日本の少子化が想定を上回るペースで加速し、社会基盤を揺るがす「静かなる有事」が深刻さを増しています。特に都市部における住居費の高騰が出生率の低下と強い相関関係にあることがデータから鮮明になる中、実効性のある住宅施策の重要性が問われています。
少子化対策の現状と課題、そして今後私たちが向き合うべき優先順位について、5月8日放送のRKBラジオ『立川生志 金サイト』に出演した、元サンデー毎日編集長の潟永秀一郎さんが解説しました。
加速する少子化と「静かなる有事」の深刻さ
厚生労働省は2025年の出生数は過去最少の70万5809人だったと発表しました。毎日新聞によると、最少を更新するのは10年連続。しかもこれは速報値で在日外国人なども含んでいますから、6月に公表される日本人だけの出生数は、去年のおよそ68万6000人をさらに下回る見込みです。
数よりもっと怖いのはその減り方で、国立社会保障・人口問題研究所は23年に公表した将来推計で、出生数が70万人ほどになるのは2042年とみていましたから、それより17年も早いペースで少子化が進んでいるんです。 一方、亡くなった方はおよそ160万人でしたから、出生数から死者数を引いた「自然減」はおよそ90万人。減少は18年連続で、その数は過去最大です。
人口減は「静かなる有事」と言われ、災害や戦争のように目には見えませんが、徐々に、でも確実に国力や社会基盤を崩壊させる深刻な危機です。日本のGDP(国内総生産)は2023年にドイツに抜かれて世界4位となり、今年インドに抜かれて5位になる見通しです。
また、将来的に消滅する可能性のある市区町村は、実に全自治体の4割にのぼるとされ、帝国データバンクによると、それ以前にもう、人手不足による企業の倒産が3年連続で過去最多を更新しているといいます。
政府は2023年の岸田政権当時に「異次元の少子化対策」を打ち出し、年間3.6兆円規模の予算をかけて、児童手当の拡充や教育の無償化、子育て支援の充実などを進めるとしていますが、まだその効果は見えていません。
東京の住宅事情が子どもを持つことをためらわせる?
このうち「住宅施策」に絞って、少し考えてみたいと思います。なぜ住宅施策なのか? きっかけは、都内に住む二組の30代夫婦の話でした。
一組は、2人とも都内の大企業に勤める夫婦。おととし23区内にマンションを買ったのですが、都内のマンション価格は平均1億円を超えていますから、この夫婦も億ション=1億円超えです。30年ローンで、毎月の返済額はゆうに30万円を超えるといいます。
もう一組は賃貸。こちらも共働きですが、子どもが生まれて1LDKのマンションが手狭になり、借り換えた3LDKの家賃は何とおよそ40万円です。だったら買えば良さそうですが、夫の給与は成果報酬が多くて不安定なため、踏み切れなかったそうです。
それでもまだ払えるからいいし、さすがにこれは東京でもごく一部の話でしょうが、ただ、23区内の分譲マンションの平均価格が新築で1億3000万円を超えているのも現実です。直近2024年の合計特殊出生率(女性が生涯に産む子どもの数)で、東京だけが「1」を下回る0.96だったのも「そりゃそうだよな」と思ってしまいました。
そこで、調べてみました。合計特殊出生率と住居費の相関関係を。すると、見事にこれが、リンクするんです。
出生率と住居費に見られる明確な相関関係
まずは、合計特殊出生率の都道府県別順位です。ランキングがある2023年のデータによると、上位は沖縄、長崎、宮崎、福井、佐賀などで、下位は東京、北海道、宮城、秋田など「西高東低」が顕著です。また、神奈川、千葉、埼玉など首都圏も軒並み40位以下で、京都や大阪なども含めて大都市圏はほぼ低く、これは1990年以降10年刻みで見ても、ほぼ同じ傾向でした。福岡は全国平均に近く、だいたい30位前後です。
同じ地方でも(都会ではない、という意味の「地方」です)、沖縄や九州が高く、東北が低いのは、若年人口の男女比が影響しているようで、九州・沖縄は女性の方が多く、東北は逆です。
背景には、東北では進学や就職などで東京などに転出するのは、男性より女性のほうが多いという事情があります。結果として東北では婚姻率も低く、「若い女性が少ない → 婚姻数が少ない → 出生数が少ない」という悪循環にあるようです。また北海道の出生数の低さは、札幌への一極集中の弊害が大きいとも言われます。
ちなみに、都道府県別で婚姻率(人口に対して1年間に結婚した人の割合)が最も高いのはどこだと思います? これが「東京」なんです。2022年のデータですが、2位の沖縄を除いて、愛知、大阪、福岡、神奈川――と、こちらは政令指定都市がある県が並びます。つまり大都市圏では、「結婚は多いのに出生数は少ない」現実があります。
ここから住居費と出生率の相関関係を見ていきます。
まずは、分譲です。マンションの平均坪単価と合計特殊出生率のデータを突き合わせると、価格が高い県ほど出生率が低い傾向が明らかでした。 東京や神奈川、大阪など坪単価が高い方から上位10県の合計出生率の平均は1.10で、この年(2023年)の全国平均1.20より低い一方、徳島や香川、山口など下位10県では出生率が1.30と高く、また沖縄や宮崎など出生率の高い方から上位10県の坪単価は平均およそ100万円で、全国平均206万円のほぼ半分でした。
次に、賃貸です。こちらも全く同様で、東京や神奈川など家賃が高い方から上位10県の出生率は1.15と全国平均より低く、逆に鹿児島や宮崎など家賃が安い方から10県の出生率は1.35と、平均を上回りました。
また、出生率上位10県の平均家賃4万3000円に対し、下位10県(家賃が高い順の上位10県)はおよそ6万円、中でも東京は9万円です。平均家賃は狭いアパートなども含むので、2LDK以上のファミリータイプはこれより5割程度は高いとみられ、これを反映すると、出生率上位と下位の、家賃の差はさらに開きます。
もちろん、少子化の原因は複合的で、住居費はその一部に過ぎないことは分かっています。ただ、こんなデータもあります。収入と婚姻率の関係です。 厚生労働省の2024年「賃金構造基本統計調査」で、サラリーマンの平均月収上位は東京、神奈川、愛知、大阪の順で、順位こそ違いますが同じ年の婚姻率上位と同じ顔触れです。
つまり、収入の高さと婚姻率の高さには強い相関関係があるのに、それが出生数には結びつかない。それどころか、愛知を除くと東京都の最下位をはじめとして、むしろ出生率は低い都府県ばかりで、その低さは住居費の高さと強い相関関係があります。
少し荒っぽいまとめ方をすると、ある程度収入が高くて結婚はできても、住居費が高い所では子どもを持つことをためらったり、2人目からはさらに躊躇する傾向が、うかがえます。
国の住宅施策の現状と求められる実効性のある支援
では、国はこれにどんな対策を打ち出したのでしょう。目玉は、「2025年から10年間で、公営住宅などへの子育て世帯優先入居枠を20万戸確保する」ことですが、そもそも日本では公営住宅が少なく、全住宅の3%ほどしかないうえ、近年はむしろ減少傾向です。
例えば東京都営住宅の応募倍率は平均およそ20倍です。古い団地の建て替えなどが進まない限り、20万戸の確保は難しいとみられますが、建設費が高騰する中で果たして可能なんでしょうか。もし確保できたとしても、月収十数万円以下などの厳しい所得制限を外さない限り、共働き世帯はほとんど利用できないという問題もあります。
また、既に始まっている「子育て割」制度では、例えばUR都市機構の賃貸住宅に入居する場合、新婚世帯は最長3年間、子育て世帯は同じく6年間、家賃を最大20%(2万5000円まで)減額されますが、都市部の物件は限られています。
検索して驚きましたが、入居シーズン直後とはいえ、空室は都内でゼロ。福岡市で検索しても2室でした。公営住宅には限りがある中、「空き家の活用で10万戸を確保する」施策も盛り込まれましたが、相続など複雑な問題が絡む中、これもそう簡単な話とは思えません。
財源の問題はありますが、実現可能性で言えば、むしろ家賃補助でしょう。見本となる国があります。近年、出生率が低下しているものの、2010年に2を超えるなど、長く高水準を維持したスウェーデンです。
大きく寄与した施策の一つが、補助による家賃負担の軽減制度です。若者と中所得以下の子育て世帯が対象で、子どもが多いほど支給額が増え、例えば子ども1人ならおよそ6万4000円までの家賃に対して6割強の最大4万1000円、3人以上なら同じくおよそ8万円に対して8割近い6万3000円も補助されます。
また、住宅政策は「すべての人に良質で適正価格の住宅」を原則とし、全住宅の2割以上を占める公営住宅が所得制限なしで利用できます。
うらやましい限りですが、「まぁ、スウェーデンは高福祉・高負担の国だから」と思いますよね。私もそうでした。2022年の国際比較を見ると、確かに消費税の標準税率が25%など、租税負担率は5割を超えますが、保険や年金など社会保障負担率は5%で、合計した国民負担率は55.5%です。
対して日本は、租税負担率こそ29.4%と低いんですが、社会保障負担率が19%と高くて、合計48.4%。将来の負担となる財政赤字分を含む「潜在的国民負担率」は54%程度で、スウェーデンと大差ありません。しかも、この社会保障負担の高さを招いている主な原因は少子高齢化ですから、少子化に歯止めがかからなければ、負担率はさらに上がる悪循環です。
「静かなる有事」と言われた少子化は、わずか3年前の想定を大幅に上回る速さで進み、もはや社会基盤の崩壊の音が聞こえ始めています。一方で、南海トラフや首都直下地震などの災害にも備えねばならず、侵略が相次ぐ国際情勢の中で防衛力強化の必要性も言われます。限られた財源をどう使うか、各地から届いた子どもたちの笑顔のニュース映像を見ながら、この子たちが将来も笑顔で暮らし続けられるよう、政治家任せにせず、私たち自身が優先順位を考えなければならないと思いました。
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