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焼失した「小倉昭和館」再建に向け中村哲医師の映画を間借り上映

芝居小屋として始まり、家族3代にわたり守り続けてきた個人経営の映画館、北九州市の「小倉昭和館」は今年8月、旦過市場の大火で焼け落ちてしまった。再建を目指す館主は、会場を間借りして映画上映会を続けている。RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』でRKB報道局の神戸金史解説委員がその様子を報告した。  

今年創業83年だった小倉昭和館

「小倉昭和館」は趣のある映画館で、惜しむ声が本当に多いです。館主の樋口智巳さんは絶望の中から再建を決意、多くの方が支援しています。樋口さんは会場を借りて「小倉昭和館PRESENTS特別上映会」と銘打ち、映画の上映を始めています。第1弾は11月27日にホテルのホールを借りて、活動弁士付き無声映画の上映会を実施しました。

 

第2弾は12月10日、北九州市立大学の会場を借りて、映画の特別上映とシネマトークが開かれました。午前の部には観客が200人以上来ていて「支援している人は多いんだなあ」と思いました。会場で、樋口さんが売り子として立っていましたが、その姿は小倉昭和館の“名物”でした。

樋口智巳館主:ポップコーンは、チーズとキャラメル2つの味が一緒に入っていて、とてもおいしいです。それから今回、火災後作ってくださった「小倉昭和かんかん」。私の思いを詰めています、缶だけに。ツナとめんたいの缶、500円です。在りし日の……在りし日と言うのが痛いけど、昭和館の外観とネオンがラベルに映っています。よろしければ、お声かけください!
 
「痛い」とおっしゃった樋口さん。みんな分かっているからこそ、客は「お手伝いをしよう」と思っているわけです。

『劇場版 荒野に希望の灯をともす』

映画は、パキスタンやアフガニスタンで医療や農業、水源確保事業などを続け、3年前凶弾に倒れた中村哲医師のドキュメンタリー、日本電波ニュース制作の『劇場版 荒野に希望の灯をともす』。上映に当たって、樋口さんはこんなあいさつを述べていました。

樋口智巳館主:本日はご来場いただきまして、ありがとうございます。元気なんです! 元気なんですけど、みなさまのお顔を拝見すると、胸がいっぱいになります……本当にありがとうございます。(拍手)

 

「小倉昭和館プレゼンツ特別上映」第2弾、アフガニスタンで人道支援に尽くされた中村哲先生の生き方をたどるドキュメンタリーです。火災がなければ、9月に小倉昭和館で上映する予定でした。

 

中村先生が現地で武装集団に銃撃され亡くなられてから、もう3年が経ちました。遺志を継ぐ方々のお話を聞くたびに、もっと中村先生の事を知りたい、知らなければならない、という思いが募ります。本日はありがとうございます(拍手)
火災がなければ9月に上映するはずだった…。焼失の悲しみと苦しみが感じられて、みんながそれを共有していく温かい場面でした。みんなが応援している感じがしました

 

この映画は、中村さんを21年にわたって記録してきた日本電波ニュース社の谷津賢二監督が撮ったもの。たびたびテレビでも伝えられていましたが、未公開映像と現地の最新映像を加えて、劇場版として作られた作品です。

 

哲さんが書いた文章の朗読が、映像にかぶさるのが基本になっているドキュメンタリーで、映像版の人物伝記のような感じ。哲さんの生きざまが胸を打ちました。

中村医師の「核」は北九州の若松に

上映の後、トークイベントがありました。Jリーグ「ギラヴァンツ北九州」社長で、中村哲さんのいとこにあたる玉井行人さんと、哲さんのドキュメンタリーを撮ってきた九州朝日放送の臼井賢一郎さんが登壇しました。

 

北九州市若松出身の芥川賞作家・日野葦平(1907~1960)は、父親の玉井金五郎さんと母のマンをモデルにした小説『花と龍』を書いています。この夫妻の子供が、玉井社長と中村哲さんの親御さん。つまり2人は、『花と龍』の主人公のお孫さんであり、いとこ同士という関係。おばあさんのマンさんが住む若松で、中村哲さんは幼少期を過ごしています。

ギラヴァンツ北九州・玉井行人社長:玉井マンさんが、2歳から6歳まで若松に住んでいた中村哲さんに言っていたのは、

 

・弱いものが助け合っていかないと、世の中は回っていかない。

・職業に貴賤はない。

・どんな小さな生き物の命も尊ぶ。

 

これをずっとおばあちゃんから聞いていたことが、アフガニスタンでの活動につながってきている。中村哲さん自身も、「若松が自分の原点だ」とおっしゃっています。北九州で人道支援の核の思想が形成されたのだ、と思っています。
中村哲さんの「北九州の思想の原点」について語る。小倉昭和館の特別上映にふさわしいイベントになった感じで、映画の中で中村哲さんはこう言っていました。

中村哲さん:誰かほかの人がやれば私がいる必要はない。個人的な動機から言えば「見捨てちゃおけないから」という外に何も理由はないです。
玉井さんが言ったおばあちゃんの言葉と響き合っていました。

小倉昭和館の再建支援を

トーク終了後、樋口さんがこんな話をしてくれました。

樋口智巳館主:こういう場を持ちたいんです、私は。映画を上映するだけじゃなく、プラスアルファのお楽しみ、映画の世界観をもっとお伝えできる場。それが昭和館だと思っていますので、頑張って早く再建したいと思っています。(特別上映は)月1回を目指しているんですが、1月は寒いから…2月~4月は決まっています。

 

神戸:応援している人、多いですね。

 

樋口:ありがとうございます。

 

神戸:頑張ってください!
 
再建を少しでも支えてあげたい、と思う会でした。特別上映に「今後行って応援したい」と思う方は、小倉昭和館のホームページをチェックしてください。

小倉昭和館のホームページ
http://kokura-showakan.com/

◎神戸金史(かんべ・かねぶみ)

1967年生まれ。毎日新聞に入社直後、雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKBに転職。東京報道部時代に「やまゆり園」障害者殺傷事件を取材してラジオドキュメンタリー『SCRATCH 差別と平成』やテレビ『イントレランスの時代』を制作した。
 

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