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介護の担い手の多くは女性―「還暦同窓会」に参加して考えたこと

行楽の秋。全国旅行支援もあって、各地の観光地はどこも多くの人でにぎわっている。サンデー毎日元編集長の潟永秀一郎さんも今月初旬、出身地の鹿児島に帰省して同窓会に出席したという。高校を卒業して43年経った同級生たちとの話題はもっぱら「介護」。そこで考えたことをRKBラジオ『立川生志 金サイト』で語った。  

「介護で家を空けられないから」と同窓会を欠席

高校を卒業して43年、本来は去年が還暦の年だったんですが、コロナ禍で開けず、1年遅れで「還暦同窓会」が鹿児島で開かれました。

 

1学年およそ500人のうち130人が、地元はもちろん、福岡や大阪、東京、遠くはアメリカからも集まりました。当たり前ですが、みんないい歳ですから、私も含めて、名札を見なければ分からない変わりようで、ずいぶん頭が涼しくなっていたり、おなかがビア樽になっていたり。でも話をすると、40年前と何も変わらない、一瞬であの頃にタイムスリップできる、同窓会って「タイムマシン」ですよね。

 

ただ、近況の話になると、多くが同じような悩みを抱えていました。「親の介護」です。20年前の同窓会に出た時は、子どもの話や家の話、ゴルフの話とかだったのが、今回はほぼ介護一色でした。

 

なかでも問題になったのは「認知症」です。60代の親世代ですから、80代後半から90代が多いんですが、体はまだ元気でも認知症が始まって大変だといいます。それでも同窓会に来られた人はまだよくて、来られなかった人の中には「介護で家を空けられないから」という女性もいたと聞きました。

 

例えばある女性は、姉2人は嫁いで東京に住んでいて、末っ子の彼女が、家業を手伝い、お父さんが亡くなってからは経営を任せられ、独身で頑張っていました。ところが、お母さんが認知症になったので、来春で店をたたみ、その後は介護生活に入るのだそうです。

 

同窓生の女性たちは似た境遇の人が少なくなくて「日本は、特に鹿児島は、今も介護は女きょうだいに任せて、頭にくるわよね」と言っていました。男性たちは小さくなっていましたが、それで兄弟仲が悪くなることもあるという話も聞きました。

介護は女きょうだいに任せて口は出す「東京の長男」

「東京の長男」という言葉、聞いたことありますか? 東京に就職して故郷を離れ、親の面倒は見ていないのに「施設に入れる」とか言うと「かわいそうだ」とか、口出ししてくるようなケースを言うそうです。うちの高校は、私も含めて、大学進学から親元を離れてそのまま就職、というケースが少なくないので、「東京や大阪、福岡の長男」だらけです。

 

そんな友人の一人は、親の介護を地元に残ったお姉さんに任せっきりにしています。感謝こそすれ、口出しなんてしませんが、今回お姉さんから「帰った時くらいお母さんの世話をしなさい」と言われて、帰郷してから3日間介護を代わって、おむつ替えもしたそうです。「姉貴の苦労が分かったけど、切なかったなあ」と、しみじみ話していました。

 

そう、戦後77年。令和の時代になっても、日本では介護の担い手は主に女性です。特別養護老人ホーム(特老)の不足などもあって、介護はそもそも在宅が多く、厚生労働省の「介護保険事業状況報告」によると、要介護者のうち在宅がおよそ400万人に対し、施設利用者はおよそ100万人。4倍の開きがあります。

 

また、同居する家族が介護者の場合、担い手は配偶者、つまり妻や夫による老々介護が最も多く、およそ24%、次いで子どもが21%、子どもの配偶者(これ、主に奥さんでしょう)が10%です。担い手を男女別にみると、男性35%に対して女性は65%と、倍近い開きがあり、女性の同級生の嘆きはデータ上も裏付けられています。

 

このデータにもあった通り、同居家族による介護で一番多いのは、配偶者による老々介護です。これも妻が夫を見るケースが多く、結果として、老人ホーム入居者の男女比は3対7で女性が多いというデータがあります。女性の方が寿命が長く、夫を看取って入居するケースが多いためです。

孤立しがちな「夫が妻を介護」が招く悲劇

悲しい話ですが、介護殺人の加害者は逆に7対3で男性が多くなります。身近に頼れる身内がいる人はいいですが、一般に男性は職場を離れると地域に親しい人が少なく、人に頼るのも苦手で、孤立しがちなためだと言われます。

 

実は、介護殺人は近年、毎年40件ペースで発生し、その多くは共通点があるといいます。夫婦2人暮らしで、被害者は寝たきりが多く、加害者が1人で介護を背負い、自分も死ぬつもりだったが死にきれなかった――などです。

 

典型的な事件が、11月2日にも神奈川県でありました。足が不自由になった妻を40年以上、一人で介護していた81歳の夫が、79歳の妻を車いすごと海に突き落として殺害した、という事件です。近所の人は「あんなに献身的に、よくなさると思って、感心していました」と話し、夫は警察の調べに「介護に疲れた」と話しているといいます。痛ましい事件です。

母親の介護を通して学んだこと

私の経験を話せば、母は70代まで一人で暮らし、足腰が弱ってから同居しましたが、認知症を発症した後、介護施設に移ってもらい、亡くなる前にまた家に引き取って看取ることができました。妻の理解あってこそで感謝していますが、私もいくつか学びました。

 

その第一は、「介護はプロに」ということでした。認知症がある程度進むと、同居で支えるのは難しく、遠慮がない身内だからこそぶつかって、介護する側まで病んでしまいます。でも、さっきも言ったように、特老に入れればいいんですが、要介護度が高くないと受け入れてもらえないうえ、都市部では2~3年待ちは当たり前です。ただ、介護保険を使えば月額十数万円で入れる民間施設もありますから、捻出できるなら別居して、週末ゆっくり見舞う方がお互いのためだと思います。きょうだいで費用分担する手もありますよね。

 

また、在宅でも、デイサービスなど通所介護を使えるだけ使って、時にはショートステイを利用して宿泊してもらい、介護者が休息をとることも大事だと思います。どちらも介護保険を利用できます。

 

看取りも、私は在宅医療と看護、ヘルパーさんや入浴サービスなど、介護保険の範囲内で使えるサービスはすべてお願いして、支えてもらいました。皆さんプロですから手際よく、不慣れな家族がするより、本人も快適だと思います。

 

そして、もう一つは「相談もプロに」です。地域の包括支援センターやケアマネージャーさんらに、家族の希望や自己負担の限度などを率直に話して、どうするのが、どんなサービスを使うのがベストか、助言してもらうことです。私もそうしましたし、情報を持たない身内で話し合っても煮詰まるだけです。とにかく一人で抱え込まないことです。

 

――と、まあ、「歳を取る」ということをしみじみ考えた同窓会でもありました。今は親世代ですが、20年後は我が身ですからね。そして、帰りの飛行機で思い至りました。いま私にできることは「かみさん孝行」することだ、と。

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