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今年も水路にはまった“ウリ坊”手を出せないはずの野生動物を行政が「助ける」判断、背景には苦渋の「協議」【弁護士が解説】

福岡市西区の登山道にある深さ3メートルの水路に18日、7匹のイノシシの赤ちゃん“ウリ坊”が転落して出られなくなった。この場所は2022年にも8匹のウリ坊がはまった場所だ。野生動物は鳥獣保護管理法によって自治体であっても簡単に手出しができない存在。また、害獣でもあるイノシシを助けるべきか、そのままにすべきか。福岡市は水路を管轄する福岡県と「協議」。苦渋の救出劇が展開された。

力を振り絞って登るも「脱出不能」の水路

コンクリートの水路を行ったり来たりする“ウリ坊”たち。兄弟だろうか、7匹がそろって行動し右往左往している。力を振り絞って斜面を駆け上がろうとするものの、水路の壁は3メートルほどある。とても自力では出られない。そう、ウリ坊たちは不幸にも水路にはまって、閉じ込められてしまったのだ。エサもなく、ここにいては命の危機に瀕してしまう。とはいえ、鳥獣保護管理法によって、野生動物は自治体であっても簡単に手を触れてはならない存在だ。登山道のある福岡市にとってもまさに「どうすることもできない」状況だった。

猟友会と市職員が「捕獲」して山へ戻した

同じ水路では2022年にも“ウリ坊”が転落。この時は8匹が落ちたものの、数日の内にいなくなった。見かねた市民が助け出したとみられている。相次ぐ「転落」。今年はその日のうちに事態が大きく動いた。午後2時に福岡市の職員が現地につき、ウリ坊は午後6時すぎに“救出”され、山に放たれた。市職員が猟友会とともに水路に入り、ウリ坊を捕獲。かごに入れて運び、山の中へ離したのだ。

救出してもしなくても賛否は必至、ギリギリの判断

この間“4時間”。福岡市は水路を管轄する福岡県と協議を進行。助けるか放置するか、ウリ坊の命は協議に委ねられた。両者はまず、先出の「鳥獣保護管理法」との兼ね合いを検討した。野生動物は保護したり、許可なく捕獲や狩猟したりしてはならないことになっている。違反すると1年以下の懲役または100万円以下の罰金が待っている。その上で、転落した水路は「人工物」であることや、去年8匹が落ちた際に市民から「助けて欲しい」という複数の意見が寄せられたことを判断の基盤にした。しかし、愛くるしいウリ坊とはいえ、イノシシは農作物を荒らし、市街地に迷い込めば人を襲うこともある害獣だ。行政は、水路から救出しようがしまいが市民から賛否の声が上がることを踏まえた上で、ギリギリの判断を迫られた。そして導かれた結論は「助ける」ことだった。

人工物のため「安全管理」の責任が行政にあった

手を出せないはずの野生動物を助け出すことに問題はなかったのだろうか。弁護士の徳原聖雨氏は次のように話す。
弁護士法人・響 徳原聖雨 弁護士「落ちた場所が自然の公園の中ではなく人工物だということがポイント。人工物になると行政としては管理する責任が問われる。例えばウリ坊がそこにいることによって何か支障が生じる、安全管理の責任が問われかねないので、行政としてはできることをやった。鳥獣保護管理法の規定からすると、やっとのことで自治体として苦渋の策として助けることができたという判断だと思います」

自分が不幸な野生動物に遭遇したら?

転落したウリ坊は、行政が安全管理の面から助け出したものの、もし自分が同じような境遇の野生動物を見かけたらどうすればいいのだろうか。徳原弁護士によると、野生動物を手に持つと鳥獣保護管理法が禁止する「捕獲」にあたるおそれがある。徳原弁護士は「自分で何かしようとしない、菌やウイルスを持っている可能性もあるので行政に連絡することが最善策」と指摘する。

けがをした野生動物は“治療”してくれることもある

怪我をした動物はやや事情が異なる。治療して野生に帰すことを前提に動物園や動物病院が保護してくれることもある。福岡市動植物園によると、保護できるのは人や人工物が関係するビルにぶつかった鳥や草刈り機で傷つけたタヌキなどが対象だ。巣から落ちたひな鳥などは保護できないことになっている。福岡県はけがをしている野生動物を見つけたら、ケガや衰弱の具合をみてむやみに手を触れずそっとしておくように案内している。その上で、治療した方が良いと感じたら、保健福祉環境事務所に連絡するのが最善策のようだ。福岡県は、今後イノシシが水路に落ちない柵を設置することなどを検討し始めた。2024年はウリ坊が“はまらない”水路に生まれ変わっているかもしれない。

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