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”スケープゴートか”懲戒解雇の元営業部門トップ「審査部門が見抜けたはずだ」~スルガ銀行の不正融資問題 第3弾【R調査班】

投資用マンションやアパートを舞台に、静岡県の「スルガ銀行」が不正融資を繰り返したとされる問題の第3弾です。調査班は、損害賠償を求めて福岡地裁に訴えを起こした県内に住む男性と、不正融資に関わったとして「スルガ銀行」を懲戒解雇された元営業部門のトップに話を聞きました。

ローン総額は2億6000万円あまり

提訴した公務員男性(50代)「自ら命を絶つ、こういうところで解決するしかないと思っていた時期はありました」

福岡県に住む50代の公務員の男性です。10年前、子供の学費や退職後の生活を考え、投資用として大阪府にある築24年の中古アパート1棟を購入しました。1億5000万円のアパートを購入するために組んだローンの総額は、2億6000万円あまりです。

提訴した公務員男性(50代)「葛藤というか悩みました。もし失敗したら大変なことになるんだろうなというのは普通にありました」

月に約20万円の赤字

男性の心配は、すぐに現実のものとなります。全26部屋のうち、25部屋が入居中の優良物件と聞いて購入したアパートは、実際には15部屋の入居しかない物件だったのです。15部屋分の家賃収入から銀行へのローン返済分を引くと、月に20万円ほどの赤字となってしまうため、男性はアパートを購入した不動産会社と家賃のほぼ全額が補償されるサブリース契約を結びました。しかし、このサブリース契約も6年後、一方的に解除されてしまったのです。

提訴した公務員男性(50代)「実際、入居率はどうなんですかと聞くと、私がアパートを手に入れて1か月後の状態と一緒だった。体が震えたというか支払い手段どうすればいいのか、寒気がする状態だった」

「(銀行から)ハシゴを外された」

サブリース契約が一方的に解除された時の男性と不動産会社の担当者との会話です。

*音声データ(提供 提訴した公務員男性)
提訴した男性「サブリース(契約を)して、そのサブリースを切るのも、いわゆる織り込み済みだったという話しやないとかな?って」

不動産会社の担当者「いえ。そういうわけではないんですけれども。お客様の物件の契約まで終わった段階で(銀行から)ハシゴを外されたんです。契約が終わっているので、違約金が発生して何千万という損害を受けた。それから(経営が)傾いているというところで、どうしても家賃が払えない」

「1億5000万円と評価したのは?」「スルガです」

不動産会社の担当は、物件の紹介を受けた銀行に裏切られ、会社の経営が悪化したことを契約解除の理由に挙げました。

*音声データ(提供 提訴した公務員男性)
提訴した男性「(アパートを)1億5000万円と評価したのはスルガ(銀行)でしょ?」

不動産会社の担当者「スルガです」

提訴した男性「(スルガ銀行から)1億5000万円で売ってきてと言われて、販売相手としておったのが俺やったけん、これでどう?って。そういうことやろ?」

不動産会社の担当者「そうです」

預金40万円を900万円以上に改ざんか

静岡県に本社を置く「スルガ銀行」の担当者が、1億5000万円で売るよう言ったとされる築24年の中古アパート。6年後に男性が査定を依頼すると、約9000万円の価値しかありませんでした。さらに、スルガ銀行に提出された男性の預金通帳のコピーをみると、40万円ほどしかなかったはずの預金残高が900万円以上に改ざんされていたことも発覚したのです。スルガ銀行の不正な融資により金銭的被害を受けたとして、男性は先月、約2億9千万円の損害賠償を求める訴えを福岡地裁に起こしました。

スルガ銀行側との溝は埋まっていない・・・

提訴した公務員男性(50代)「銀行というのは、信頼と公正だと思うんですよね。銀行という組織でありながら許されるはずがない。こんな銀行には負けられない」

スルガ銀行の不正融資問題。「シェアハウス」については、オーナー946人が物件を譲渡する代わりにローンを帳消しにする形で調停が成立しています。しかし、「アパート」や「マンション」については、「シェアハウス」と同様に一括での救済を訴える400人を超えるオーナー側と早期解決を目指すとしながらも、個別での対応とする銀行側との溝は埋まっていません。

懲戒解雇された元営業部門トップ

そもそも、厳格な審査が行われるはずの銀行で、ずさんな見積もりや預金通帳の改ざんなどが、なぜ起きたのでしょうか。「スルガ銀行」の元執行役員専務で営業部門のトップだった麻生治雄さんです。麻生さんは4年前、審査部門に圧力を加え融資を無理やり承認させたとする身に覚えのない理由で、スルガ銀行を懲戒解雇されました。

解雇された麻生治雄さん「呆然としていました。怒りとか悲しみとか越えていましたね」

「審査部門が見抜けたはずだ」と指摘

麻生さんは、不正が疑われる報告を受けたことがないと言います。融資の際、営業担当者と所属長による通帳原本のダブルチェックなどを徹底させていたためです。その上で、仮に報告がない形で不正な融資の手続きが行われていたとしても、審査部門が見抜けたはずだと指摘します。

解雇された麻生治雄さん「自己資金をこういう風に確認して原本を見ようと、もし問題点があったら、その時に部下と意見を交わせていた。それにも出てこなかった。審査の方は(不正融資を)はじくことができたんですから。審査に私たち(営業部門)が口を出せないところなんですよ」

判決“元営業部門トップの訴えをほぼ全面的に認める”

麻生さんは、スルガ銀行に「解雇の無効」や「給与の支払い」などを求め提訴。東京地裁は今年6月、麻生さんの訴えをほぼ全面的に認める判決を言い渡しました。東京地裁は「解雇理由になった行為の証拠はなく解雇は無効」とした上で「審査の担当者には、適正に融資審査をすべき職責があり、職責を放棄していたと言わざるを得ない」と指摘しています。

弁護士が語る「スルガ銀行不正融資の構図」

麻生さんの代理人弁護士は、スルガ銀行の不正融資の構図についてこう述べています。

麻生さんの代理人弁護士「執行役員、営業の責任者だった麻生さんをスケープゴートにしたわけですけれども、その前提が事実ではなかったと。ただ、現場で偽造、改ざんしていた行員のモラルハザードと、それを気づきながら職務放棄をした審査という構図がこの判決で明らかになったのかなと思いますね」

スルガ銀行「回答は控えさせていただきます」

今回の取材に対する「スルガ銀行」のコメントです。スルガ銀行に対して損害賠償を求めている福岡県に住む公務員の男性との訴訟については、「訴訟に関することなので回答は控えさせていただきます。当社はお客さまの個別の状況に応じてご返済を支援する提案を行うなど、誠実に対応しております」としています。
また、双方が控訴している元スルガ銀行・執行役員専務の麻生治雄氏との訴訟については、「当社としては全面的に麻生氏の言い分が認められたとは考えておりませんが、訴訟に関することなので回答は控えさせていただきます」としています。「スルガ銀行」が不正融資を繰り返したとされる問題について、R調査班では引き続き取材を進めていきます。

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