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高い戦闘能力を持つ無人航空機「前線化」日本も米中対立の渦中に

アメリカのペロシ下院議長の台湾訪問をきっかけに「台湾への軍事的圧力を、中国が常態化させている」という表現が頻繁に使われている。そんな中「米中、それに日本を含めたこの地域の情勢において、無人航空機が今後、動向を左右するように思える」と話すのは東アジア情勢に詳しい、飯田和郎・元RKB解説委員長だ。RKBラジオ『田畑竜介 Groooow Up』でその理由を語った。  

中国の無人偵察機が沖縄県周辺にも飛来

台湾海峡の真ん中にある、事実上の停戦ライン「中間線」を越えて中国の戦闘機が昨日連日、台湾側へ飛んできている。昨日17日までで15日間連続だ。これら中国側の動きが「常態化」すなわち、台湾に軍事的圧力をかけることが「当たり前の日常」になりつつある。

 

きっかけはペロシ下院議長が台湾を訪れ、蔡英文総統と会談したことだ。その翌日の8月4日、中国の偵察型無人航空機1機、それに偵察も攻撃も両方できる別のタイプの無人航空機1機も沖縄県周辺に飛来した。この2機は、沖縄本島と宮古島の間を南下し、その後、台湾の東部や南部に向かい、再び沖縄本島と宮古島の間を通って東シナ海に戻った。日本の領空侵犯はなかったが、航空自衛隊の戦闘機が緊急発進(=スクランブル)した。

 

いずれも中国が今回、設定した大規模軍事演習の対象地域の空域だった。「無人機の偵察」とは、地上からの遠隔操作で飛行し、高精度画像を撮影、情報収集することだ。

 

遡って、7月25日にも、中国の無人機1機がほぼ同じコースを飛行した。その時も航空自衛隊の戦闘機が緊急発進して監視したが、沖縄本島と宮古島の間を中国の無人機が単独で飛行し、沖縄の東側や台湾周辺の海域まで進出してきたのは初めてだ。

実戦でも戦績を積んでいる無人攻撃機

民生用のドローンも含め、中国は無人航空機生産が盛んだ。軍民一体となって研究・開発し、軍事用も大型の攻撃用を含む多くの機種をそろえる。中国はサウジアラビアやアラブ首長国連邦、エジプトなど中東諸国に攻撃型の無人機を輸出している。そのビジネスは年々拡大し、これら攻撃型の無人機が紛争地域で使われている。

 

これも米中摩擦の一つだが、新疆ウイグル自治区で続く少数民族への監視など人権侵害に関与したとして、中国の小型無人機メーカーがアメリカ政権の制裁対象になっている。

 

また7月31日、国際テロ組織アルカイダの指導者、ザワヒリ容疑者がアフガニスタンの隠れ家で、無人航空機からの攻撃で殺害された。アメリカ中央情報局(CIA)が指揮し、無人機からミサイル2発を発射した。バイデン大統領が誇らしげに記者会見した。

 

無人航空機を飛ばす側の人的被害がないので、配備や運用には自国民の理解も得やすいし、一方で、行動が大胆になる危険性がある。

自衛隊基地にも米軍の無人機を配備へ

台湾周辺の「常態化」つまり「台湾に軍事的圧力をかけるのを、当たり前の日常にする」ため、無人機はツールの一つに使っていくだろう。無人機先進国である中国は機種も多彩で、偵察も、攻撃も可能だ。台湾軍の状況を探るために情報収集型の偵察用無人機を多数送り込むことが考えられる。その飛来は心理的なプレッシャーという効果もある。

 

一方の台湾も、台湾での無人航空機開発を急ぐ。8月13日、無人機の研究センターを立ち上げ、蔡英文総統も駆け付けた。蔡総統は「政府は無人機の開発に重点を置く」と明言している。あわせて海外からの輸入も試みており、米国から大型の無人機の購入を決めている。攻撃型ドローンは、米中が開発にしのぎを削るテクノロジーになっている。

日本も無関心ではいられない。7月に発表された最新の防衛白書では「各国が人工知能を搭載した無人機や、宇宙、サイバー、電磁波といった分野の開発のための取り組みを進めている」という分析も盛り込まれている。

 

実は、アメリカの無人機に関して最近、日本の防衛政策を一歩踏み出した。鹿児島県鹿屋市にある海上自衛隊の鹿屋航空基地に、アメリカ軍の偵察用無人機を一時配備する計画が進んでいる。9月ごろから1年間の予定で、偵察用無人機8機が配備される計画。アメリカ軍の無人機が自衛隊基地に配備されるのは初めてとなる。

 

中国が軍事活動を活発化させている日本周辺海域、とりわけ南西方面で、警戒や監視を強化するのが目的。一方、地元からは「なし崩し的にアメリカ軍の基地化が進む」と懸念する声も一部ある。

 

日本近海の安全保障環境が大きく変化しつつある。今後、事態をより緊張させる要素として、これら無人機の存在を抜きに語れない。中国も、そして、その中国の軍事的膨張を警戒する我々の側もだ。

飯田和郎(いいだ・かずお) 1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。
 

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