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木曽路を行く(1)

「木曽路はすべて山の中である」…木曽出身の島崎藤村は、そう表現しましたが、太田空穂は「木曽福島は谷底の町」と詠みました。それまで自分の町を山の中だと思っていた木曽福島の人々は“谷底”という表現に合点がいったそうです。また、木曽の人で「木曽は、山のてっぺんとてっぺんに物干し竿をかけて、洗濯物が干せる」と、笑っておっしゃった方がいたそうです。すべて納得。九州人からすると驚くべき風景が広がり…いえ広がれないので立ちはだかります。福岡だって山道を車で走っていると山がせまってくる感じはありますが、木曽のそれは距離感が違うっ。目の前に!垂直に!山がせまってくるんです!この感じ、ぜひ体感してほしいです~。
江戸時代、その木曽を通って京都と江戸を結んでいた街道が中山道。中山道最大の関所・福島関所や福島宿があった木曽福島の町を、「まちづくり木曽福島」事務局長の木村みかさんと歩きました。中山道は別名“姫街道”と呼ばれていたそうです。山道は険しいのですが、東海道に比べ治安が良く(おいはぎやかどわかしが少なかった)、そのため女性の通行が多かったのだとか。よって、櫛やかんざしなどの工芸品やお土産品が、東海道より早く発達したのだそうです。また、江戸と京都のちょうどまん中の位置だったので、両方の文化の融合点でもあったそう。小さい路地を「○○小路」と書きますが、これを江戸風だと「○○こうじ」と読み、京風だと「○○しょうじ」と読むそうです。で、木曽福島の町は、「こうじ」「しょうじ」のどちらの読み方も存在するのです。また、大火を免れ江戸時代の風情が残った「上の段」地区の小路の奥に400年前の石垣があったり…なかなか楽しい散策路です。

また、江戸時代の名残を、町の作りに今でも見ることができます。町人の多かったところは間口が狭く奥行きが長い町家作りのシンプルな屋根、代官屋敷の周辺=今で言う官庁街は武士が多かったので、どっしり四方に広がる入母屋作りの屋根や蔵。高台から眺めると、よーくわかります。また、木曽川の川原の上に家の一部がはみ出して立っている、表から見ると2階建てなのに川側から見ると3階建てという「崖屋造り」も見受けられました。木曽川は流れが速く、水が美しく、常に水音を響かせているので町を歩いていて、とっても気持ちがよかったです。歩きつかれたら足湯もあるし。癒しの友は木曽の秋の名菓「栗子餅」。激ウマです~。

そんな木曽福島の町を眺めながら江戸時代に思いをはせるなら「福島関所跡」がおすすめ。木曽川の断崖に臨む険しい狭い場所から時代を感じましょう。江戸屋敷にとどめられた諸大名の妻子の脱出を監視するため(“入り鉄砲に出女”ですね)、福島の関所では特に「女あらため」が厳しかったそうです。通行手形って木製かと思ってたら、木製手形は住人が日帰りで通行するためのもので定期券みたいなものなんです。遠出の場合は証文、文書だったんですよ。そんな資料も館内に並んでいました。

あと、「山村代官屋敷跡」も要チェック。入り口の桧並木がすてきなお屋敷は、全体のごく一部だけが今も残っています。お隣にある小学校も屋敷跡で、あちこちに“代官水”と名付けられた湧き水が出てました。江戸時代を通じてずっと木曽を治めた山村代官。江戸時代を通じて転勤させられることがない、代々なかなかの人物だったそうです。代官屋敷では参勤交代の大名をご接待していたそうですが、大名の石高によって使う部屋も違っていたとかで、そんな資料も残っています。代官家を守る「山村稲荷」のお社の床下に住みついて、泣き声で町の吉凶ごとを知らせていたといわれる狐がいたそうですが、その狐のミイラをご神体にした稲荷神社も祭られているんですよ。
□  まちづくり木曽福島 → http://www.nanchara.net/

木曽福島での宿は「駒の湯」。もう120%の勢いでオススメの宿ですっ。明治時代の創業から113年。もとは駒ヶ岳登山客や湯治客のための宿から始まりました。宿の目の前の道は駒ヶ岳への登山道。宿の位置は2合目にあたり、標高は1000m近くだそう。それゆえ朝晩の冷え込みは段違いで、9月末なのにロビーにはストーブが…入ってました。

その分、お風呂のありがたみがアップします。木曽檜造りの内風呂はうっすら赤みを帯びた鉄鉱泉の温泉、露天風呂は木曽人の知恵のたまもの・薬草風呂です。

料理はデザートまで手作り!という駒の湯。支配人が料理人でもあります。地産地消のメニューなのですが、ひと工夫が光った料理が並びます。信州の宿で定番になりつつある信州サーモンも、サラダっぽく仕上げてドレッシングでまとめます。にじますも、焼いてさらに揚げて甘酢に漬けるという、支配人のお母さんのレシピをアレンジしたスタイルで出てきます。苦手な人が多い鯉だって、皮を取って焼いて大骨を取って凧糸で巻いてダシと調味料で煮る…といった具合。それを仲居さん達がしっかり紹介してくださるんです。お酒一つ提案するのでも、木曽の人としての心が入った個性が感じられる言葉が出てきて、食事がより楽しく美味しくなるんです。「そのベビーコーンはうちのスタッフの畑で採れたんですよ」とか「うちにはキノコ採り名人がいましてね…」なんて話も最高のスパイス。

支配人は「いわゆる景勝地とは違うものが木曽の良さだと思うんです。誰もが見て『すごい!』っていう景色じゃないけど、小さい頃、当たり前のようにあった風景が木曽には今も残ってるんです。そういうのを見た時にちょっと昔を振り返るというか、大きくなくてもいい小さな感動があれば…単純に星がきれいとか、そういうのを感じていただければいいかな」とおっしゃってました。

部屋の窓からは、日本百名山のひとつ御嶽山も見えます。また宿の庭先に「御嶽山展望所」と名付けられた広場があり、ここからの眺めがまた美しいのです。とくに夜明け前後はすばらしい色合いですよ~。

□ 駒の湯 → http://www1.ocn.ne.jp/~komanoyu/

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