PageTopButton

アンゴラ大統領が日本を訪問「アフリカは国際社会の混迷示す縮図」

中国の習近平主席がロシアを訪問し、プーチン大統領と首脳会談を行った。かたや、岸田総理がキーウを訪れ、ゼレンスキー大統領と会った。ウクライナを巡り、国際社会が目まぐるしく動いている。そんな中、アフリカ大陸南西部・アンゴラ共和国の大統領が日本を訪問した。3月23日、RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演した飯田和郎・元RKB解説委員長が、アフリカの途上国をめぐる国際情勢について解説した。  

“東西冷戦における代理戦争の典型”アンゴラとは?

アンゴラのロウレンソ大統領は3月12日から15日まで日本を訪れ、岸田総理と会談したほか、大統領は天皇・皇后両陛下と会見した。その直後に、韓国の尹錫悦大統領が来日し、関心はそちらの方に集まったが、アンゴラと日本の関係も、調べてみるとかなり奥深い。それは国際情勢とも大きく結びついている。

 

アンゴラはアフリカ大陸の大西洋に面する。面積は日本の3.3倍。人口は約3,000万人。公用語はポルトガル語で、つまり、かつてはポルトガルの植民地だった。1975年に独立した後も27年にわたって内戦が続いた。アメリカはアンゴラの反政府勢力を支援。一方、旧ソビエト陣営は、政府軍を支援した。東西冷戦における代理戦争の典型だった。

 

そのアンゴラ、冷戦時代は社会主義諸国との関係が中心だったが、冷戦後は、西側諸国とのつながりを強めている。

 

岸田総理は首脳会談で、ロウレンソ大統領にこう述べている。

「アンゴラはアフリカ屈指の産油量を誇るとともに、豊富な鉱物資源を有しています。経済的潜在力の高い国であり、日本としても財政・金融改革、経済改革を支援していきます」
アンゴラはアフリカ有数の産油国だ。ダイヤモンドの採掘量は世界第6位。だが、アンゴラで採れるダイヤが「紛争の資金源になっている」との批判もある。国際NGOは、紛争回避のためにも、国際社会で金の流れを監視すべきだと指摘している。

 

いずれにせよ、豊かな地下資源を有するアンゴラとの関係を、日本も重要視していかなくてはならない。

ウクライナ侵攻をめぐるアンゴラのスタンスは?

社会主義国との結びつきが強かったアンゴラにとって、ロシアは最大の武器供給国だ。そして、小麦や肥料の輸入もロシアに頼っている。前述のように、独立戦争や内戦時にはソ連、それにロシアから支援を受けてきた経緯もある。

 

ウクライナ侵攻をめぐりロシアを非難した2022年10月の国連決議では、アンゴラは「賛成」した。一方、ロシア軍の即時撤退を求めた2023年2月の国連決議では「棄権」に回っている。西側と同一歩調ではない。

 

ロウレンソ大統領は来日中に朝日新聞の取材に応じ、国際社会でのスタンスについて「一つの国と仲がよいから、ほかの国を排除するということではない。理想は、それぞれの国と友好関係を結ぶことだ」と述べている。国益を考え、中立的な立場を取る姿勢を示している。

アフリカ途上国と中国の「債務のワナ」

中国は、アフリカの途上国への進出を続ける。中国が貸し出した開発資金が、いわゆる「債務のワナ」となって、その国の財政をひっ迫しているケースも目立つ。

 

中国はこれまで、アンゴラに日本円で総額5兆円規模の融資をした。その資金は道路や橋、鉄道などの整備に使われてきた。アンゴラは今も推定で3兆円近い対中債務を抱え、石油で中国に返済しているとされる。ロウレンソ大統領が、石油依存からの脱却を目指し、ロシアや中国以外の国にも接近するのは、そんな背景がある。

 

一方、アメリカの国防総省は2022年11月、中国の軍事力に関する年次報告書を公表した。この中で、「中国がアンゴラに軍事基地や補給施設の開設を検討している」との分析を示した。大西洋に面したアンゴラは軍事的な要衝にもなる。

 

中国の秦剛外相は1月、アフリカ5か国歴訪の一つとして、アンゴラを訪れている。秦剛氏にとって、外相に就任して初の外国訪問がアンゴラを含むアフリカ歴訪だった。資源大国・アンゴラ重視の姿勢がよくわかる。

アンゴラとの関係、日本は「質」を重視

日本とアンゴラの首脳会談後、日本の外務省はこう発表をしている。

「両国首脳は、透明で公正な、開発金融の重要性を確認し、両国で協力していくことを確認しました」
透明で公正な、開発金融。この文言は、中国が主導する、いわゆる「債務のワナ」を暗に批判しているようにも思える。

 

「透明でない、公正でもない、開発金融」。スリランカは、中国からの債務の返済に行き詰まり、重要な港の運営権を99年間、中国に引き渡した。援助と引き換えに、権益を失う「債務のワナ」の典型例と言われている。

 

岸田総理は、大統領に「日本は『人への投資』を重視する」とも表明した。農業、再生エネルギー、保健・衛生など、アンゴラの将来を支える人材育成への支援を約束した。また、内戦時から残る地雷の除去にも貢献していくと表明した。日本は「質」を重視するわけだ。

 

東西冷戦の残滓。また、ウクライナ侵攻がもたらしたロシアと欧米の対立。それに、中国の台頭や、エネルギーの争奪戦…。アフリカなど南半球の途上国を指す「グローバルサウス」の重要性が指摘される。アンゴラとの付き合いは、それらの要因が交錯しながら、存在する。

◎飯田和郎(いいだ・かずお)

1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。
 

この記事はいかがでしたか?
リアクションで支援しよう