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部活遠征のバス事故から考える:現場への甘えと安全確保の限界

山本修司

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福島県郡山市の磐越自動車道で5月6日、新潟市にある北越高校の男子ソフトテニス部の生徒を乗せたマイクロバスがガードレールに突っ込み、男子生徒1人が死亡するという事故が起きました。今回の事故は部活の遠征中に起き、過去にも同様の事故が起きていることから、全国から「他人事ではない」という声が上がっています。5月15日放送のRKBラジオ『立川生志 金サイト』に出演した、毎日新聞出版社長でジャーナリストの山本修司さんが、バスでの遠征をめぐる安全性の問題についてコメントしました。

伝説的な指導者たちと過酷なバス遠征の背景

私も中学、高校の部活動でサッカーをしていました。特に強豪校ではなかったので、バスでの遠征ということはありませんでした。遠征といえば、長崎・国見高校サッカー部の監督だった小嶺忠敏さん(2022年1月に76歳で死去)を思い起こします。自らマイクロバスのハンドルを握って全国各地に遠征して強豪校と試合をし、全国高等学校サッカー選手権大会で通算6回の優勝を果たすまでに育て上げたことはよく知られています。

これに感化されたのが青森山田高校の元監督で、現在J1町田ゼルビア監督の黒田剛さんです。1987年の夏、北海道で全国高校総体(インターハイ)が開催されたとき、黒田さんは登別大谷高校2年で、大会前に練習試合で国見と対戦しました。

そのときに、小嶺さんがバスで長崎から北海道まで来たのに衝撃を受け、「こんな情熱を持った監督に教えられる選手は幸せだ」と憧れて、青森山田のコーチに就任した1994年に大型免許を取り、自らハンドルを握って全国各地を回りました。

黒田さんが負けず嫌いなのは有名ですが、バスの走行距離でも小嶺さんに負けたくないと、夏休み1か月間で運転した距離が7200キロを超えていたというのです。日本からアメリカ西海岸まで行ける距離です。そして青森山田は全国高校サッカーでの優勝を4回も重ねています。

これらはいまや伝説のようになっているのですが、監督やコーチはただでさえ重労働で、練習試合であれば自分の試合が終わったあとに審判を務めたり、選手や試合相手にも気を遣ったりと、選手以上に疲れ切ってしまうのです。さらにその後に、大事な選手の命を預かって緊張して大きな車を運転するのですから、その身体的・精神的負担は想像を絶するといえます。

そこまでしてバスで遠征したいと思うのには、主に二つ理由があります。 一つはいわゆる地域格差です。 サッカーに例を取ると、今でこそ地方都市にもプロチームがあって、全国大会で入賞するようなチームがありますが、かつては長崎や青森といった地域では周辺に強豪校がなく、東京や埼玉、静岡といった地域に遠征しなければ、強いチームと対戦できませんでした。

情熱のある指導者は、選手を強豪と対戦させたいと思いますし、名前を売りたいという気持ちも起きます。九州や東北に帝京高校や静岡学園はわざわざ来てくれませんから、こちらから行くしかないのです。今回の事故での競技はソフトテニスでしたが、別の競技でも同じような状況はあるのだと思います。

もう一つの理由は遠征費の問題です。実はこれが大きいのです。 修学旅行や遠足など学校の公的な行事の場合には、プロのドライバーが運転する貸し切りバスが使われます。料金は高くなるのですが、公的行事ということでしっかりと予算化され、生徒らの安全も確保されます。

一方で、部活動は「自主的な活動」ですので、リスク管理が現場に任せがちになるうえ、予算の都合もありますから、指導者自らが運転したり、レンタカーを使ったりして費用を安く済ませることにつながるわけです。

繰り返される悲劇と見え隠れする問題点

そんな中で、九州では2009年7月に、柳ケ浦高校の野球部副部長が運転するマイクロバスが大分県日出町の大分自動車道で横転して、部員1人が亡くなりました。2011年には、大分県立森高校の野球部員が乗り、保護者が運転するマイクロバスが事故を起こし、監督が亡くなり部員ら6人が重軽傷を負いました。

それで今回の事故ですが、運転手の個人的な問題がいろいろと報道されていますが、まだ全容が解明されていない中で分かっていることは、貸し切りバスではなくレンタカーが使われ、運転していたのはプロのドライバーでなかったことです。学校側とバス会社側の主張がすれ違っていて、費用を抑える意図があったかなどは分かりませんが、少なくとも、学校側は現場に任せていて、結果として安全面で問題があったことは確かです。

私は、遠征はとても貴重な経験だと思いますし、バスで遠征できるチームをうらやましくも思っていたのですが、それを規制する動きは早くも出ているようです。静岡県富士市は事故前の2018年から、中学校の部活で「県外遠征は基本的に認めない」という方針をガイドラインに明記しています。

また、電車やバスといった公共交通機関では行けないような遠征は禁止とか、プロが運転しない乗り物での遠征は認めないというような動きも一部で出ているようです。

「安全と費用」のバランスと学校・現場のコミュニケーション

先ほど紹介した小嶺さんや黒田さんのように、監督や保護者が免許を取ってバスを運転するのは大変ご苦労なことで、一方で危険も伴うのですが、その背景に焦点を当てますと、学校や教育委員会が現場に甘えている構図が浮かび上がります。

しっかり状況を把握して管理をすると、安全な観光バスを使えということになり、お金が足りないなら断念せざるを得ないということになります。それでは遠征ができなくなってしまう、チームを強くする機会を減らしてしまうということから、監督や保護者らが免許を取ってハンドルを握ることになって、学校などはそこに任せてしまっているわけです。

身近なところでも、私がかつて指導していた少年サッカーでは、大会会場まで保護者が車を出してくれるのは本当に助かりました。バスや電車を乗り継いで言うことを聞かない子供を移動させるのは大変ですし、会場が駅やバス停から近いとは限りませんので。

ただ、保護者からは「もし事故を起こしたら、善意で車を出した親が賠償責任などを負うことになりますね」と言われたことがあります。結局私も甘えていたわけです。他のチームでは「本来なら小型であっても貸し切りバスで行くべきで、お金を払うのが嫌なら大会に参加しなければいい」という極論も出ていたといいます。

文部科学省は今回の事故を受けて、部活の遠征について何らかの対策を出す方針ですが、結局は「安全と費用のバランス」にならざるを得ません。そうなると、費用面で遠征をあきらめることも増えますし、貸し切りバスを使うことが増えたとしても人手不足の中ですから、貸し切りバス側にも注文が増えれば受けられないという事態も考えられます。

事故のリスクを全くゼロにはできない中で、限られた費用の中で遠征をするのであれば、せめて今回の事故のように「もっと確認しておけば良かった」ということのないように、学校と現場がコミュニケーションを取っていくしかありません。完全な対応策はありませんので、保護者も含めて学校と現場が協力して遠征について考えていかなければならないと思います。

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この記事を書いたひと

山本修司

1962年大分県別府市出身。86年に毎日新聞入社。東京本社社会部長・西部本社編集局長を経て、19年にはオリンピック・パラリンピック室長に就任。22年から西部本社代表、24年から毎日新聞出版・代表取締役社長。