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性暴力被害者が苦しむPTSD~女性記者が訴えた長崎地裁判決から考える

「性暴力」は、深刻な社会問題だ。被害に遭ったことを押し殺して生きている人、心的外傷後ストレス障害(PTSD)で苦しんでいるも少なくない。RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で、2007年に長崎市幹部から女性記者が受けた性暴力に関する判決から、神戸金史(かんべ・かねぶみ)RKB解説委員が見えない被害の実態を考えた。  

長崎市幹部による女性記者への性的暴力


2007年7月に長崎市原爆被爆対策部長だった男性幹部から性暴力を受けたとして、報道機関の女性記者が市に7477万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、長崎地裁は幹部による性暴力は職務に関する違法行為と認定した上で、賠償命令を出した。(5月30日に長崎で出た裁判の判決を伝える西日本新聞記事より)
性暴力の問題は本当に難しいんですが、被害を受けた方の実情はやはり深刻だ、と判決を見て思いました。別の市幹部から、週刊誌などに「2人は男女関係にあった」と虚偽の情報が流された。これも判決の中で認定されている。ほかに事件から10年以上経った市議会で議論になった時「被害者はどっちだ」というヤジが飛びました。加害者が、発覚した後の内部調査を受け、死亡しているのです。自殺とみられます。「被害者はどっちだ」という声。これもPTSDをよりひどくしたんじゃないかと思うんです。

法廷で読み上げられた言葉の重さ

今日は、PTSDの話をします。別の裁判ですが、暴行を受けた女性が法廷で語った内容が4月、そのままネット上に転載されていました。全文を読んで、非常に感銘を受けて保存していたんです。この方は、会社勤めをし始めたばかりの新入社員で、自宅に男性が侵入してきて性的暴力を受けてしまいました。PTSDを発症して「中程度」と認定をされています。

帰宅したときには、避難経路を確保しながら、クローゼットの中やお風呂場の中に人が隠れていないか慎重に確認して、やっと上着を脱ぐ。そういった行動や癖が抜けません。

 

1年近くは普通の時間にベッドで眠るのがこわい日があり、そういうときは明け方まで居間で過ごし、被害時刻を過ぎた5時前になってからベッドで寝ます。

 

部屋を移動するときも、家の中のドアを開けるという、たったそれだけのことがものすごく怖いのです。ドアの向こうに人がいるような感覚が、あのときの恐怖と身体の強張りを同じように感じて、心臓がバクバクいって、その場で動けなくなるのです。
この方は、ダメージを受けている中で会社を辞めざるを得なくなったんです。

全社のプロジェクトを統括する企画部で、会社のなかでも中心的な部署でした。そこで新規事業の開発に関わっている最中でした。新卒で配属されることはなかなかない部署で、配属が発表されたときは本当に嬉しかった。

 

良くしていただいた人たちにちゃんと話もできないまま、事件前の13日に最後に会ったまま、事件後一日も会社で働くことなく退職する結果になったことに、とても残念で心苦しさを感じます。
新入社員で、その後1日も出社できずに退社している。これが、「中程度」のPTSDなんです。この方はたまたま、ジェンダーについて大学時代にちゃんと勉強していたそうです。性教育、人権教育をきちんと学んできた。たまたま自分にそういう知識があったから、中程度で済んだと。「知識と環境が私を守ってくれたのです」という言い方をしています。

 

PTSDになってしまうような状況は本当に許せないことです。知識を盾にして、裁判で自分の言葉でしゃべったわけです。「これが傷害でなかったら何なのでしょうか」と主張し、しっかりとした判決が出ています。一方で被告人(加害者)側はPTSDが中程度であるということを「半年で治療を終えられる程度」と主張していました。

「やってらんねえ」の絶望感

この方は「素代香(そよか)」さんと言い、「THYME(タイム)」という性暴力被害者支援情報プラットフォームを作っています。検索すると、全文が読めます。ぜひ読んでいただけたらと思います。男性は、加害者になるだけでは決してないんですが、僕も読んでみて非常に胸打たれるものがありました。素代香さんは、実はその後痴漢の被害にも遭っていると書いています。

この事件の被害に遭った後、やっと日常生活が送れるようになって復職面談に出かけた日、痴漢の被害に遭いました。死にたくなりました。「やってらんねえ」と思いました。みんなみんな、捕まっていないです。この社会では「しょうがないこと」「よくあること」という扱いをされるんです。
福岡県警のアンケート調査では、女性2000人に聞いてみたところ、35%が痴漢の被害を受けたことがある。男性でも、1000人近くの中で4.8%。女性に限る話ではないということでもあります。加害者が「被害者にも隙があったんじゃないか」という言い方をすることもあります。私たちも、つい「女性の側に何か問題があったんじゃないか」と考えてしまったり、言ってしまったりするかもしれません。それ自体も一つの加害に当たることなんだ、とぜひお伝えしたいのです。

     

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