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マイケル・ジャクソンからピコ太郎まで世界の音楽シーンを変えたあの楽器

世界で最も売れた音楽アルバムといえば、マイケル・ジャクソンの「スリラー」。その収録曲1曲目の出だしで刻まれるビート音は、静岡県浜松市の電子楽器メーカー・ローランド(Roland)の名機・TR-808のものだ。「TR-808がなければ、今のヒップホップはなかった。まさに、世界の音楽シーンを変えた伝説の名機」と、音楽プロデューサー・松尾潔氏は言う。ローランドが創業してちょうど50年にあたる2022年4月18日にRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演した松尾氏がその功績を熱く語った。  

世界で一番売れたアルバムは日本の楽器の音から始まる

ローランドは、バンド経験がある人はおなじみの楽器メーカー。でも、音楽から縁遠い方からすると「ヤマハやカワイなら知っているけど、他の楽器メーカーは知らない」って方がほとんどだと思います。ヤマハ、カワイの2大巨頭に次ぐ存在で、僕みたいにブラックミュージックが好きな人にとっては、ある意味それ以上に親しみのあるメーカーがローランドなんですね。「日本が世界に誇る」という言い方が、大げさじゃない楽器メーカーのひとつです。どんな楽器を作っているか、分かりやすいサウンドがピコ太郎さんの「PPAP」ですね。ずっとリズムを刻んでいるのが、ローランドのTR-808というリズムマシン。僕も含め音楽好きは「八百屋」っていうふうに呼んだりしています。

 

このTR-808は、人力の生ドラムに対抗する形で1980年前後に開発されました。実質2年ぐらいで製造が終わったんですが、その後、どんどん楽器としての価値が高騰して世界中で人気楽器として認知されていったんですね。(楽器の生演奏ではなく)コンピューターにリズムを打ち込んで演奏させるのを「打ち込みサウンド」って言いますが、そのときにドラムの音を打ち込みながら、頭の中のイメージで鳴っているのはこのリズムマシンの音ですね。

 

TR-808は日本ではYMO、アメリカではジャネット・ジャクソンのプロデューサーでもあったジャム&ルイスたちが使って、人気サウンドとして世界中を席巻していきます。有名なところで言うと、世界で最も多く売れたアルバム、マイケル・ジャクソン「スリラー」の1曲目「Wanna Be Startin' Somethin'」、そしてLP盤のB面1曲目「BEAT IT」はTR-808が刻むビート音から始まります。つまり日本の楽器のサウンドで世界一のアルバムはスタートしているんです。アルバムの発売年は1982年ですが、その頃の“時代の音”を作っていたんです。あれから40年経ちましたが、今でもこの音は“現役”なんですね。

 

ドラムの音としてこんなによくできた、人を踊らせるサウンドって今までになかったんです。特に低音域の迫力がものすごくて。もともとは生ドラムの代用としてリズムマシンが作られましたが、代用品の域を越えて、これにしかない迫力や魅力を感じる方が増えてきて、こっちがメインディッシュになっちゃった、みたいな。

ローランド創業から10年足らずで誕生したTR-808

TR-808を世に送り出したローランドは1972年4月18日に創業しています。ちょうど50年経つんですね。創立者は我々の世界でカリスマ中のカリスマとも言える、梯郁太郎さん。梯さんは昭和5年に大阪で生まれ、その後移り住んだ宮崎で10代のときに「梯時計店」を開業しました。時計だけでなくラジオの分解修理をやってるうちに、どんどん音響機器に興味を持って、出身地である大阪に戻ってから電気屋さんを開業。そのとき、京都の同志社大学にあるパイプオルガンを見て「これを電気的に作れないか、もうちょっと安い値段で作れないか」と思い立って作ったのが、楽器としての第1号機でした。それから本腰を入れて、1972年にローランドを設立したんですが、創業から10年も経たないうちに誕生したTR-808を、前述したとおり、坂本龍一さんがいたYMOやアメリカのクリエイターたちがどんどん取り入れて、マイケル・ジャクソンの「スリラー」で大ブレイク。で、回り回ってまたピコ太郎という。

 

ポップミュージックは、譜面で構成する音程(メロディー)とは別に、リズムがあります。ビートと言ってもいいですけれども、そのビートの重要性を知らしめてくれた、そういう意味での功績は大きいですね。

 

もっと言うと、ローランドがなければ世界中のヒップホップは生まれていなかった。少なくとも今ほどメジャーなものにはなっていなかったでしょう。BTSだって元々ラップグループで、ヒップホップカルチャーから出てきたんですから。今のポップミュージックの土台を作ったローランドが50年前に産声を上げたというのがきょう4月18日ということを、ぜひ覚えておいてください。

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