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冷える英中関係を映し出す?ロンドンで広がる中国大使館移転反対の声

イギリス・ロンドンで、中国大使館の移転計画をめぐって反対運動が起き、ニュースになっている。東アジア情勢に詳しい、飯田和郎・元RKB解説委員長がRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演し、問題続きの英中関係についてコメントした。  

抗議活動を懸念し移転先の周辺住民が反対運動

ある国で、日本の大使館が別の場所へ移転すると仮定しよう。その移転先で「来ないで!」という反対運動が起きたら、日本人としてどう感じるだろうか? いまイギリス・ロンドンで、中国大使館の移転計画をめぐって大きな反対運動が起きている。

 
ロンドン市内を流れるテムズ川の川岸に、中世に築かれた城塞「ロンドン塔」がある。観光名所の一つで、世界遺産でもある。中国大使館の移転先は、そのロンドン塔から、道路を一本挟んだ場所にある。ロンドン中心部の一等地だ。

 

イギリスの公共放BBCによると、今から4年前、約2ヘクタールのこの土地を中国政府が取得した。計画では大使館の各業務を行う庁舎、それに大使館員・家族の宿舎や、外部との交流センターの建設もできる予定だ。現在の大使館は同じロンドン市内にあるが、業務拡大に伴う移転で、ぐっと広くなる。

 

まず、大使館予定地と同じエリアの住民が反対の声を上げた。反対の理由は、住環境の悪化。まず、大使館が移ってくると、自分たちの住むエリアが「中国への抗議活動を行う場所」になる可能性がある。過激な動きが広がれば、自宅や敷地も、攻撃を受ける対象になるおそれがある。財産の破損、住民の安全、静かな生活が脅かされると懸念するうえで、地元から移転反対が高まるのだろう。

 

実際、現在の中国大使館前では、さまざまな抗議活動が続いてきた。たとえば、かつて英国が統治した香港で、急速に言論の自由が奪われていったことへの抗議。チベットや新疆ウイグルでの少数民族弾圧への抗議。中国政府が継続してきた新型コロナ対策に対しては、中国人留学生や英国在住の華僑らが抗議集会を開いた。今後、同じようなことは、大使館の移転先でも起こると想像できる。

 

住民の反発を受け、地区の議会は12月に入って、受け入れ拒否を可決している。大使館の移転予定地には14世紀の遺跡もあり、これらをどのように保護するかという問題もあるようだ。

イギリス国民が抱く中国への不信感

そもそも「自分の家の前で、抗議集会が開かれるのは迷惑だ」という感情の前に、英国も高まる反中感情が、そのような動きを後押ししているようにも思える。加えて、イギリスにある別の中国の公館に関係する出来事も、イギリス国民が抱く中国への不信感を広げている。

 

イギリス中部マンチェスターで10月、中国総領事館前の路上でデモ活動をしていた香港出身の男性が、総領事館の中国人職員に、暴行を受ける事件が起きた。やはりBBCによると、領事館から現れた、少なくとも8人の男性職員が力づくで、この男性を領事館の敷地内に無理やり引きずり込み、殴ったり蹴ったりしたという。警備に当たっていた地元警察やほかのデモ参加者が門の内側に入って男性を敷地外に引き戻した。男性は顔などに軽いけがをした。

 

中国外務省のスポークスマンは「騒ぎを起こした人物が領事館に不法侵入した」との見解を示したが、CNNやフィナンシャル・タイムズのウェブサイトに載っている事件当時の動画を見ると、大勢の男たちに、領事館の敷地内へ引きずり込まれているのは明らかだ。

 

この出来事に関して中国側は、マンチェスターの中国総領事館の職員6人の人事異動を発令し、6人は先週、イギリスから出国した。イギリス政府から処分を受ける前に異動させることで、事態の鎮静化を図ったのだろう。

 

ただ、イギリス政府、イギリス国民が怒っている出来事が、さらにある。中国各地で11月末、ゼロコロナ政策に反発する市民が、習近平主席の退陣を要求する行動を行った。市民が公然と、最高指導者を非難するのは、中国では極めて異例の出来事。上海でこのデモを取材していたBBCの特派員が、取材の最中に、中国の警察当局に拘束された。BBCによると、記者は「警官に殴られたり蹴られたりした」と話しているという。

外務省報道官は、この特派員が「自主的に外国記者証を提示しなかったからだ」と述べて「非はBBC特派員にある」とも受け取れる説明をしている。だが、民主や人権を重んじるイギリスでは「報道の自由」を阻害する行為は、とりわけ容認できないのではないか。マンチェスターの中国総領事館前での出来事も、人々が平和的な抗議行動を行う権利が侵害されたと受け止めているように思う。

スナク政権にとっては「喉に刺さったトゲ」

話をロンドンの中国大使館の移転問題に戻そう。マンチェスターでの出来事、上海でのBBC特派員の拘束…。これらが大使館移転問題に、マイナスの影響を与えているのは間違いない。そんな中、肝心のイギリス政府は、大使館移転問題をどのように処理しようとしているのだろうか?

 

イギリスでは10月に、スナク氏が新首相に就任した。スナク氏は自身初の外交演説で「黄金時代」と称されたイギリスと中国の関係は「終わった」と語っている。首相はさらには「中国は我々の価値観と利益に挑戦している」と非難した。スナク首相の対中政策がどう進んでいくか、まだ明確ではない。だが、どちらかといえば、中国に宥和的だったこれまでのイギリス政権とは、少しスタンスが異なる。

 

一方、大使館の移転問題については、スナク政権にとって「喉に刺さったトゲ」となりそうだ。地元区議会は受け入れ拒否を可決した。中央政府は区議会の決定を覆す権限を持っているが、中央政府まで区議会の決定に同調すれば、より大きな外交問題に発展する。イギリスと中国の外交上、難題を抱えたと言っていい。

 

冒頭「外国で、日本の大使館の移転先で、反対運動が起きたら、日本人としてどのように感じるか?」と問いかけたが、中国の国民がロンドンでの大使館の移設反対の動きをどう感じるだろうか? 自分の国が、自分の国の在外公館がそのように冷たい視線を浴びている――。少なくとも、西側諸国からはそう見られている状況を、その意味を、考える機会になればと願っている。

◎飯田和郎(いいだ・かずお)

1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。
 

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