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阿蘇を愛したイタリアンシェフ

熊本市内のイタリア料理店「リストランテ・ミヤモト」のオーナーシェフ・宮本けんしん(38)。自ら生産農家を訪ね、生産者の想いが詰まった農産物を食材にする彼の料理は「熊本イタリアン」と称される。
阿蘇を訪ねるうちに彼は気付いた。「阿蘇の農業文化はすごい!しかし、そのことに阿蘇の人々は気付いていない。」

阿蘇では、草原の草を野草堆肥にして野菜や米を作る。草原の草を食べさせて「あか牛」を育てる。そのために「野焼き」や「輪地切り」などの壮大な共同作業を地域の人々が行う。これにより日本の草原の4割が阿蘇に集中している。人の手によって守られた草原は、希少種の宝庫となり、生物多様性を保つ。そして、美しい草原が年間1400万人の観光客(経済効果)を呼ぶ。阿蘇には草原を核にして農業と生活が存在している。しかし、その価値を生産者も消費者も認めていないから、人々は地域固有の農業文化を放棄する。結果、阿蘇の草原は衰退の一途をたどる…。

宮本さんは、世界に誇る農業文化が阿蘇にはあるという想いを強め、国連食糧農業機関(FAO)の世界農業遺産への登録を提唱し、今年5月の認定の原動力となった。現在は講演会など本業以外にも忙しい。
ひとりのイタリアンシェフが、なぜそこまで…。彼の想いに迫る。
リストランテ・ミヤモト
〒860-0804 熊本県熊本市中央区辛島町6-15
TEL:096-356-5070
その他の情報
店休日:火曜日 http://www.ristorantemiyamoto.com/

取材後記

阿蘇は熊本を代表する観光地です。阿蘇に遊びに来た多くの人が感じるのは、景観の素晴らしさと思います。阿蘇の草原の景観は農家が中心となって維持してきました。自分たちが阿蘇で農畜産業を営むために草原を維持管理し、その結果として素晴らしい景観と価値を生みだしていたのです。しかし、日本の中山間地域の農業は厳しい状況に置かれ、阿蘇も例外ではありません。阿蘇の農業の衰退は、草原の衰退を意味します。どうやって草原を守っていくのかは熊本では大きな課題です。その問題に向き合ってきたのが今回の主人公・宮本さんです。

宮本さんは阿蘇の草原を守る(=農業を守る)ために世界農業遺産に注目しました。世界農業遺産はユネスコ世界遺産ほどの知名度はありませんが、中国・ハニ族の棚田、ペルーのアンデス農業、インド・カシミールのサフラン栽培など世界的に有名な伝統農業が認定を受けています。世界遺産は歴史的・文化的・自然的に価値のある土地や建物が対象です。それに対し世界農業遺産は、“人間の営みの価値”と言われています。その土地で生きていくための知恵と工夫に対して世界的な価値を与えているのです。

番組では短い紹介でしたが、世界農業遺産の認定を受けるまでの活動はとても忙しく、店の営業をしながら毎日のように勉強会・打ち合わせ・PR活動が続いたそうです。そして、大変だったのが阿蘇の野焼きの価値を世界食料農業機関に伝えること。世界的には焼畑が知られていますが、野焼きとは目的が大きく異なります。しかし、英語ではどちらも“burning(燃える)” と表現します。さらに、焼き畑農業は世界中にあります。視察の時に「世界各地の焼畑農業との違いがわからない」と言われ、阿蘇は認定の危機を迎えました。宮本さんはイタリア・ローマの世界食料農業機関本部で改めてプレゼンテーションを行い、危機を乗り越えたそうです。

宮本さんにとって、阿蘇の世界農業遺産認定は大きな出来事でしたが、最終目的ではありません。世界農業遺産をキッカケにして“地域の誇り”を持って、文化的に豊かで経済的にも持続可能なシステムを築き、その恩恵を地域全体で享受できることが目的です。簡単に言えば、「ご近所さんが環境に配慮しながら美味しいものを一生懸命作るから、近所での買い物を少し増やして、美味しいものを食べて皆でHappyになりましょう」ということです。だから宮本さんの料理は、熊本の食材にこだわる熊本イタリアンなのです。

最後にお店の情報になりますが、リストランテ・ミヤモトは熊本市中央区辛島町にあります。人気店なので事前予約をした方がいいですよ。店休日など詳しくはお店のホームページで!
http://www.ristorantemiyamoto.com/
担当 RKK 熊本放送 薛(せつ) 力夫

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