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黒と金 異端の女流象眼師

日本象嵌の常識を覆す女流象眼師・伊藤恵美子(37)。実家の6畳一間の工房に終日籠もり、創作活動に打ち込む。作品はペンダントトップなど直径数センチのジュエリーが中心。それらを客に販売し、生活している。

元々は15年前に熊本の伝統工芸品、肥後象がんの世界に入ったのがきっかけ。平面の鉄型に槌で金・銀の装飾を打ち込んでいく肥後象がんは江戸時代以前からの伝統工芸品で元々は刀の鍔などの装飾が主。「雅味」と呼ばれる武家文化特有の派手さをおさえた奥ゆかしい美が現代もなお重んじられている。だが「金と銀でかわいいアクセサリーが作りたかった」当時の伊藤には「全てが渋くかわいいとは思えなかった」。

そんな時にきらびやかな世界観が特徴のスペイン象がん(ダマスキナード)があることを知り、本場トレドに半年間留学。以降、試行錯誤を重ね二国のデザインや技法をミックスした独自の世界観を確立。2011年にはその技術やデザインが認められ全国的な賞(伝統工芸日本金工展新人賞)も受賞している。この夏、彼女は自らの作家人生で初めてという「球体型」の水差しの表面に象がんを施していく、難しい作業に挑んだ。道なき道を進む、創作活動を追う。
■取材先
担当者:伊藤恵美子さん
住所:玉名市宮原643-2
電話:090-7166-4794
HP:http://oveja-emi.cocolog-nifty.com/blog facebook: https://ja-jp.facebook.com/damasquinador/about INSTAGRAM:
☆emico☆ITO☆
damasquinador de KUMAMOTO, JAPÓN. Inlay Artisan. ZOUGAN-SHI. 象眼師。@damasquinador メール:damasquinador@gmail.com その他:放送に出てくる福岡市・三越での展示販売会は終了しました。
9月19(水)~25(火)で福岡・岩田屋の新館6Fのイベント「ジャパンセンス」で展示販売会あり

取材後記

「頭の中ではできている。」伊藤さんが取材中によく言っていた言葉です。スタートは遅いが、一旦取り掛かると眠るのも忘れ没頭する。そして「頭の中から取り出して」作る作品は一つとして同じものがない「一点もの」に。自然にそうなるとの事です。
そして客からのオーダーは基本的に受けない。「相手の事を考えたりオーダーに沿う作業が苦手」。購入客同士が「それ象がんだよね、ではなく伊藤さんの物よね」という話が出た、という話を聞いた時に喜びと感謝を感じたそうです。小さいの頃の夢は画家。

しかし小学2・3年生の時にピカソの画を見て「私が目指す世界ではない」と諦め、象がんの世界に入る前は雑貨店でかわいいアクセサリーを作っていた。そのピカソの母国スペインに留学したのも不思議な縁。現在、スペインはもちろん、象がんの起源と言われる中東のヨルダンやアメリカにも足を伸ばして金工細工の見聞を広め、技術習得も続けています。デザインの源流は「旅」。旅先で目に留まった美術品や広告などのデザインを自分のノートに書きとめたりスケッチしたりすることで頭の中にストックされ、何らかのエッセンスに変換されるのだろうと言っていました。スペインで知り合った象眼師が自分と似たデザインの作品を作っているのを見たときに「まねしている」と思ったそうですが、それだけ感性を認められていると言うことでしょう。

熊本でもスペインでも「自分たちの象がんとは違う」と言われるが両国の技法がないと成り立たない世界観なのでリスペクトしながら今後も創作活動を続けていくという伊藤さん。国内では熊本はもちろん、福岡・大阪・名古屋・東京と各地の展示会に呼ばれる日々ですが、いつの日かスペイン・海外でも「異端の象眼師」として広く注目を集める日がくることを祈っております。
担当:RKK熊本放送 北山周平

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