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著作権使用料めぐる判決に音楽プロデューサー・松尾潔が語った胸の内

ラジオ
音楽教室でのレッスン演奏に関し、JASRACが著作権使用料を徴収できるかどうかを巡って争われた訴訟で、最高裁は生徒の演奏に対しては徴収できないとした。RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演した音楽プロデューサー・松尾潔さんは「すべての人が納得する判決ではなかった」と、この問題に対する音楽人としての難しい心境を語った。  

音楽教室 生徒の演奏は著作権料不要

私のような音楽を作って生活をしている人間からすると、大変注目度の高いニュースだった裁判。JASRAC(日本音楽著作権協会)が、音楽教室から著作権使用料を徴収できるかどうか争われてきました。

 

10月24日に、音楽教室の教師の演奏からは使用料を徴収できるが、生徒の演奏からは徴収できないという判断が最高裁で下されました。私の周囲にいる、プロのミュージシャンとして活動している人たちも、みんな最初はアマチュア。練習している途中ですから、下手っぴな演奏ですから、そこから著作権使用料を取られるなんて、考えたこともなかったわけです。

 

これ早い話「ちゃんと熟練した演奏能力を持つ人からはお金をいただきますが、習っている途中の人からはいただきません」っていうのが今回の判決ってことになるんです。でも、生徒といってもすごくレベルの高い人もいる。その人からは取らない、教わるという立場であれば取らないんだということになれば、100%の人が納得できる判決ではないと思います。

音楽人 でも大前提として音楽ファン

普段から著作権を意識して行動している人はあまりいないと思うんですが、たとえば飲食店経営者で、自腹で買ったCDを店内で流していたら、そこにJASRACの人がやってきて、「お店で流しているんだったら、お金を払ってください」って言われた方がいるかもしれません。

 

「CDの価格には、あなたが聴くためのお金は含まれているけど、あなたが接客をするときに使用するお金は含まれてないのですよ」というのがJASRACの説明。でも「それが2500円するの?」みたいな話になっちゃうわけですよ。これ本当に決着つかない問題だなと。僕も音楽を作る人間ですが、音楽ファンの方が長いので、正直「うーん」っていうところもたくさんあるんです。

「でも、音楽をつくるのってお金がかかるんです」

うちの近所の理容室のおじさんはJASRACに怒って「私が自腹で買ったCDからさらにお金を取るなんておかしいと思う」って言って、店内で一切音楽をかけないと決めたんです。おまけに店の前にCDが入ったダンボール箱を出して、経緯を長い文章で書いて貼り出して、「ここにあるCD、みんなタダで持っていってくれ」って、怒りの行動に出たんです。

 

その人の気持ちも分かるんですけど、一方でやっぱり、音楽作るのってお金かかるんですよ。演奏するための楽器とかスタジオ代とかだけじゃなくて、ここまでの音楽を作るようになるまでに、結構お金をかけたんですよ。

 

それをサポートしていただくためにはやっぱり、演奏のための使用料だとか、2次使用料だとかっていうのをきちんと徴収しなきゃいけない。でも、徴収するためにミュージシャンが一つ一つ全部調べ上げることは事実上不可能なので、それをJASRACに代行してもらっているんです。

JASRACの“潜入調査”

JASRACの、ときに強行な姿勢は“潜入調査”なんて揶揄されることもあります。職員が音楽教室に入って、職業欄に「主婦」って書いて、そこで2年ぐらいバイオリンを教わって、それをレポートするとか。今回の判決にもそのレポートが証拠として使われているんです。さらに「先生の演奏は、それは豪華で素晴らしかったです」って証言したものだから「じゃあ、先生からはお金を取ろう」って話になってるんですよね。

著作権問題はすぐには解決できない

問題点をずらっと並べましたが「これ、すぐには解決できない」って思いませんでしたか? 妥協って言葉はよくないけど、着地点を見つける作業を丹念にやっていくしかないと思うんです。判決が出たから終わり、ではなく、これはまだ途上の課題です。

 

開店するまでの準備中に店内でCDをかけているときはお金取られないのに、1人でもお客さんが入ったらお金を取られるっていうのが、腑に落ちない。厨房のBGMがただ流れているだけじゃないかっていうふうに認識されている方もいるかもしれない。そもそも営利という言葉の定義がどこまで含まれるかっていうのも難しい問題ですね。

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