PageTopButton

ウクライナ侵攻から1年・中国のスタンスは「ロシア寄り」なのか?

ウクライナでの戦争が2年目に入った。そんな中、中国は自国の立場を示す文書を発表した。その意味するところは何か? 東アジア情勢に詳しい、飯田和郎・元RKB解説委員長が、RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で解説した。  

中国にとってロシアは北朝鮮と似ている?

3月2日までの3日間、ロシアと同盟関係にある、ベラルーシのルカシェンコ大統領が中国を訪れている。ルカシェンコ大統領は30年近く権力の座にとどまり「欧州最後の独裁者」とも呼ばれている。そのルカシェンコ大統領と習近平国家主席との首脳会談は1日、北京で行われた。ウクライナ問題について習氏は「中国の立場は和平協議を促し、政治解決を目指すこと。それが核心だ」と強調し、同大統領は「完全な賛成と支持」を表明した。欧米とは明らかに一線を画している。

ウクライナ紛争の中で、中国がまたクローズアップされてきた。2月末、G20の財務大臣・中央銀行総裁会議は共同声明をまとめらないまま閉幕した。ロシアによるウクライナ侵攻を非難する文言に、ロシア、それに中国が反対したためだ。一方、欧米からは「中国がロシアへ武器を供与する可能性がある」という指摘も出ている。

侵攻以来の1年間、中国が持つ隣国ロシアへのスタンスは、北朝鮮への向き合い方と、似ているように見えてきた。つまり「頭が痛いと感じる」また「一定の距離を保つ」という一面。そして「これは利用する価値が十分ある」という別の一面。その2つが存在するという共通点があるからだ。

別の言い方をすれば「手を焼くけれど、その存在が『消える、また薄れてしまえば』、自分の国にもマイナスの影響が出てしまう」ということだ。

中国のしたたかさを感じる12項目の文書

その中国の外務省は、ウクライナ侵攻から1年にあたる2月24日、全12項目からなる文書を発表した。タイトルは「ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場」。私は中国共産党機関紙「人民日報」のアプリでその文書の内容を読んだが、感想は「やっぱりなあ」だった。一部を抜粋する。

「ロシアとウクライナの双方が歩み寄り、早期の直接対話を再開し、全面的な停戦を達成すべき」
「各国の主権と独立、領土の保全は確実に保障されるべき」
「地域の安全は軍事集団の強化・拡張では保てない」
最後の「軍事集団」とは、NATO(北大西洋条約機構)のことだ。これは、ウクライナ危機の前から一貫して主張してきた。まったく新味を感じない内容だ。NATOの強化・拡張に反対、つまり東への拡大に反対するのは、ロシアに寄り添っているように感じるが、これも従来の主張を繰り返したに過ぎない。

一方、直接対話の再開や停戦、和平交渉の開始を呼びかけている。「中国は引き続き建設的な役割を(ウクライナ問題で)果たす」とも言っている。しかし、和平実現のために中国がどう行動するか、具体策な仲介策には触れていない。むしろ、敢えて触れないことで、自らの立場を優位に保とうとしていたように私には見える。

中国からすると「ロシアの暴挙に巻き込まれたくない」「国際的な孤立を避けたい」、だけど、「ロシアは自分たちの経済成長、安全保障のために利用する価値がある。無碍にはできない」――。中国のそんなしたたかささえ感じる12項目文書だ。

中国自身は「真ん中」に立っているつもりだ。だが、欧米、それに日本には入り口から「中立」=「ロシア寄り」に映るのは当然だろう。この中国のスタンスに対し、国際社会の評価はやはり厳しい。アメリカのバイデン大統領は「交渉=つまり『取り引き』という発想は理にかなっていない。提案はロシア以外には有益ではない」と一蹴している。

同じアメリカのブリンケン国務長官は、中国について「中立的な立場で平和を追求していると見せかけているだけだ。ロシアの誤った言説を広めている」とかなり厳しい。しかし、アメリカの首脳にそう言わせる、イライラさせることも、中国の戦略の一環ではないかと私は見ている。

中国はロシアに武器供与するのか?

開戦から1年。中国の外交責任者がロシアのプーチン大統領と会うなど、中国は活発に動き始めたようにもみえる。

冒頭に紹介したように、中国にとってロシアは利用できる価値がある。欧米の対ロシア制裁の一つであるロシア産エネルギーの輸入問題。アメリカCNNの報道によると、中国は2022年3月(=ウクライナ侵攻以降)から12月までの10か月間で、ロシア産原油の購入は、額にして前年同期比45%増加した。同じ比較で、石炭の輸入は54%も増えた。天然ガスは、155%も激増した。エネルギーの買い手がなくなり、窮していたロシアを救った格好だ。

そんな中で、中国からロシアへの武器供与が始まるのではないか、との言及がNATOの主要国から出始めている。現実的には中国が直接的に殺傷能力のある武器を、ロシアへ提供するのは考えにくい。なぜなら、それが実現し、さらにその行為が明確な証拠とともに、明らかになったら、中国自身がそれこそ「中立」ではなくなる。そして、欧米諸国が指摘したとおり、「ロシア寄り」、正確に言うと「寄り」ではなく、「ロシアと与(くみ)する」ことになる。

 

そのことに中国にはメリットはなく、ロシアとそこまで運命共同体になるつもりもない。むしろ、気球問題、通商問題などで摩擦が起きているアメリカとの関係においても、ロシアは有効なカードだ。

“軍事と民間はグレーゾーン”の中国

では、武器供与に関して欧米は根拠もなく、中国を糾弾しているのだろうか? 軍と民間が融合して産業を興しているのが中国。軍事転用も可能な製品や原材料、たとえばドローンや半導体や通信機器などを、ロシアへ送り込むな、というけん制ではないかと見ている。最近のケースでは、アメリカが撃ち落とした気球。あれも中国は「民間用だ」と主張している。中国の場合、軍事と民間はまさにグレーゾ―ンだ。

国連は侵攻1年に際し、ロシア軍の即時撤退を求めた決議を採択したが、中国は棄権した。つまりロシアに「貸し」をつくっている。同じ時期、中国外交の責任者がロシア訪問にしたが、中国国営の新華社通信は「中露双方は『どのような形であれ、一方的ないじめ行為に反対する』との考えで一致した」と伝えた。一方、中国は国連決議を棄権したが、決議に「反対」ではない。欧米と決定的に対立もしていない。

中国がロシアの極端な弱体化を望んでいない。だが今以上に力を持ってもらっては困る。圧力を強めるアメリカへの防波堤の一つ、ロシアは今後も、そのような存在だ。

◎飯田和郎(いいだ・かずお)
1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。
 

この記事はいかがでしたか?
リアクションで支援しよう