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東アジア情勢に詳しい、元RKB解説委員長で福岡女子大学副理事長の飯田和郎さんが、5月18日放送のRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演。先週行われたアメリカのトランプ大統領の中国訪問を振り返り、習近平国家主席が「会談以外の場」で見せた過剰とも言えるおもてなしと、そこに込められた政治的な思惑について解説しました。
「熱烈歓迎」の第一幕・第二幕:社会主義国の「やり方」を見せつける
先週金曜の15日まで3日間、アメリカのトランプ大統領が中国を訪問しました。習近平国家主席との米中首脳会談を通じて、双方は「安定した関係」を構築していくことを確認しました。貿易・通商、イラン情勢などさまざまなテーマが語られましたが、台湾問題に関して習近平氏は「処理を誤れば、米中両国は衝突し得る」と警告するなど、かなり強いメッセージが発せられました。
しかし、首脳会談の場以外では、習近平氏は大統領に全く違う表情を見せていました。大統領訪中を前に、中国は「ピンポン外交」の美談を掘り起こすなど様々な仕掛けを行ってきましたが、大統領の北京滞在中もあれこれと仕掛けが繰り出されていました。今回は「おもてなし」という観点から、中国側の狙いを探っていきます。
トランプ大統領は13日夜に北京に到着しましたが、到着の瞬間から「思惑を込めたもてなし」がすでに始まっていました。
北京空港に着いた大統領専用機のドアが開き、タラップを降りる大統領を国家副主席が出迎え、小さな女の子がブーケを渡す。ここまではよくある光景です。しかし、大統領がレッドカーペットの上を歩き出すと、その左右には男女数百人もの若者が立っていました。スカイブルーの揃いの衣服を着た全員が、右手に中国国旗、左手にはアメリカ国旗の小旗を持ち、一糸乱れぬ同じ振りをつけながら、声を張り上げてこう繰り返していました。
「歓迎します。歓迎します。熱烈に歓迎します!」
実は、外国からの賓客をこうしたスタイルで迎えるのは、古くは毛沢東時代から存在しました。翌14日、北京の人民大会堂の屋外で歓迎式典が開かれましたが、ここでは小学生の児童数百人が大統領を出迎えました。両手に米中国旗の小旗や造花を持つ子供たちが、空港での若者たちと同様にぴょんぴょん飛び跳ねて「熱烈歓迎」したのです。
日本をはじめ西側諸国では見られない、選ばれ動員された若者や子供たちの時代がかった動作には、少し「怖さ」を感じてしまうかもしれません。しかし当のトランプ大統領は、歓迎式典後の首脳会談の冒頭スピーチで、出迎えた小学生たちを絶賛していました。
「子供たちに深く感銘を受けました。彼らは幸せそうで、本当に幸せそうでした」
中国側には、こんな思惑があったのではないでしょうか。「これが我々のやり方、社会主義国のやり方だ」「この地球上には、あなたたち自由主義国だけではない。米中2大国は、それぞれ社会主義国の代表と自由主義国の代表なのだ」。そんな強烈なメッセージを感じます。
第三幕のクライマックス:「天壇」で語られた伝統的哲学
空港での出迎えが第一幕、歓迎式典が第二幕としたら、第三幕と思える仕掛けも控えていました。これこそがクライマックスかもしれません。
2時間を超える首脳会談のあと、習近平氏は大統領を北京市内の「天壇(てんだん)」に案内しました。天壇は、かつての皇帝の宮殿だった故宮(紫禁城)、そして万里の長城と並ぶ北京の三大観光名所です。
今から約600年前に創建された天壇は、明や清の時代に歴代皇帝が天に向かって五穀豊穣を祈った施設であり、現在は公園として世界遺産に認定されています。多くの施設が天を表す深い青色(瑠璃色)の瓦で覆われています。そこで習近平氏は、大統領にこう説明したといいます。
「古代中国では、統治者たちはここで、国の平和、繁栄を祈願しました。これは『人民こそが国家の基盤。そして安定した基盤があれば国は安泰』という、中国の伝統的な哲学を映し出しているのです」
「現代の王」としての誇りとトランプ氏への忠告
「伝統的な哲学」の根幹、つまり「国家の基盤である国民のための統治を最優先すること」を、歴史が移り変わり、統治者が代わっても継続してきたのが中国である。そして今日、その統治者=最高位のリーダーが自分である、という習近平氏の宣言ではないでしょうか。
同時に、「私はこの国でそれを実践している。トランプ大統領、あなたはどうなのか?」という問いかけのようにも聞こえます。国際秩序をことごとく覆すトランプ氏への忠告や戒めにも思えます。中国固有の長い歴史を利用し、アメリカ大統領と対等に渡り合えるリーダーを演じたのです。
建国から250年のアメリカは、歴史や文明の長さや深さでは中国に遠く及びません。各国国家元首らが中国を訪れると、必ず名だたる旧跡に案内されます。1972年にアメリカ大統領として初めて訪中したニクソン氏は万里の長城を訪れました。1998年に訪中したクリントン氏が最初に訪れたのは、歴代王朝が都を置いた歴史の街「長安」こと西安でした。一朝一夕では成し得ない5000年の悠久の歴史を示すことで、「アメリカとは異質な中国」を理解させるのが狙いです。冒頭の動員された出迎えスタイルも、その異質さを示す一環と言えます。
ちなみに、日程を終えてトランプ大統領が帰国する際、空港にはまたあの若者たちの集団が現れました。一糸乱れぬ振り付けをしながら、今度は「歓送、歓送、熱烈歓送(熱烈にお見送りします)」と叫んでいました。
「アメリカの王」が去り、「ロシアの王」がやってくる
「異質なアメリカと中国」を例示してきましたが、異質の反対、つまり「同質」の部分もあります。それは、習近平氏もトランプ氏も、自らを「現代の王(王様)」と自任していることではないでしょうか。
トランプ大統領の訪中は、来年秋に開かれる共産党大会で任期4期目入りを目指す習近平氏にとって、自分こそが「王」である様を国内外に見せつける絶好の舞台でもありました。
そして今週19日、20日の両日、今度はプーチン大統領が中国を訪れます。「アメリカの王」が去った直後に、北京には「ロシアの王」がやってくるのです。
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この記事を書いたひと

飯田和郎
1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。2025年4月から福岡女子大学副理事長を務める。




















