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広島サミットの一方でWHO年次総会が映し出す「中台」めぐる国際政治

5月19日からG7広島サミットが開催される。また、このG7の場を使って日米・日韓首脳会談、日米韓3か国の首脳会談なども開かれる。「世界の注目が広島に集まるが、別の国際会議にも目を向けたい」と話すのは、東アジア情勢に詳しい、飯田和郎・元RKB解説委員長だ。RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で、「台湾の人たちと健康」について、ある会議をもとにコメントした。

アメリカが台湾の国際専門機関の参加実現を後押し

WHO(世界保健機関)の年次総会が5月21日、スイスのジュネーブで開幕する。この機会をとらえて、「台湾の人たちと健康」について、考えたい。5月9日、アメリカのブリンケン国務長官は、WHO総会に台湾のオブザーバー参加復帰を強く求める声明を出した。
ブリンケン氏は「台湾は国際保健分野において、高い能力や責任を持つメンバーだ」と述べ、国連専門機関などへ台湾の参加実現を後押しすることは、アメリカの「一つの中国」政策とは矛盾しないと強調している。

2022年8月、台湾を訪問したアメリカの当時の下院議長、ペロシ氏は「中国は、台湾のWHO参加を妨げている」「中国は台湾を孤立させようとしているが、我々は台湾を孤立させない」と訴えていた。

WHOでの台湾の位置づけは?

2020年から続く新型コロナウイルスの世界的感染もあって、WHOの意義や役割が注目されてきた。

そのWHOは1948年に設立され、台湾は創設時のメンバーだった(名称は中華民国)。しかし、国連において、「中国」の代表権が台湾の中華民国から大陸の中華人民共和国(=今の中国)に移ったことを受け、台湾は1972年にWHOから締め出された。

WHOに加盟できるのは、国連の加盟国か、WHOの年次総会で承認された申請者に限られる。中国からすれば、国連に加盟していない台湾をWHOのメンバーに承認すれば、それは、台湾を主権国家と認めることになる。それは絶対に容認できないだろう。

だが、半世紀以上、台湾はWHOから締め出されたままなのかというと、そうではない。2009年から2016年の8年間、中国は台湾に対し、「中華台北(チャイニーズ・タイペイ)」という名前で、WHOの年次総会に参加することを認めていた。ただし、正式メンバーではなく、オブザーバーの資格だ。

「チャイニーズ・タイペイ」というと、オリンピックなどでも使用されている。中国側からすれば「国内の都市のひとつである台北を中心とした地域からの代表団」という扱いだ。

政権交代でWHO総会に参加できず

オブザーバーで参加した時の台湾は、国民党政権だった。台湾の二大政党の中で、国民党は中国との対話・交流に融和的だ。一方、現在の民進党政権(蔡英文総統)は、中国と距離を置き、台湾独自の道を歩む。蔡英文政権が発足したことを受け、2017年以降、中国の反対によって、台湾のWHO年次総会参加は実現していない。

これは、同時に台湾の住民、とりわけ選挙権を持つ有権者に対し「中国と仲良くすれば、メリットがある。仲が悪ければ、メリットを得られない」というメッセージでもある。

冒頭に述べた通り、アメリカは台湾のオブザーバー参加を後押ししているが、ブリンケン国務長官の声明の直後、中国外務省のスポークスマンは記者会見で、強くけん制した。

アメリカの声明の本質は『台湾独立』という分裂活動を容認し、支持するものだ。
いかなる「台湾カード」も、また、「台湾をもってして、中国を制する」企ても、国際社会の断固とした反対に遭い、失敗に終わる運命にある。

日本政府は、2002年からオブザーバー参加への支持を表明してきた。5月初め、自民党青年局の一行が台湾を訪れ、蔡英文総統と会談した席でも、青年局はWHOへの台湾の参加を支援していくと表明している。

日本やアメリカ以外のG7のメンバー国の首脳・高官らも、同じような態度を示している。ここから見えてくるのは、中国をめぐる国際社会の対立の構図だ。中国からすれば、台湾がWHOに関与することは、イコール台湾の「国際空間」を広げることにつながる。それはつまり、中国を封じ込めることにほかならない。

台湾がWHOの地図から空白になっていいのか?

しかし、いくら日本やアメリカが、「WHOの年次総会に、台湾をオブザーバー資格で参加させよう」と動いても、現在の中国と台湾の関係が続く限り、実現は難しい。

昨年のWHO年次総会では、台湾と外交関係を維持する国々が、台湾の参加を認めるよう提案したが、公式の議題に入れることも却下され、門前払いとなった。今年の年次総会でも、台湾が参加できず、7年連続となるのは確実だろう。

だが、そのような様々な思惑は置いて、WHOの名称(World Health Organization 世界保健機関)の原点に立ち返るべきではないか。
WHOの設立時の趣旨、すなわち「人々の健康こそが、全世界の平和と安全の基礎である」。そのことを信条としている。台湾が、WHOの地図から空白になっていいのだろうか。

台湾は、新型コロナの感染が広がると、直後から検疫体制を強化し、感染症対策を進め、成功した。台湾の医療水準の高さ、非常時における規律、市民のモラルの高さがあったからだと考えられている。

当時、各国のリーダーや、専門医師たちは「台湾の専門知識から得るものがある」「台湾方式は大いに参考になる」と高く評価する声が出ていた。

台湾に住む2,300万の人々の健康が不利益を受けていいはずがない。健康は何人も享受できるはずだ。理不尽に対しては、より大きな声で、中国、そして世界に訴えていいと思う。これは、「台湾が好き」、その裏返しの「反中・嫌中」とは別次元の話だ。

1948年に誕生したWHOは今年、75周年の節目を迎える。5月21日から始まる今年の年次総会のテーマは「75歳のWHO――命を救い、すべての人のための健康を推進する」だ。その意味を改めて考えたい。

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