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利用者は「リフレッシュできる」の声も現場は「保育士足りない」 「こども誰でも通園制度」に決定的に不足している視点 

親が働いているかどうかを問わず子供を一時的に保育園に預けることができる「こども誰でも通園制度」が2026年度から本格実施されます。モデル事業で利用した保護者からは「自分の時間ができた」「リフレッシュできる」と概ね好評です。一方、受け入れた園側からは「保育士が足りない」との声があがっています。こうした中、数億円を投じて国の実施基準を上回るこどもの受け入れを決めた自治体もでてきました。果たして保育の質や安全は担保できるのでしょうか。
 

親が働いていなくても保育園に預けられる制度

福岡市中央区のリトルワールドあゆみ保育園では、去年8月から「こども誰でも通園制度」のモデル事業として、園児を受け入れています。
 


利用している保護者
「自分の時間ができたので助かっています。週1回でも良いんですけど、週に何回か預かっていただけるとより助かるかな」

「こども誰でも通園制度」は親が働いていなくても生後6か月から2歳の子供を一時的に、保育園などに預けられる制度で、国は2026年度の本格実施を前にモデル事業を行っています。

利用する保護者には好評「助かる」

福岡市では3つの保育園で実施していて、120人の枠に対して390人の応募がある人気ぶりでした。

利用している保護者
「週に1回なので、なかなか慣れなくて心配してたんですけど、今では楽しみにして行ってくれるので、私も心置きなくリフレッシュできています」

利用している保護者
「今まで私一人で家で見ていたので、子供も社会性がどんどん広がって行って、私も資格の勉強もしたかったので、すごく助かっています」
 


リトルワールドあゆみ保育園 本松ちなみ園長
「保護者の方からは100%『ありがとうございました』という声をいただいています。今まで一人で子育てしていて、分からないことがあったけれど、保育士にいろいろな相談ができて、子育ての負担が減った、自分の心に余裕ができた、という声を頂いています」

福岡市は国の4倍 月40時間受け入れへ

こども家庭庁は全国での実施基準として、週に1回、2時間の利用を想定し、1人当たりの利用上限を「月10時間」としていますが、指定都市市長会では「月10時間では足りない」との声が上がりました。このため、福岡市は今年7月から国の基準の4倍となる月40時間利用できる独自の事業を始めます。対象施設は今の10倍の30施設に増やし1000人程度の利用枠を確保する方針で、新年度予算案に約4億8500万円を計上しました。
 


福岡市 高島宗一郎市長
「幼稚園にも保育園にも行っていない子供には第三者の目が届きにくいというところもありましたので、そうした子どもたちをしっかり見守る目を入れていくというメリットもありますし、また、保護者の皆さんに対するレスパイト(小休止)という意義もあると思います」

現場は「保育士足りない 対応が難しい」

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集団生活の経験による子供の発達促進や保護者の育児負担を軽減して、孤立を防ぐなど、メリットが期待される一方、受け入れる側の保育士の負担は増えています。

リトルワールドあゆみ保育園 岩永美沙保育士
「毎日通っている子供たちとでは、慣れが違うので対応が難しいところが多々ありました。良い事業だなとも感じているけど、どうしても保育士が不足しているので難しいなと思う部分もたくさんありました」

リトルワールドあゆみ保育園 三苫のぞみ保育士
「始まった時は、私達にも今いる子供たちにもとまどいが見られて、大丈夫かなという心配はありました。輪の中に入れなくて、お母さんの姿を探していて、活動ができなかった子もいました。朝来るのを嫌がって、途中で辞められた家庭もありました」

リトルワールドあゆみ保育園 本松ちなみ園長
「モデル事業を始めるにあたって、2名の保育士が来てくれたので、配置上は足りてはいたけれど、現場の負担を考えると2人では足りなかったと思います」

福岡市は園に補助金を交付する方針

2月29日に開かれた新年度のモデル事業の公募説明会には、30の募集枠に対し、55の施設の代表者が参加しました。福岡市は受け入れた園児1人につき、保護者が負担する利用料を1時間300円以内とし、さらに利用料とは別に、850円の補助金を交付すると説明しました。これは、時給1150円にあたりますが、保育士の給与は時給換算で1200円前後。参加者によると、保育士を確保するには微妙な金額だといいます。施設側には、少子化が進む中、保育園の新たな収入源になるのではという期待感はあるものの、財政的にも厳しいという声もありました。

園側は「皆がやりたいという金額ではない」

豊田学園 豊田彩子理事長
「福岡市の話を聞いてどうしようかなというところですね。保育士の人件費が上がる中、今の補助金の中でやっていけるのか不安があります。みんながやりたいなという金額ではないと思います」
 


第3中央夜間保育園 平野理江園長
「厳しいと思います。保育園を利用している子供も「誰でも通園制度」を利用される子供も高い保育の質をどれだけ提供できるかが課題だと思っています」

「慣れていない子供たちに職員の手がとられる」

保育士を確保して、保育の質を維持できるのか。制度自体には賛同するものの、今回のモデル事業への応募を見送った保育園もあります。なぜでしょうか。


福岡市保育協会 有松徹広報調査部長
「保育の質を担保するための保育士が確保できるのかというところだと思います。現在の『こども誰でも通園制度』では、園の生活に慣れてない子供たちに対して職員の手を取られてしまう。今いる子供たちに対してサービス提供が滞ることがないように、人の確保という点で、どのようにそこを埋めていくのが課題になってくると思います」

懸念される保育士不足に対し、福岡市は助成金などで対応するとしています。

福岡市「人材確保 負担軽減に取り組みたい」

福岡市こども未来局 小野敏伸運営支援課長
「通常保育よりも負担が大きいという声は承知しています。新たに潜在保育士を雇用する際の助成制度を設けるなど、人材確保・負担軽減に取り組みたい」
 


RKB 三浦良介記者
「国の基準の4倍、月40時間受け入れる福岡市独自の「こども誰でも通園制度」。施設の整備や保育士の負担軽減などの課題にどう取り組むのか。全国に先がけたモデル事業となるのか注目されます」

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この記事を書いたひと

三浦良介

1999年入社、テレビ営業部、大阪支社勤務を経て2011年から情報番組のディレクターを務める。2016年から報道記者として政治・経済を中心に取材奮闘中。

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