近年、「ナイトタイムエコノミー」という言葉を耳にする機会が増えています。これは、夜間の観光や飲食、イベント、ショッピングなどによって生まれる経済活動のことですが、なぜ今ナイトタイムエコノミーが注目されているのでしょうか。今回はその仕組みや経済効果、夜ならではの楽しみ方、今後の広がりについて紹介します。
ナイトタイムエコノミーとは?
「ナイトタイムエコノミー」とは、日没から日の出までの夜間(主に18時~翌6時)に行われる経済活動全般を意味します。
日本では長年、24時以降に飲食を伴うダンスやエンターテインメント営業は原則として禁止されていました。しかし、平成28年(2016年)の風営法改正により、新たな営業許可制度が創設され、一定の条件を満たせば深夜営業が可能となりました。この法改正を契機に、夜間の観光や消費活動を促進する「ナイトタイムエコノミー」が国や自治体の政策として本格的に推進されるようになります。
ナイトタイムエコノミーというと、24時間営業のコンビニや深夜営業の飲食店を思い浮かべる人も多いでしょう。しかし近年では、その範囲は大きく広がっており、夜間営業を行うアミューズメント施設やナイトツアー、ナイトクラブ、深夜営業のゴルフ練習場やフィットネスジムなど、多様なサービスが展開されています。
夜の時間帯には昼間とは異なる消費を生み出す大きな経済効果が期待されており、企業だけでなく自治体も積極的な取り組みを進めています。
ナイトタイムエコノミーが注目されている理由は?
なぜ今、ナイトタイムエコノミーが注目されているのでしょう。ここではナイトタイムエコノミーが注目を浴びている理由を紹介していきます。
インバウンド需要の拡大と観光消費の向上
訪日外国人旅行者は、日中だけでなく夜も観光や食事、エンターテインメントを楽しむ傾向があります。しかし、日本では海外の主要都市と比べて夜間コンテンツが少ない地域も多く、「夜の過ごし方」が課題とされてきました。
夜間イベントやライトアップ、ナイトツアーなどを充実させることで、旅行者の満足度や消費額の向上が期待されています。また、夜も楽しめる観光地になれば宿泊を選ぶ旅行者が増え、ホテルだけでなく飲食店や交通機関、小売店など幅広い業種への経済効果も見込めます。
地域経済の活性化
ナイトマーケットや夜間特別営業、ライトアップイベントなどを実施することで、昼間は利用されていない施設や空間を有効活用できます。
夜間にも人の流れが生まれることで、新たな売上や雇用が創出されるほか、観光客の滞在時間が延びることで地域全体への経済波及効果も期待されています。
既存資源を活用し、新たな観光コンテンツを創出
ナイトタイムエコノミーの魅力は、新しい施設を建設しなくても地域の資源を活用できる点です。
寺社や城、公園、美術館、動物園などを夜間に開放したり、プロジェクションマッピングや特別イベントを開催したりすることで、昼間とは異なる魅力を生み出せます。比較的少ない投資で新たな観光価値を創出できることから、自治体や観光地でも注目されています。
日中の暑さを避けて夜に楽しめること
ナイトタイムエコノミーが注目されているもう一つ大きな理由として、「暑さ」があります。
近年は異常気象が続いており、夏には耐えきれない暑さになる日も少なくはありません。猛暑日には日中外に出かけることを避ける人も増えており、夏場の日中はお客がほとんどおらずガラガラになっている飲食店やアミューズメントパークも目立つようになりました。
こうした猛暑日のお客離れの対策として、近年ナイトタイムエコノミーが注目されています。夜であれば、日中より涼しい環境で飲食や観光を楽しむことができ、ライトアップなどにより昼とはまた違った幻想的な景色を味わうこともできるため、夏場の集客アップに繋げられます。
とくにアトラクションや体験型ツアーといった屋外のコンテンツとは相性が良く、夏季限定でナイトコンテンツを用意するテーマパークも増えてきています。
ナイトタイムエコノミーの市場規模
以下の図は、海外諸国・都市と日本のナイトタイムエコノミーの市場規模をまとめたものです。

※出典:DBJResearch
※DBJは各地域で公表されている代表的な試算を参考値として掲載しているため、調査年度が異なります。
英国:約30.8兆円
英国は欧米諸国の中でも特に夜間経済を「主要な基幹産業」として位置づけています。ロンドンだけでなく地方都市も含めて、パブ文化、ライブミュージック、演劇などの夜間コンテンツが地域住民および観光客の日常生活に深く定着しており、国全体で30兆円を超える圧倒的な市場規模を誇ります。
日本:約22.0兆円
日本は居酒屋文化やカラオケ、夜間営業の飲食店など、治安の良さを背景とした「日常的な夜間飲食市場」のベースが非常に大きいため、国全体での市場規模は22兆円に達しています。しかし、その多くは国内消費に依存しており、海外の先進都市に比べると「観光客向けの文化・エンタメコンテンツ」や「夜間の移動インフラ」の整備が不十分であり、インバウンドを呼び込むための高付加価値化が今後の大きな伸び代となっています。
ロンドン:約3.7兆円
ロンドンは、ナイトタイムエコノミー政策の先進都市として世界をリードしてきました。金曜・土曜の夜に地下鉄を終夜運行する「Night Tube」の導入や、夜間経済を統括する「ナイトツァーリ(Night Czar)」の設置など、官民が連携して夜間のにぎわいづくりを推進しています。また、美術館や博物館では夜間開館やナイトイベントも開催されるなど、多様な文化体験を楽しめる環境が整っており、都市全体で夜間経済を支える仕組みが構築されています。
ニューヨーク:約2.1兆円
「眠らない街」の代名詞として知られるニューヨークは、24時間運行を基本とする地下鉄網を背景に、ブロードウェイの演劇、クラブ、ジャズバー、深夜営業のレストランなど多彩なナイトライフが世界中の観光客を魅了しています。市は2017年に「Office of Nightlife(夜間生活局)」を設置し、夜間経済の振興と地域住民との共生を図りながら、安全で持続可能なナイトタイムエコノミーの発展に取り組んでいます。
シドニー:約0.5兆円
他都市と比べて市場規模が小さく見える背景には、シドニー特有の事情があります。シドニーでは2014年、治安対策として深夜の入店や酒類提供を制限する「ロックアウト法」が導入され、ナイトタイムエコノミーは大きな打撃を受けました。その後、規制は2020~2021年にかけて段階的に緩和・撤廃され、現在は「24-Hour Economy Strategy」のもとで夜間経済の活性化が進められています。
近年、日本でもインバウンド拡大や地域活性化、文化発信の観点から、ナイトタイムエコノミーの経済・社会的価値に注目が集まっています。今後も訪日客の増加に伴う市場拡大が期待される一方、物価高騰や夜間の人手不足、治安悪化といった課題も浮き彫りになっています。
日本全国で広がるナイトタイムコンテンツ
日本では従来の枠にとらわれないユニークなナイトコンテンツや、その地域の特性を生かしたナイトコンテンツが続々と登場しています。ここではナイトコンテンツの実例を5つ紹介します。
東京ディズニーランド&東京ディズニーシー
平日午後17時からの入園となる「ウィークナイトパスポート」を用意。ライトアップされたシンデレラ城など、昼間とはまた違った雰囲気のディズニーを楽しめる点が人気です。料金が通常のチケットより安いことも魅力となっています。
富士サファリパーク
夏季限定で18時以降からの入園となる「ナイトサファリ」を実施。猛暑期間は動物たちも木陰であまり動かないことが増えますが、夜になれば活発になる動物も多く、夜でしか見られない一面を垣間見ることもできます。マイカー入場も可能であり、自分の車で夜のサファリパークを走り回れるのも面白い点です。
長野県阿智村 天空の楽園 ナイトツアー
第3回日本サービス大賞 地方創生大臣賞のナイトコンテンツです。人口約6500人の阿智村で、「満天の星」をテーマにしたロマンチック体験を提供するサービスであり、まさに夜にしか味わえないコンテンツとして成功した事例です。年間16万人もの観光客を呼び込んでおり、そのうち約4割は10~20代の若者が占めています。
大分県竹田市 くじゅう花公園「ナイトフラワーパーク」
夏季限定で18時以降からの入園となる「ナイトフラワーパーク」を実施。ライトアップしたひまわり畑が幻想的な光景をつくり出します。夜であれば高原の清涼な夜風も流れてくるため、真夏でも快適に公園内を楽しむことができます。
京都 夜間特別拝観
京都では、「清水寺」、「高台寺」、「八坂神社」、「伏見稲荷大社」など、多くの寺院が夜間の特別拝観を実施しております。例えば清水寺では、夜間特別拝観期間中は21時30分まで拝観が可能です。敷地内はライトアップされ、夜ならではの神秘的な空間を味わえます。
以上、ナイトタイムエコノミーについて解説しました。夜の時間帯であれば、昼間とはまた違った体験を味わえ、料金もリーズナブルなことが多いのも魅力です。夜は気温が下がり活動もしやすいため、これから暑くなる季節こそナイトタイムエコノミーのサービスを利用してみてはいかがでしょう。
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