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習近平主席のスタンスは外国首脳と会った際の“表情”から分かる!?

ラジオ
注目の日中首脳会談はきょう17日、タイの首都バンコクで開かれる。テレビ会談や、電話会談ではなく、対面での会談は実に3年ぶり。東アジア情勢に詳しい、飯田和郎・元RKB解説委員長は、習近平国家主席が岸田首相と会ったときの“表情”に注目しているという。その理由をRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で語った。  

国交正常化50周年の節目の会談

APEC(=アジア太平洋経済協力会議)の首脳会議がバンコクで開かれるのに合わせて、日本と中国のトップ同士が顔を合わせる。ゼロコロナ政策を継続していることもあって、習近平主席は外遊を行ってこなかった。とはいえ、今年は日中国交正常化50周年の節目の年。日中どちらとも、顔合わせの必要があると判断したわけだ。

 

習氏としては、異例の3期目に入った直後でもある。外交の舞台も、自身の権力基盤の強固さを内外に示す機会になると考えるのではないか。とはいえ、日本の首相を中国へ招く、また自分自身が日本を訪問する――。そこまで、今の日中関係は良好ではない。APECという国際会議で顔を合わせるというのは、もっとも無難と判断したのだろう。

 

きょうの首脳会談で注目されるテーマだが、日本側からは、中国の海洋進出。これには沖縄県の尖閣諸島の問題も含まれる。中国側は、台湾問題の言及があるだろう。双方にとって、このところ挑発的な行動がエスカレートする北朝鮮についても重要だ。ウクライナ問題への対応も気になる。

他国との対応があからさまに異なった2014年の会談

ただ、これらとは別に注目したいポイントがある。岸田首相、習近平氏が顔を合わせた時の表情。とりわけ習近平氏の表情だ。そして、その表情を捉えた中国メディアの映像や写真も注意深く見ていきたい。それは、日中関係の現状、そして今後を占うことができるからだ。

 

首脳同士の顔合わせの冒頭はチェックポイントだ。中国、北朝鮮、ベトナムなど社会主義国同士の首脳が会う時は分かりやすい。もちろん、コロナ禍前の話だが、まず固くハグ、両腕で相手を抱きしめることから始まる。親密な関係、兄弟、という意味だ。

 

一方、日本の首脳に対してはどうだろうか?ここ数年の日中首脳会談の冒頭、習近平氏がどのような表情だったかを振り返る。

 

まずは2014年11月。このとき、各国との首脳会談を報じた中国の共産党機関紙「人民日報」の紙面を見ると、習近平氏がAPECのホスト国トップとして、韓国、ベトナム、日本など6か国それぞれと個別に首脳会談を行ったという記事と、その会談冒頭に握手する写真が載っている。安倍首相(当時)と習近平氏が握手をしている写真では、二人は目を合わせておらず、表情もこわばっている。ところが、習氏は安倍氏以外の5人とは、にこやかな笑顔、それに口元が緩む。

 

しかも、ほかの5人の写真には背後に、中国と相手の国の国旗が写り込んでいるが、安倍氏との写真の背景には日中両国の国旗がない。外交上のプロトコル(=儀礼)からも失礼に思える。

 

その2年前の2012年9月、当時の民主党・野田政権は沖縄県尖閣諸島を国有化した。中国は猛反発し、中国各地で反日デモが起きた。デモ参加者の一部は暴徒化し、日系のスーパーマーケットが襲撃された。「国交正常化以来、最悪」と言われるほど険悪になった。その後、再登板した安倍首相は2013年の年末に靖国神社を参拝した。

 

一方、習近平氏は2012年秋に共産党総書記に就いた。2014年の首脳会談は習近平氏にとっては初の日中首脳会談だった。APECのホストとしても、とても、日本の首相にニコニコ顔で迎えるわけにはいかない。中国国民も見る映像、写真なので、日本に甘い顔はできなったわけだ。

 

この時の会談は、通訳を交えてわずか25分間。人民日報の記事に戻るが、写真に添えられた記事には、日本以外の5人の首脳については、単に「会談した」とあるが、安倍首相だけ「APECに出席した日本の安倍首相と会談した」と記述している。安倍氏だけは「APECに参加したから会った」と言わんばかりにも受け取れる。

政権基盤を固めた後は関係改善に意欲的な表情

安倍元首相と習近平氏との日中首脳会談は、その後2017年11月、2018年10月、2019年12月にも行われている。その時撮影された写真の表情は2014年の首脳会談の写真とまったく違う、穏やかな表情だ。

 

たとえば2017年の写真。閉幕したばかりの中国共産党大会で2期目入りを決めた習近平氏と、衆院選で圧勝した安倍氏。どちらも政権基盤を固めた2人が停滞してきた日中関係を仕切り直しようという意欲が、写真に表れている。

 

紹介してきたように、習近平氏の場合は、首脳会談冒頭の表情で、内外に向けて、相手の国に対する姿勢を明確に示している。もちろん、メディアを退室させたあと、会談に入れば、それとは異なる表情を見せることもある。

 

ちなみに、11月14日には米中首脳会談があった。これもトップ同士としては初めての対面式の対談だったが、習近平氏は穏やかな笑みを浮かべて、バイデン大統領と握手した。バイデン大統領はアメリカ中間選挙で引き続き上院での主導権を維持。習近平氏は党大会を終えるなど、2人とも大きな国内行事を乗り切っただけに、堂々と相手に向き合うことができたようだ。

 

そういう中で、きょう17日の日中首脳会談で、習近平氏はどんな表情を見せるのだろうか?今から申し上げるのは、私の予想である。習近平氏は初顔合わせとなる岸田首相に対し、大人(たいじん)の振る舞いをするのではないか。確固たる地位に就いた「大国のリーダー」にふさわしい振る舞いだ。

 

なにより、一方の岸田首相は、自分の内閣の閣僚が相次いで辞任に追い込まれるなど窮地にある。支持率は低迷している。岸田首相は外交で得点を稼ぎたいところだが、帰国後の国会運営も困難な状況が続くのは確実。中国側はそのあたりをよく知っている。

 

習近平氏は安倍晋三氏の事件への弔意も直接、岸田首相に伝えるのではないか。それも、大人の振る舞いのひとつ。そう見ると、習近平氏のほうが優位な立場にあるようだ。きょうの日中首脳会談。冒頭の習近平氏の表情や振る舞いに注目していただきたい。

飯田和郎(いいだ・かずお) 1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。

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