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奄美の森のクロウサギ

鹿児島市から南へおよそ380キロ。奄美大島の森には、世界でここにしか居ない生物が数多く存在する。そんな希少生物のひとつ・アマミノクロウサギが、雨の中、泥まみれになりながら子どもに乳をあげる映像が、去年、世界的な写真・映像のコンテスト「ネイチャーズベストフォトグラフィーアジア」で入賞した。撮影したのは、奄美大島在住の写真家、浜田太さん(65)。

奄美の森で、アマミノクロウサギの姿を追い続けて34年。子育ての映像は、森で1か月以上キャンプしながら、3台のビデオカメラを使いようやく撮影に成功したものだ。夜行性で、詳しい生態が判明していないアマミノクロウサギの貴重な姿は、世界に“奄美”の名前を広めるきっかけにもなった。

ユネスコの世界自然遺産への登録を目指していた奄美大島だが、今年、諮問機関から登録延期の勧告がなされ、政府は推薦をいったん取り下げた。多くの人が残念に思う中、浜田さんは逆に「受け入れ態勢を整える時間ができ、ほっとした」と語る。長年、故郷・奄美を見つめてきた浜田さん。今後さらに世界中から注目されるであろう森の中で、これまで通りアマミノクロウサギを追い続け、世界へ向けて発信し続ける。
■取材先
会社名:浜田太写真事務所
住所:鹿児島県奄美市名瀬幸町17-2
電話:0997-52-1210
HP:http://www.airport-tv-network.jp/hamada/ その他:浜田さんがかつて発行していた奄美の情熱情報誌「ホライゾン」の電子書籍版は、Amazon Kindleで入手可能です。

取材後記

浜田太さんは好奇心の人だ。奄美のいろんなモノやコトについて興味を持ち、粘り強く撮影を続ける。中でも、今回紹介したアマミノクロウサギは特別な存在。
ゆるキャラのモチーフになるなど「奄美代表」と言ってもいいくらいの有名な動物なのに、その生態は未だにわからない部分も多い。そんなアマミノクロウサギについて、浜田さんは島の古老から話を聞くなどしてリサーチし、蓄積したデータをもとに撮影に挑む。それもただ撮るだけではない。写真家として、照明や画角などいろいろなこだわりを持ちながら、そのこだわりを実現するために独自の機材の開発まで行っている。そのこだわりはまた、浜田さんの企業秘密でもある。実際今回の取材でも、撮影機材の具体的な「手の内」までは明かしてくれなかった。

そしてもう一つ、浜田さんの作品の特長を決定づけるこだわりが、「普段どおりのアマミノクロウサギの姿」を撮影するというものだ。追いかけまわすのではなく、ひたすら待つ。時間も手間も惜しまない。この姿勢が、まるでカメラの存在に気づいていないクロウサギのリラックスした表情、そして誰も知らない夜の森で繰り広げられる生き物たちの営みを鮮明に映し出し、見たことのないその映像に私たちは感動を覚えるのだろう。

浜田さんたちの地道な活動の積み重ねで、奄美の森は「開発の対象」から「守るべきもの」に変わった。そしてもうじき、世界自然遺産にも登録される見込みだ。そんな中、今回の世界的な賞の受賞で満足するのかと思いきや、浜田さんの好奇心はまだまだ衰えをしらないようだ。次に目指すのは、4Kカメラの高精細画質で撮影したアマミノクロウサギの「日常風景」。どのような映像で驚かせてくれるのか、浜田さんの次の作品を期待して待ちたい。
担当:MBC南日本放送 永野志郎

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