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「エリーゼのために」今なお多くの楽曲に引用される“音楽の世界遺産”

ラジオ
クラシック音楽に詳しくない人でもタイトルを聴くだけでメロディが浮かぶ「エリーゼのために」。ベートーヴェンが1810年4月27日に作曲したと言われる圧倒的な完成度を誇ったその名曲は、時代を超え、さまざまなポップアーティストにカバー、引用され、形を変えて万人の心に染みこんでいる。RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で音楽プロデューサー・松尾潔さんが解説した。  

ベートーヴェンが求婚するために作った「エリーゼのために」

最も有名な音楽家の一人、ベートーヴェンといえば「運命」をはじめ交響曲をたくさん作ったイメージがありますが、ピアノ曲でも素敵な曲をたくさん残しています。中でも「エリーゼのために」は多くの人に愛されていると思います。

 

「エリーゼのために」は、19世紀初めの1810年4月27日に作曲されたと言われているんです。1770年生まれのベートーヴェンが40歳のころ、つまり中年期ですよね。彼は聴力を失っていったことはよく知られていますが、全聾になったのが、諸説ありますがだいたい40歳ぐらい。つまり、聴力をほぼなくしてしまったという状況でこの曲を書き上げたと言われています。

 

ベートーヴェンは生涯独身を貫きましたが、人生の中で何度か大きな恋愛をしています。その大恋愛の相手の一人がテレーゼという女性。ベートーヴェンより20歳以上年下で、このときはまだ10代だった彼女に捧げられた、というか、求婚するために作られたのがこの「エリーゼのために」だという説があります。ベートーヴェンは彼女に「敬愛するテレーゼ、あなたにこの人生のあらゆる素晴らしくて美しいことがあらんことを」という手紙まで添えていました。この曲のメロディも、何か美しいものを求めるような思いが込められていますね。

 

それでも恋愛は成就しなかった。(音楽プロデューサーである)僕の口から言いづらいんですが、音楽の無力さ、音楽の限界を示す気がしますね(笑)

歌謡曲やヒップホップに姿を変えてもなお美しさを損なわない名曲

ところで、この曲はすごくサビの部分がキャッチーで、20世紀に入ってからもたくさんのポップアーティストたちが歌の一部に引用しています。日本だとたとえばザ・ピーナッツの「情熱の花」(1959年)や、化粧品のCMソングにもなったザ・ヴィーナスの「キッスは目にして」(1981年)が有名です。

 

21世紀になっても、宇多田ヒカルさんが「Deep River」というアルバムに収録されている「幸せになろう」で「エリーゼのために」のフレーズを引用しています。実はこの「幸せになろう」がリリースされた2002年と同じ年に、アメリカのヒップホップシーンの要人でNasというラッパーも「エリーゼのために」を引用した「I CAN」という曲をアメリカでヒットさせています。

 

雰囲気は随分変わっていますが、曲としての構造はもう半端なくしっかりしていて、骨太なんですよね。だからどんな形でアレンジされて、元とは違う文脈で引用されても、元から持っている美しさを損なうことがないというタイムレスな価値を持っている曲だと思います。ヒップホップとも意外と相性がいいですね。やはり作曲家・ベートーヴェンの非凡さというか、もうクラシックというよりもポップミュージックとして当時の人の心を掴んだのだろうということを想像しますね。

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