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日本のふるさと~飯山

暮らし

飯山市は長野県の北東部。新潟県との県境です。映画「阿弥陀堂だより」(小泉堯史監督。寺尾聰・樋口可南子出演)の舞台となったところといえばイメージしていただきやすいでしょうか。
ここでのイチオシは、何といっても「高橋まゆみ人形館」。人形作家の高橋まゆみさんが作ったお人形は、シワの刻まれ方や笑顔に人生が凝縮された、おじいちゃんやおばあちゃんの姿がメインとなります。ご自身がお嫁に来て、今も農家の奥さんとして生活している、飯山のおじいちゃんおばあちゃんをモデルにしているものも多く、「ああ、こういうおじいちゃん、いるいる!」と、嬉しくなってしまう雰囲気に包まれます。小さいものもありますが、40cm前後のお人形が多かったように思います。孫と釣りをするおじいちゃん、こたつの中で雪解けを待つ老夫婦、農作業の合間に“こびれ”(お茶と軽食・お漬け物などを楽しむ信州の習慣。“おこひる”とも)をするおばあちゃん、降り出した雨の中孫を迎えに行くおじいちゃん…。どれも愛情あふれる姿にこちらの頬もゆるみます。ローカル線の無人駅で列車を待つ人々の展示には、それぞれにドラマが読み取れて、脳内脚本が勝手に出来上がっていきます。また、高橋さんが読んで感銘を受けたという、若年性アルツハイマーの奥様を介護するだんなさまの本「八重子のハミング」から生まれた人形達が伝えてくれる愛情には、胸がしめつけられます。白い木枠を掲げて息子に写真を撮ってもらっているおばあちゃん、お葬式で一列にずらり座っている家族の様子など、楽しいとか可愛いだけでない、人が生まれてから死ぬまでのあらゆる場面が表現されています。自分の中の想いと人形の姿が重なると、涙があふれてしまって、もうたいへん。案内して下さった井田玲子支配人は「自分の人生と重ねて下さる方が多くて、“亡くなったおばあちゃんがこんな感じだった”とか“お母さんにそっくりだ”とか言って下さるんです。特定のお人形に会うために何度も足を運んで下さる方もいらっしゃいますし。普遍的だというだけでなく、一番大事な芯のようなものが人形に宿っているから見た方に共感していただけるのだと思います」とおっしゃってました。人形館というと圧倒的に女性に人気かと思っていたら、ここは男性のお客様もとても多い!しかも熱心に見てらっしゃる!人形が作られるまでのVTR上映にもがっつり食いつくほどです。そして、井田支配人曰く「人形館から一歩外に踏み出すと、ここの人形達の世界が実物として広がるのが飯山なんですよ」と。そして、飯山の田園風景に足を踏み入れると…「あああああっ!リアルまゆみ人形だ~っ!」私、叫んでしまいました。あぜ道に、軽トラのそばに、畑の中に!人形とおんなじ表情のおじいちゃんやおばあちゃんがいるんですよ~!笑いと涙がにじんできます。まさに心がふるえてしまう、すごい場所でした。
高橋まゆみ創作人形の世界 → http://www.1-light.com/dollart.htm

おまけに、高橋まゆみ人形館のすぐそばは「仏壇通り」という通りで、約300mほどの道の両側はほぼ全て仏壇屋さん。飯山仏壇は国指定の伝統工芸品だそう。雪よけの雁木作りもすごいでしょ。

そして、里山として飯山の魅力をもっと楽しむなら「なべくら高原・森の家」に行きましょう。ここは体験型宿泊施設で、森林セラピーの拠点であり、また長野と新潟の県境の尾根を歩く全長80kmの「信越トレイル」の拠点でもあり、さらにカヌーやクラフト、農作業などの体験ができるところです。お手軽かつ感動が大きいのは、車いすやベビーカーでの散策も可能なウッドチップの遊歩道「ブナの里山小道」。先日はストレッチャーで散策なさった方もいらしたそうです。ここを、高級和菓子のつまようじ等に使われるクロモジは柑橘系のさわやかな香りがするんだとか、イタヤカエデからは天然のさらっとしたメープルシロップが採れるとか、いろんなことを副支配人の高野賢一さんに教わりながら歩きました。「ブナ林は見上げる森ですね。葉っぱが多くて上が明るくて中が暗くなるので、木にとって下枝がいらなくなるんですよ。下枝がないのですっきり幹が伸びて、見上げるのがきれいなんです。太陽が出てると葉っぱが夏でも黄緑色のきれいな淡い色してるんですよ。」と、高野さんに言われたとおりの美しさに、私、しばし上向いたまま口が開いてました。ブナは日本を代表する森の姿で、村の裏の山として存在し、“緑のダム”といわれるほど地中に水を蓄え、山を守り、人々の生活を守ってきた森なのだそう。そのパワーを120%吸収する勢いで過ごしたら、気分はすっきり!また、森の家ではコテージ宿泊がオススメ。この辺りは豪雪地帯なので、冬は3mくらい雪が積もるそう。コテージの2階の窓から出入りしたり屋根の上をソリすべりしたりできるほどだそうで、これも体験してみたいもんです。
さて、ここで高野副支配人からだされたクイズ問題です。日本でブナの“森”がない都道府県が2つあるそうです。さて、どことどこ?(ヒント→ブナの生育には適度な寒さと暖かさがある湿潤な土地、そして高い山であることが必要です。答えは写真のあとに。)
なべくら高原森の家 → http://www.iiyama-catv.ne.jp/~morinoie/

答え 沖縄県と千葉県。沖縄は気温が高いこと、千葉は高い山がないことが原因。ただし1本2本はあるかも。森がないのだということだそうです。
そして飯山に行ったら絶対食べるべきなのが、「富倉そば」。富倉地区では小麦がとれないので、そばのつなぎとしてヤマゴボウ(地元では“山ごんぼ”とよぶとか)の繊維が使われてきました。葉の形がゴボウに似ている事からヤマゴボウと言われるのであって、本名は「オヤマボクチ」という植物だそうです。この富倉そば、風味豊かなまろやかな味わいでがっしりした食べ応えのあるそばなんです。また打ち粉として、そば粉ではなくじゃがいも澱粉を使うので、つるんとした喉ごしも特徴になってます。今までに味わった事がないおいしさのそばでした。繊維質をとるのに、乾燥させてもんだり叩いたりしてゴミを取り、煮てアク抜きをして、さらに何度も水洗いをして干すという手間ひまがかかること、また、もともと各家庭でのもてなし料理だったために昭和40年代まで店がなかったことから「幻のそば」などと呼ばれてきたそうです。私が富倉そばをいただいた「かじか亭」の佐藤達也店長が、いろいろ教えて下さいました。普通のそばはこねた後すぐ切りますが、富倉そばは2~30分こねて、広げて少し乾かして切るんだそう。何でもそばからサインがでるんだとか。地域のお年寄りはみんなそばが打てるそうですが、昔はそばは秋冬のもてなし食で、夏場は笹寿司だったそう。今は原料の保存がききますから、どちらも通年おいしくいただけます。笹寿司は笹の葉の上に酢飯を薄く伸ばしてのせ、その上にゼンマイ・干し椎茸・大根の味噌漬け、さらに錦糸卵と紅ショウガ、そしてくるみが載ったものです。笹の葉をぺろんと曲げながら手でいただきます。こりゃなかなか美味でございました。食感と香りがいいんですよ~。なんでも戦国時代、川中島の戦いに向かう上杉謙信にふるまったのが始まりとか。

まさに日本人がイメージする「ふるさと」の空気、景色が満喫できる場所、いいやま。季節ごとにその色合いを見たくなるような、ステキな場所でした。九州人でここまで到達したら、かなりディープな信州ファンといえるのではないでしょうか。こころを和らげる旅には絶対オススメです。

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