田畑竜介Grooooow Up

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ウィル・スミスに同情的な日本人の意識に潜む「女は守るもの」

ウィル・スミスに同情的な日本人の意識に潜む「女は守るもの」

アカデミー賞授賞式でのウィル・スミスの平手打ちは、暴力に対する厳しい意見が多い欧米に対し、日本国内では同情的な意見が多い。RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演した、神戸金史(かんべ・かねぶみ)RKB報道局解説委員は「“女性は守るもの、守られるもの”という意識が強ければ、暴力を肯定してしまう意見が強くなる」と指摘した。

日本人のSNS投稿はウィル・スミスに共感する声が多い

神戸金史RKB報道局解説委員(以下、神戸):5日の毎日新聞朝刊のコラムで、大治朋子記者が、アカデミー賞の平手打ち騒動についてコラムを書いていました。アカデミー賞の授賞式で、ウィル・スミスさんの妻に、司会者が「『G.I.ジェーン2』が待ちきれないよ」と言って。妻のジェイダさんは、自己免疫疾患で脱毛症だと公表し、頭をそり上げていました。映画『G.I.ジェーン』は、女性の主人公が髪をそり上げて米軍の特殊任務に臨む、という映画です。ジェイダさんは表情が固まってしまって、スミスさんが立ち上がって司会者を平手打ちしました。

 

神戸:SNSでは多くの意見が飛び交っていました。たまたま私の友達で、乳がんで1週間ぐらい前に乳房の再建手術を終えたばかりの女性がいて、抗がん剤治療で髪の毛がなくなっていました。髪がない写真を自分でSNSに公表することで立ち上がろうとしていた人でした。その女性が「ジョークで済ませるにはその言葉の暴力はあまりに酷い。坊主が似合うから、前向きに見えるからって、そのかげにものすごい苦悩と葛藤があるんだよ。夫として妻を守ったウィル・スミスの言葉に涙が止まらなかった」と投稿されていて、「なるほどなあ」と思ったんです。

 

坂田周大アナウンサー(以下、坂田):当事者の声として非常に重く響きますね。

 

神戸:本人を直接知っているので、そう思いました。その投稿に寄せられたコメントで、いろいろな方々が、「暴力はいけないことですが」と言いながらも、「俺もきっと同じことをする」「自分の大切な人が投げられたら僕も殴ります」「言葉の暴力は同じように、あるいはそれ以上に人を傷つける」と書いていました。手を出したウィル・スミスの方に共感する声がすごく多かったんです。

「自分が正しいと思い込んで振るう暴力」=歪んだ正義

神戸:日本では妻を守ろうとしたと同情的で、ワイドショーなどでもそういうコメントがいっぱいあったと思うんですが、欧米は「何があっても暴力はNGだ」「手を出したら負けなんだ」という文化なので、大きな批判が出ています。司会者の下品な言動以上に、理性を失い、華やかなイベントをぶち壊したことを、公人としてあるまじき行為だと考えている、という意見がありました。

 

神戸:逆に、大学時代の先輩に、殴られて大きなケガを負ってしまった人がいます。お酒を飲んでいて、相手は初対面の方だったそうですが、酔っ払った頭の中で妄想を膨らませて勝手に侮辱されたと思い込んで、いきなりビールジョッキで顔を殴られたそうです。

 

武田伊央アナウンサー:えー!

 

神戸:顔面を骨折し、何度も手術することになって、かなり大変だったんですね。この先輩も、フェイスブックに投稿していました。

「その後ある場で罵詈雑言を友人に吐き付ける者が居て、その友人が、『そりゃ殴るだろう』と思えるような場に居合わせたことがあります。私はその場に於いて不快な言葉を浴びせられた友人が拳を上げるのを、とにかく止めることしか考えませんでした。暴力を振るってしまった瞬間、その場のカタルシスと引き換えに、友人はダークサイドに墜ちると思ったからです。ウィル・スミスの気持ちがわかるというのは簡単です。でも私はそれ以上に全力で暴力行為を全否定いたします」

「あのアカデミー賞の日から1週間ずっとモヤモヤ考えてきて、初めから多分結論は決まっていたのですが。どう表明すべきかまとまりませんでした。結局まとまらないままでも、あんなことは「許すべきでない」としか言いようがありませんでした。言われなき暴力で死にかけた身として、いわれある(と主体者が思い込んでいる)暴力も、全面的に否定いたします」

坂田:「いわれ(謂れ)ある」?

 

神戸:殴る人が、自分が正しいと思い込んで振るう暴力ですね。この先輩の意見も、腑に落ちました。たまたま友達2人から正反対の意見が出たので、面白いなと思って読んでいたんです。冒頭で紹介した毎日新聞の大治朋子さんは、『歪んだ正義 普通の人がなぜ過激化するのか』という著書を出しています。テロリズムや、コロナ禍の自粛警察などに共通する「暴力のメカニズム」を解き明かすという本で、非常にわかりやすい。今朝のコラムで大治さんは、「男は女を守るものという意味合い」がにじんでいないか、と指摘していました。「女性のためと称して暴力による支配を正当化する行為と紙一重の世界でもある」と、大治さんは書いていて、本当に説得力がありました。

 

神戸:ジェンダーへの意識が欧米と日本ではかなり違います。女性は守るもの、守られるものという意識が強ければ、暴力を肯定してしまう意見が強くなるなという気がしました。文化の違い、暴力に対してどう考えるかということに、いろんな視点を提供する事件だったと思っています。

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2022.09.29
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