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習近平政権が徹底取り締まり!中国で「もう一つの社会不安」

日本では、警察の取り締まり強化もあって、暴走グループの数は減っている。最新の「警察白書」によると、検挙された暴走族の人数は、この4年間で3分の2に減った。一方、中国では暴走行為が増えているという。東アジア情勢に詳しい、飯田和郎・元RKB解説委員長がRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演し、その背景にある「社会不安」と、それをおそれる習政権についてコメントした。

増える中国国内での暴走行為

私(飯田)は、福岡市中央区の、通りから少し離れた集合住宅に住んでいる。気温が上がって来たこのごろ、夜窓を開けていると、時折聞こえてくるのが若者たちの暴走行為による爆音だ。「まだこんなことをやっているのか?」と思う。

この爆音は、隣国・中国でも人々の頭を悩ませているらしい。中国・公安省(日本の警察庁に相当する部門)が先日、こんな通達を出した。中国のニュースサイトから紹介する。

ここ数年、中国各地で、爆音を残し、猛スピードで街を走り回る暴走行為が大きな問題になっている。社会の秩序を乱し、人々の安全を損なうことから、市民の間から強い反発が生じている。

夏は暴走行為が増える季節。公安省はこのほど、全国に通知を出し、違法行為の取り締まり強化、道路交通秩序と公共の安全を維持するため、特別作戦を実施する。

具体的には、全国で警察官を大量動員し、暴走行為の摘発だけではなく、違法車両の押収や、改造をする自動車工場の摘発などを進めるという。

中国でも、日本と同じ問題が起きている。複数の四輪車、または二輪車で、停止した状態から400メートルという短い距離の間でスピードを競う「ゼロヨン暴走」や、カーブを曲がる時にタイヤをわざと、滑らせて車体の向きを変える「ドリフト走行」が流行しているという。

日本では、それらを見物しに来る者もいて、暴走族をはやし立ててしまうケースもあるが、中国の警察部門も「道路はレース場ではない」と警告するとともに、一般市民に対して「暴走行為を見物するなどして、彼らを過熱させてはいけない」と要請している。

苦情の4割を占める騒音公害

暴走族対策に、警察以外の省庁も対策に乗り出している。まずは騒音被害だ。中央政府の生態環境省(日本の環境省に相当)によると、騒音公害は、国民からの苦情の多さでは第2位で、全体の41%に上る。その中で、この暴走行為への苦情が多数を占める。

そのような情勢もあって、中国政府はちょうど1年前の昨年6月5日から、騒音公害防止法を施行した。この中で、マフラー(=消音器)を外すなど、改造した状態で車両を運転することを禁止したほか、大音量のスピーカーを装備した車両も罰せられることになった。なんとしても、暴走行為を社会から追放しなくてはいけないと、ようやく法律が整備されたのだ。

当然、事故も起きる。

バイクを親に買い与えられた17歳の子供が、アルバイトをして金を貯め、バイクの購入費の何倍もの費用をかけて、時速百数十キロのスピードを出せるように改造した。だが、子供は自損事故を起こし、命を落とした。この事故を受けて、ある自動車修理工場の経営者がテレビ局の取材に匿名で答え「乗用車なら、時速200キロのスピードが出るまで不法改造した経験がある」と語っている。

数年前のことだが、ランボルギーニ(イタリアの高級スポーツカー)とフェラーリ(これもイタリアの高級スポーツカー)が北京の公道でスピードを競っていて、この2台が衝突した。運転していたうち1人は大学生。事故現場周辺の道路で、たびたび「レースのような競走が行われている」という苦情が近隣住民から寄せられていた。

暴走行為が政局にも影響

高級スポーツカーでの暴走事故はほかにもある。こちらの方が社会で、別の意味で問題になった。

ある男性が運転するフェラーリが北京市内の公道を走行中、側壁に激突する事故があった。スピードの出し過ぎが原因だった。この男性は即死、同乗していた女性も搬送先の病院で亡くなった。死亡した男性の父親は当時のトップ、胡錦濤主席の側近だった。父親は、事故のもみ消しを図ったが、この工作が発覚し、地位を失う。

問題は、日本円で1億円近くする高級スポーツカーを買う金が、どこから出たのかということだ。息子の事故を発端に、高級幹部、しかも将来を嘱望されていた父親は、のちに収賄罪などで無期懲役の判決を受け、現在、刑に服している。暴走行為が政局にも影響したのだ。

今も、格差社会=ピラミッド型社会の上の方、つまり時流に乗ったビジネスで富を築いた者やその親族が、有り余るカネを高級自動車に注ぎ込み、同じような仲間と公の道路でスピードを競うことがよくあり、時には事故を起こす。それを大多数の庶民は目の当たりにする。中国において、庶民は特権を乱用する一部の幹部、その子弟たちへの不満が、指導部に向くこともあり得るし、それが社会を揺るがしかねない。

暴走行為は社会に対する不満?警戒する習政権

一方、特権を享受していなくても、暴走行為に走る若者たち。彼らも、社会に対する不満を発散させる場として、道路の上で無謀な走りをする。それを見物に来る者たちもまた、暴走行為をする者たちを焚きつけて、憂さ晴らしをする――。そんな構図が今の中国社会からは、見てとれる。

「暴走行為による騒音でうるさくて眠れない」「事故が起きる・事故に巻き込まれる」といった怒りや不安だけではない。社会の安定維持を最優先したい習近平政権としては、暴走行為はさまざまな意味合いで、警戒すべき対象となっている。

当局が組織していないのに、群衆が集まる。そして秩序なく、騒ぎを起こす――。今の中国社会では、これだけで習近平政権が恐れる事態なのだ。何がきっかけになるかわからない。だから、もっと大きな出来事に引火しないように、事前にさまざまな手段を講じるのだろう。中国において暴走車両、暴走族の摘発は、日本とも違う意味合いがあるのだ。

◎飯田和郎(いいだ・かずお)
1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。

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