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大雨の被害から再建し、翌年再び大雨で浸水・・・何度も危機を乗り越えてきた佐賀・武雄のソウルフード「井手ちゃんぽん」の裏側に迫る

そびえ立つ野菜の山に、濃厚な豚骨スープ。食欲をかき立てられ、箸が止まらない、癖になるうまさ、それが「井手ちゃんぽん」だ。
佐賀県武雄市で生まれたオリジナルのちゃんぽん店は、今や全国12店舗に拡大。さらに2022年5月、熊本県にも初出店。
お腹いっぱい胸いっぱい「井手ちゃんぽん」の魅力に迫る!

秘伝!井手ちゃんぽんの作り方

開店と同時に行列を作る、佐賀県武雄市にある「井手ちゃんぽん」。
一体何がスゴいのか?

スープには、企業秘密の「和だし」が使われていて、豚骨スープとブレンドして口に入れたら風味豊かな味を演出する。
具材に使用するキャベツは「手切り」にこだわる。機械ではあり得ない切れ面になると手を抜くことは無い。
麺は店舗横にある製麺場で自社で作るほどこだわる。

この井手ちゃんぽんが、武雄だけでは無く、福岡や熊本、愛知でも食すことができるようになった。
全てFC展開。どの店舗も、オーナー側が「井手ちゃんぽんの味を広めたいから」と武雄本店の社長に話を持ち込み実現したもの。しかし、社長は条件を出す!
それは、スープと麺は武雄本店から毎朝運んだものを使用すること。

社長は言う。それでも「武雄本店の味にはならない」。
作る人によって違う味になるというちゃんぽんは、社長の母さんの味も同じ。
幼少期から食べてきた母さんのちゃんぽんと同じにはならないと言う。

毎年襲う豪雨で何度も被害にあった井手ちゃんぽん。何度か武雄からの移転を考えたが、もう1回この地でやっていくと決めては、本店の味に舌鼓を打つ客の姿を見ながら、社長は鍋をふり続ける。
まずは気になる井手ちゃんぽんの作り方。野菜の下準備にこだわりが詰まっている。
例えばキャベツは火の通りを均一にするため、部位によって切り方を細かく変えている。
また、武雄市の本店で使用するキャベツは1日およそ25玉だが、他にも膨大な量の野菜を1つひとつ全て手作業で切っている。機械を使った方が楽なのでは…?
「気持ちというところもあるし、手作業の良いところは作っていてテンションが上がること」と井手良輔社長。
井手ちゃんぽんの下準備は全て手作業!そこにこそ気持ちが込められている。

続いて濃厚なスープのベースは、真っ白な豚骨スープ。12時間以上かけて煮込み、じっくりとうまみを出していく。
そこに加えるのが、門外不出でオンエアはもちろんのこと撮影も禁じられた“秘伝の和風だし”。これでさらにうまみを高めるが、完成ではない。野菜のうまみや豚の甘みなどが全て合わさることではじめて、あのスープができあがる。
ちゃんぽんは、具材・スープ・麺、それぞれの良さをマッチさせてこそ生まれる一品なのだ。

井手ちゃんぽんの“あの”秘密!

さてこの1杯を求めてお店のオープンと同時にお客さんが入り、1時間もせずほぼ満席に。お昼のピーク時には大行列となるが、長くは待たせない。
回転率が高い理由は、一度に作る杯数。同時に最大7杯のちゃんぽんを作ってしまうのだ!県外からのお客さんも多く、週末にはこうして1日1000人ものお腹を満たす。

ところで全ての店舗のちゃんぽんをどうやって同じ味にしているのか?
井手ちゃんぽんでは、?だけでなくスープも全店舗同じものを使っているという。実は各店のスープは本店で作られたもので、毎日「スープ便」で届けられている。

初代の“心意気”が作った歴史

井手ちゃんぽんのはじまりは73年前、昭和24年に社長のおじいさんが作った「千十里(ちどり)食堂」。初代が、長崎で食べたちゃんぽんを自己流にアレンジして原形ができあがった。そして現在のようにボリューム満点になったきっかけは、初代の“心意気”にあった。
当時武雄には炭鉱があり、石炭産業が栄えていた。初代は、ここで体を使い町の産業を支える炭鉱夫に“力をつけてほしい”という心意気で、具材たっぷりのちゃんぽんを作ったのだ。すると炭鉱夫に人気が出て、いつしか食堂は「井手ちゃんぽん」と呼ばれるようになり、昭和55年、正式に「井手ちゃんぽん」の看板を掲げた。

2度の危機を乗り越えた「武雄のソウルフード」

味を守り続け、今や不動の人気店となった井手ちゃんぽんだが、これまでに営業の危機に見舞われている。
2019年8月、九州北部を襲った記録的な大雨に、武雄市の本店も浸水した。さらに2021年8月にも、なんとか再建を果たしたものの大雨の被害を受けた。繰り返される豪雨災害にもかかわらず、同じ場所でちゃんぽんを作り続けるのには熱い思いがある。
「2度目の水害が起きた時に本当は店を壊そうかと思った。でももう1回、大丈夫かなと。この土地に来て40年以上経ち、やはりみなさんに“ここは井手ちゃんぽんだ”と思ってもらっているので」
武雄のソウルフードとしてこれまでの歴史を守り味に磨きをかけていくと、穏やかな表情ながら熱い気持ちを、社長は話してくれた。

文:軽部 明香里

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