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木曽路を行く 3

江戸時代、中山道を行き交った人々の追体験を楽しむなら、宿場町だけでなく街道も歩きましょう!馬籠宿から妻籠宿間の約8kmは道が整備されて歩きやすい、かつ、そばを道路が通っていて、部分歩きにも手軽な区間です。このルート、海外で出されている旅情報本に紹介されているそうで、とっても外国人観光客が多いんです。私も韓国の方とスペインの方に出会いました。“ビューティフル ジャパン”の象徴のひとつなのでしょうね。案内して下さったのは、妻籠宿案内人の会・案内人の松瀬康子さん。中山道は山道ですが、東海道に比べて治安が良かったので、女性の旅に多く使われ、ゆえに「姫街道」との別名があります。皇女和宮が徳川へのお嫁入りで通ったのも中山道。その行列の人数は8万人にも及んだそう。いやあ、8万人って…一列に並んだら、宿場と宿場の間を埋められるくらいの人数ではございませんでしょうか…。松瀬さんは「和宮も通った道を歩いて、歴史を振り返りながら、また全体の景色を含めてロマンを感じていただければ…」とおっしゃってました。確かに、中山道の空気って、タイムスリップしたような不思議な清涼感がありましたねえ。

歩くことそのものも楽しいのですが、途中の見どころポイントもいろいろ。一石栃立場茶屋(いちこくとちたてばぢゃや)という江戸時代の家屋では、ボランティアガイドさんが囲炉裏に火をおこして、お茶でもてなして下さいます。

また、神居木(かもいぎ)と呼ばれる、さわらの巨木もすばらしい姿です。樹齢約300年、胴周り約5.5m。両腕を天に伸ばしたような枝がユニークで、その枝陰に神様や天狗が座って、旅人の安全を見守ってる…つまり“神様のいる木”という名前がついたそう。大きさは「風呂桶が300できるくらい」と案内板にありましたが、うーん。とにかく大きいということで(笑)。

そして、男滝(おだき)女滝(めだき)という2つの滝!名前の通り、男滝は水量も多く凛々しく雄々しいビジュアルです。対する女滝は細い糸のような流れが合わさった薄衣のような広がりを感じさせるビジュアル。歩いて1~2分ほど離れた別々の沢から出た2つの滝が、落ちた後は一つの川に合わさるんですよ。ちなみに吉川英治さんの小説「宮本武蔵」では、“煩悩を払いたい”と男滝で修行していた武蔵が、この場所でお通さんと出会うのです。運命の恋。う~ん、ロマンティック~。なお、この区間を歩く時は、必ずクマ除けの鈴を持って下さい。妻籠宿か馬籠宿の観光案内所で貸し出ししています。また途中にクマ除けの鐘が設置してありますから、鳴らしてから進んで下さい。

妻籠宿は、お出かけになった方も多いかもしれませんね。江戸時代の風情が残った宿場町は、すばらしい雰囲気に包まれています。その中で私のイチオシは「脇本陣奥谷」。代々脇本陣・問屋を勤めた家で、現在の建物は明治時代の建築です。それまで禁制だったヒノキをふんだんに使った重厚なお屋敷なんですよ。明治天皇も立ち寄られたとのことで、お使いになった机、使ってもらえないまま保存されているトイレなど見ることができます。それを案内してくださったのが、松下郁子さん。何よりも楽しいのは、常に囲炉裏に火が焚かれていて、それを囲んでお話が聞けること。囲炉裏の囲み方にも決まりがあって、一番温かいのはお父さん=家長の座。畳敷きで、囲炉裏の灰の上に足置きの木材が置かれます。その向かい側から子供達が薪を足してお父さんを温めます。子供達の座は板張り。お父さんの右手が、おばあちゃん(お姑さん)とお母さん(奥さん)の座。子供達に近い方がお母さんの座なんです。ゴザが敷かれていて言われるまでわからなかったのですが、お姑さんの座は畳なのに、お母さんの座は板張り!おおお…。

ここはまた、島崎藤村の初恋の人の嫁ぎ先でもあります。その縁で、藤村直筆のお手紙が残されてるんですよ。上の階には隠し部屋が作られていたりして、しかも日向の松や豊後の竹が使われていて、遠く離れた九州の材木を引っ張ってこられたこの家の財力というものが想像できます。伊勢神宮を模した神棚もすごく立派で、棚を超えて小ぶりなお社でした。
そして、この家は秋分の日から春分の日までの秋冬限定で、こんな趣きある様子を見せてくれるのです。囲炉裏の燻され具合、お天気、日光の差し込む角度=時間+日付などで日々変わる光の芸術です。

妻籠宿は日が暮れてからの雰囲気がステキでした。日暮れ時から雨が降り始めたので、宿場の軒先に点ったあかりが濡れた路面に反射していい風情…。観光客がいない景色は江戸率が猛烈にアップしますよ!昼の妻籠しか見たことない人は、夕暮れ、夜、早朝の妻籠を絶対体験して欲しい!
□南木曽町(なぎそまち) → http://www.town.nagiso.nagano.jp/kankou/index.html

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