10月20日から23日の4日間、中国・北京で中国共産党の中央委員会総会が開かれ、2030年までの経済の中期計画案が議論された。東アジア情勢に詳しい、元RKB解説委員長で福岡女子大学副理事長の飯田和郎さんが、10月27日放送のRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演し、この議論を基に、減速が顕著な中国経済の現状と、習近平指導部が目指す「自立自強」路線のジレンマについて解説した。
ショールームに見る中国内需の冷え込み
みずほPayPayドーム近くにあるショッピングモール「マークイズ福岡ももち」には、アメリカのテスラと中国のBYD、2つの電気自動車(EV)メーカーのショールームがあります。BYDは今年、世界のEV販売台数でテスラを抜きトップに躍り出ましたが、このショールームの競合は、世界的なEV販売競争の縮図に見えます。
しかし、EV販売は世界的に失速傾向にあり、BYDが国外、特にヨーロッパや日本に活路を見出している背景には、中国本土の内需の低迷があります。
10月20日から23日の4日間、北京で開かれた中国共産党の中央委員会第4回総会では、主に2030年までを見据えた経済の中期計画案が議論されました。この会議の初日に発表された中国のGDP(国内総生産)速報値は、7月から9月までの実質成長率が前年同期比で4.8%でした。今年1~3月の5.4%、4~6月の5.2%から見て、減速傾向が顕著化しており、経済の先行きに長い影を落とし始めています。
消費者物価が示すデフレ圧力
かつて「ダサい、性能が悪い」と悪評だった中国メーカーの自動車は、EVを牽引役に市場を席巻するまでになりましたが、それも一段落しました。そして、不動産バブルの崩壊から始まった内需そのものが低迷しています。
中国政府は昨年秋から、個人消費を押し上げるため、車や家電の買い替えに際して補助金を支給するシステムを開始し、今年は日本円で約6兆3000億円の予算を投じています。しかし、巨大人口の中国といえども、需要には限界があります。
需要が不足すれば、デフレ圧力も強まります。9月の消費者物価指数は、1月から9月までの9か月間で前年同期比0.1%下落しました。特にEVを含む自動車やバイクの価格は競争激化により3.2%低下しており、売り上げが増えても利益が上がらない厳しい状況です。
習主席が号令する「自立自強」の深層
先週の重要会議のコミュニケ(声明)は、向こう5年間の政策方針として、以下のようにうたっています。
「ハイテクノロジーの自立、そして強化を加速し、質の高い生産力を発展させる。ハイテク革命と産業構造転換の歴史的チャンスを捉える」
「自立自強」(他者の力を頼らず、自分自身の力で強くなる)という4文字は、ここ数年、中国の公式文書で頻繁に登場します。これは、「海外に頼らない」――とりわけ科学技術の分野で、この路線を加速させるという習近平主席の号令です。
これは、毛沢東時代に使われたスローガン「自力更生」(自分自身の力で困難から立ち直ること)と似ており、毛沢東のような存在になりたい習主席の執念を感じます。
コミュニケはまた、向こう5年間を「チャンスと共に、リスクが共存し、予測不可能な要素が増す時期」と位置づけ、「強力な国内市場をつくり、中国独自のサプライチェーンも構築しよう」とメッセージを送っています。これは、アメリカのトランプ政権によるハイテク産業への対中輸出規制や関税強化といった逆風に対し、国内で技術開発を急ぐという強い意志の表れです。
隠された失業率と国家安全の優先
コミュニケでは直接言及されていませんが、こうしたメッセージは、現在の高い失業率と景気低迷という大きな課題を、習近平指導部が認識している裏返しでもあります。
中国問題に精通した日本の外務省の元キャリア官僚と意見交換した際、その元官僚は「中国政府発表の統計、特に経済関係の統計は全く信用できない」と言い切りました。失業率についても、今年9月現在で学生を除いた16~24歳の失業率が17.7%と発表されていますが、この元官僚によると、「ほんの数日間だけ働いて、ほとんど失業状態にあっても、失業者とみなされない」ように統計上カウントされており、実態は極めて深刻だといいます。
中国は日本をはじめとする外国資本を呼び込みたいはずですが、習近平政権にとって、経済よりも「国家の安全」が優先されます。スパイ防止法の強化がその典型です。先週の重要会議でも、社会の安定を維持するため統制を強める路線を改めて明確にしました。
習主席が好む「自立自強」という4文字は、対米輸出規制で苦境に立つ自らのジレンマを表すとともに、西側社会をさらに遠ざけるものになりかねません。
首脳会談の行方と「夢」の行方
習近平主席とトランプ大統領は、10月30日に韓国で首脳会談を行う予定であり、低迷する中国経済と、保護主義を強めるアメリカの関係がどうなるのか、注目が集まります。
冒頭で紹介した中国のEVメーカー、BYDは「Build Your Dream」(夢を築こう)の頭文字です。自動車を買う人だけでなく、BYDという企業、そして中国という国家の「夢」を、この難局の中でどう築いていくのか。その行方に関心が集まります。
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この記事を書いたひと

飯田和郎
1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。2025年4月から福岡女子大学副理事長を務める。





















