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広がる個人間の精子提供“出自”課題にー1回1万円の取引も R調査班



その中でも重症度の高い「セルトリセルオンリー症候群」だった。妊娠はほぼ不可能だが子供は諦めたくなかった。夫婦がほかの選択肢を探していたときに目にとまったのがSNSによる精子提供だ。   

 

今の考えとしては2人で親として育てていくことを希望しているので、そこは責任もって育てていく。ごく限られた人には無精子症のことを言っている。子供自身もいずれ知ることもあるかもしれない。私たちの子供がそうなったときにどうするかはまだ答えは出ていない(30代夫)



AIDは、感染症の検査などをクリアしたドナーが医療機関に精子を提供する仕組みだ。ただし、健康保険は適用されない。日本では1999年以降、少なくとも2300人以上がAIDの枠組みで提供された精子によって生まれている。  
ところが、この公的な仕組みがうまく機能しなくなってきている。  

 

ドナーの方自体も少なくなっている。制度としてありますと言っても実質2年から3年待つことになるかもしれません。いつ受けられるかもわかりませんという状況だったらそうではない方法を模索してしまう(30代夫)



 



慶應義塾大学病院もまたAIDの登録機関だ。医学部産婦人科学教室の田中守教授は2017年から海外の「出自」をめぐる動向や日本の法整備の動きを精子提供者に説明している。   

 

SNSでの活発な精子提供のやりとりは公的なAIDの枠組みが提供者にとって“重荷”となりつつあることの裏返しとも言える。「出自リスク」を敬遠する人たちがAIDからSNSへと流れた。インターネットで“コウノトリ福岡”と名乗り精子を提供している人に連絡すると「個人情報の保護のため医療機関にはドナー登録しない」と回答があった。

取材班は40歳の男性に取材を申し込んだ。この男性はSNSを使ってこれまで8人に精子を提供したという。報酬は1回1万円だ。

困っている方に対して本当にありがとうと言ってもらえることを非常に嬉しく思うので続けさせていただいています。最初はどこかの喫茶店でお会いして私の顔とプロフィールを開示して、もし良かったら同意書にサインを頂いて提供の流れになります(8人に精子提供した40歳男性)



トラブルを避けるために直接の性交渉は行わず、市販のキットで採取した精子を手渡しているという。提供した8人のうち4人が妊娠した。その子供たちが男性に会うことを望んだらどのように対応するのだろうか? 

 

非常にデリケートな問題なので、これは人の解釈によっては通常ではないカタチなので理解が進みにくい。ただ、SNSでニーズがあるのは現実なのでなるべく情報を開示できるよう環境を整えたいと思っています(8人に精子提供した40歳男性)

男性は求められれば個人情報を開示しないことを条件に子供と会うつもりだ。 

 



取材を通じて、葛藤やリスクを抱えながら子供を授かりたいとSNSに集まる人たちが確かに存在することが確認できた。一方で、精子の売り買いに関する法的な規制はない。ドナー不足や子供の権利の問題についても社会制度が追いついていない現実が浮かび上がった。 

 

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R調査班

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