目次
東アジア情勢に詳しい、元RKB解説委員長で福岡女子大学副理事長の飯田和郎さんが、7月27日放送のRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演しました。今回は、中国・上海で開催された「2026年世界AI大会」を切り口に、中国が世界に仕掛けるAI戦略とアメリカとの覇権争いについて解説しました。
社会に浸透するAIと、米中の覇権争い
AI(人工知能)は、予想をはるかに超えるスピードで社会に浸透しています。このところの株価の乱高下も、AI・半導体関連株に主に起因しています。私が勤務している大学の現場でも、講義内容をより分かりやすくするために欠かせないパワーポイント作りにAIを活用する例が出てきました。データを入力すればAIが作成をサポートしてくれるまでになっており、気を抜けば時代に取り残されそうです。
現在、AI技術ではアメリカが圧倒的リーダーです。研究・開発、資金、さらに優秀な人材がアメリカに集まり、世界を牽引しています。そのアメリカに追いつこうとしているのが中国であり、明確な国家戦略としての巨大な投資を続けています。
習主席自ら号令…上海で「世界AI大会」開催
その中国最大の経済都市・上海で先ごろ、「世界AI大会」が開かれました。当然ながらアメリカを視野に入れたものでしょう。この大会は中国政府が毎年開催しており、9回目を迎える今年は国連のグテーレス事務総長も招かれるなど、相当な力の入れようです。
AI開発の先頭に立ち、号令をかけているのが習近平国家主席です。開会式では習主席自らが北京から駆けつけて基調演説を行い、次のように訴えました。
「『世界AI協力機構』がここ上海で設立されました。これは中国がグローバルサウスの要望に応え、国際社会を団結させて、AIの発展とガバナンスを積極的に推進する重要な措置です。AIが今後、発展していく歴史において重要な節目となるでしょう」
「世界AI協力機構」の設立が意味するもの
演説に登場した「世界AI協力機構」とは、習主席が基調講演を行なう前日に同じく上海で設立式典が開かれた新しい国際組織です。ロシアやブラジル、ベラルーシ、キューバなど世界29の国々が加わりました。もちろん呼びかけの中心は中国であり、本部も上海に置かれます。
どのような組織かというと、「AI分野における国際協力を推進する政府間組織」です。中国外務省は、「中国はAIの発展戦略、ルール、技術の連携・調整を強化し、AI分野における国際協力と国家を超えたガバナンスを促進していきます。AIが有益で、安全かつ公平な方向へ向かうよう、健全で秩序ある発展を遂げるよう取り組んでいきます」と説明しており、その中心にいるのが中国というわけです。
参加した29カ国を見ると、ロシアやベラルーシといった国々に加え、中国が支援するアフリカ・アジアから22カ国が加わっています。この数字が示すように、中国の影響力が強い、いわば「お友だち」が中心の組織であり、日米などG7(主要国)は加わっていません。
グローバルサウスを取り込む対米戦略
習主席の演説に「中国がグローバルサウスの要望に応え…」というくだりがありました。中国は自らを「新興国・途上国の牽引車」と位置づけ、様々な投資や支援を行ってきました。これらグローバルサウスの国々が発展・成長していくうえで、AIは大きなツールになります。
アメリカに次ぐAI大国である中国は、今度はAIを通じてグローバルサウスへの影響力を拡大したいと考えています。当然、アメリカへの対抗手段としてAI開発を急ぐとともに、ルール形成の主導権も握りたいわけです。
「世界AI協力機構」という名称を聞くと、同じく中国が主導する地域協力組織「上海協力機構」を連想してしまいます。2001年に発足(前身組織の設立は1996年)した上海協力機構は、軍事や経済などの協力をうたい、欧米主導の国際秩序への対抗軸という性格が強いものです。
それから30年後にやはり中国が音頭を取って生まれた「世界AI協力機構」も、名称が似ているだけでなく、欧米に対抗しようとする色彩が同じように強いように映ります。
途上国支援とオープンソース化による差別化
中国は具体的にどのような手法を繰り出すのでしょうか。その一端を習主席が明らかにしています。例えば、今後5年間で開発途上国に向けて5000人を対象にAI分野の研修を行います。また、中国が開発したAI搭載の気象早期警報システムを、機構の加盟国それぞれに適した(汎用化した)形で提供していくといいます。
気象システムの提供が示すように、習主席が「人類のための」「人間を中心にした」AIの発展・創造を繰り返し呼びかけたのも特徴です。中国はAIのデータなどを一般に公開するオープンソース化を進めることで、トップを走るアメリカの私企業との差別化を図り、新興国への影響力拡大を狙っているのです。
「軍民融合」への警戒と活況のAI産業
しかし、AIの軍事利用やテロへの悪用といった懸念は絶えず存在します。中国国内の主要都市では、AIによる無人の自動運転タクシーや無人運搬装置が実用化され、「人類のための」AI活用が進む一方で、顔認証や個人の居場所特定など、国内の治安維持にもAIが大きな役割を果たしています。さらに、無人ドローンや人型・犬型ロボットなど、紛争地で兵士の代わりとなる技術にもAIが活用されています。
中国は民間の力と合わせ、AIを中心とした先端技術の「軍民融合」を国家戦略に据えています。技術進歩が著しい中国のAI産業への危機感から、アメリカやEUは国家の安全保障を理由に中国製テック製品の輸入を制限しています。こうした中で、中国が自国主導で新たなAIのアライアンスを構築しようとする動きに主要国が警戒を強めるのは当然かもしれません。
一方で、政府のテコ入れを受けた中国のAI関連業界は活況を呈しています。今年の世界AI大会に関連したイベントには各国の企業約1100社が3000点を超える製品やサービスを出品しましたが、その大半は中国企業だったといいます。共同通信の報道によると、中国の政府系シンクタンクは、中国のAI産業規模が2024年の約21兆5000億円から2025年には約28兆円へと3割も成長したとまとめており、今年はさらに伸びるのが確実です。
そして、この業界をリードする若手・中堅の新興起業家やイノベーターの多くは、アメリカへの留学帰国者です。アメリカの大学や研究機関で学び、アメリカのAI大手でさらに研究を積んだ後に中国に戻って起業するケースが目立ちます。かつてのトランプ政権が外国人への留学ビザを厳格化したのも、こうした技術流出が大きな要因のようです。
AIをキーワードにした米中両国のせめぎ合いから、今後も目が離せません。
この記事はいかがでしたか?
リアクションで支援しよう





















