼応しながらコースの完成度を高めています。特に少量のシャリ、鰹出汁、あおさを一緒にかき混ぜ、リゾット風にした天草産天然トラフグの白子は秀逸。贅沢なコクと風味が満ちた一皿です。
また、香ばしく焼きあげた天草大王のモモ焼きもかなりの存在感。柔らかな身から溢れる動物性の脂が、優美な寿司の世界に骨太なアクセントを加えていました。

こうして寿司×地鶏のコラボから生まれるのは、まさに「天音」だけの楽しき個性。けれども決して気をてらわず、ひたむきに食材の真価を引き出す仕事ぶりには正統派の矜持さえ感じます。時折、天草の風光美明媚な景色が浮かぶような食事でした。
加えて、上質な食材を惜しまず使うボリューム感も嬉しい限り。「私自身、高級店のコースに物足りなさを覚えることが多くって。なので、いつも“お腹一杯になったよ!”と言ってもらえる内容を心がけてます」と舩田さんが微笑みました。いずれは天草大王の水炊き屋を出す夢もお持ちとか。そちらも待ち遠しいですね!
この記事は積水ハウス グランドメゾンの提供でお届けしました。
住所:福岡市中央区薬院2-2-28レキシントンスクエア薬院2F
電話番号:092-791-2167 要予約
営業時間:12:00~最終入店13:00/18:00~最終19:30
定休日:日曜、隔週月曜
席数:カウンター8席、テーブル8席
個室:なし
メニュー:ランチコース8,000円~、昼夜コース18,000円
URL:https://www.instagram.com/amane.yakuin
この記事はいかがでしたか?
リアクションで支援しよう