6月7日と8日、沖縄県・宮古島南方で中国の戦闘機J-15が海上自衛隊のP-3C哨戒機に対し、2日連続で異常接近するという事態が発生した。2機の距離はわずか45mにまで縮まり、極めて危険な状況だったといえる。東アジア情勢に詳しい、元RKB解説委員長で福岡女子大学副理事長の飯田和郎さんが6月16日放送のRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演し、この異常接近事件を深掘りし、中国の空母と戦闘機、そしてその意外な「ルーツ」について解説した。
画像=海自のP-3Cに接近する中国の戦闘機(防衛省提供)
危険な異常接近と中国側の反論
今回の異常接近は、海上自衛隊のP-3C哨戒機が、太平洋を航行していた中国の航空母艦「山東」を監視していた際に起こりました。P-3Cの翼幅が30.4m、J-15の翼幅が約15mであることを考えると、45mという距離がいかに間近であったか想像に難くありません。まさに翼幅2機分に相当するスペースで高速飛行していたことになります。
この危険な行動に対し、中国外務省のスポークスマンは、日本側の防衛省による公表の翌日、「中国の正常な軍事活動に対して行う、至近距離での偵察はリスクとなる。我々は危険な行為をやめるよう、日本側に求める」と反論しました。つまり、「日本が悪い」という主張です。
P-3Cは哨戒機であり、その任務は主に海上で敵の警戒に当たること。中国外務省が言う「至近距離での偵察」とは、海自のP-3Cが空母「山東」を監視していたことを指します。中国側は、自らの空母への監視を妨害するため、J-15を異常接近させたというわけです。
過去にもあった異常接近と接触事故
軍用機が他国の航空機に異常接近するケースは、過去にも発生しています。2014年8月には、南シナ海を巡航飛行していたアメリカ軍の哨戒機に対し、中国の戦闘機がわずか6mまで接近した事例があります。この海域は中国南部、海南島から200kmほどの場所であり、中国側の「ウチの庭先に入るな」という意図があったと推測されます。
さらに深刻なのは、接触事故に至ったケースです。2001年4月、やはり南シナ海の上空でアメリカ海軍の偵察機と中国の戦闘機が空中で接触。米軍の偵察機は海南島に緊急着陸したものの、中国の戦闘機は墜落し、乗員と機体は海中に消えました。
この事故は中国国内で猛烈な反米感情を高め、緊急着陸した米兵24名が中国側に身柄を拘束されるという事態に発展。米中間の交渉の末、彼らが帰国できたのは、緊急着陸から12日後のことでした。
異常接近は、時にパイロット個人の「腕比べ」のような精神状態から生じることもある、と航空自衛隊の元パイロットは推測しています。相手の搭乗員の顔や表情まではっきり見える距離まで接近し、過去には表情やポーズで挑発するケースもあったといいます。
太平洋へ「せり出す」中国海軍と「遼寧」「山東」の謎
今回の異常接近でP-3Cに接近した中国のJ-15戦闘機は、そのP-3Cが監視していた空母「山東」の艦載機でした。現在、中国海軍は3隻の空母を保有しています。「山東」は2隻目に建造された初の国産空母であり、1隻目の「遼寧」と共に今回、日本列島から南の太平洋で活動していました。中国の空母2隻が同時に太平洋で活動するのは、これが初めてのことです。
これは、中国が海洋進出を急ピッチで進めていることを象徴する出来事です。2017年、中国の習近平国家主席はトランプ米大統領との首脳会談後、「太平洋には中国とアメリカの2つの国を受け入れる十分な空間がある」と発言しました。
この発言は、太平洋を米中で二分しようとする中国の野心の表れと受け取られ、中国の膨張政策を象徴するかのようです。その狙いに沿うかのように、中国はより多くの空母を保有し、戦闘機を載せてどこまでも航行できる能力を追求しているのです。
しかし、ここで少し奇妙に感じる点があります。「山東」が初の国産空母であるにもかかわらず、中国海軍は既に「遼寧」という空母を保有しているのはなぜでしょうか。
旧ソ連、そしてウクライナが握る中国海軍のルーツ
実は、中国初の空母「遼寧」は国産ではありません。そのルーツは、旧ソ連の未完成空母にあります。ウクライナ共和国内で建造中にソ連が崩壊し、ウクライナに引き取られていたこの空母を、中国領マカオのレジャー会社が「海上ホテルにする」と称して1998年に購入しました。
しかし、海上ホテルになることはなく、2002年には中国軍と関係の深い遼寧省大連の造船会社に移され、研究・改修の末、「遼寧」として運用されることになったのです。当時の中国には空母を一から建造する技術が乏しく、まず中古空母を手に入れて研究することで技術を習得しようとしたわけです。
さらに驚くべきことに、今回P-3Cに異常接近した中国の戦闘機「J-15」のルーツもまた、旧ソ連、そしてウクライナにあります。中国は空母に搭載する戦闘機が必要でしたが、ロシア製の戦闘機を購入しようとしたところ拒否されました。
そこで中国は、ロシア製戦闘機の試作機を保有していたウクライナに購入を打診し、これを入手。その試作機から技術を取得し、「J-15」を開発したのです。
空母そのものも、そして空母に搭載する戦闘機も、そのルーツがウクライナにあるというのは、なんとも不思議な巡り合わせです。ロシアによる侵攻で世界の注目を集めるウクライナが、中国の海洋進出という文脈でも登場するとは。偶然かもしれませんが、国際政治の摩訶不思議さを感じずにはいられません。
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この記事を書いたひと

飯田和郎
1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。2025年4月から福岡女子大学副理事長を務める。