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逮捕の決め手は「中国ならではの恐ろしさ」美人殺人犯に死刑判決

11月30日、中国南部の地方都市の裁判所で、48歳の女に対し死刑判決が下った。女は男女7人を次々と殺害した。中国ウォッチャーの飯田和郎・元RKB解説委員長はこの事件には「二つの恐ろしさがある」と言う。RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で詳しく説明した。  

転落した元教師が男とともに凶悪な事件を次々と…

中国の裁判は二審制。死刑の場合、最高人民法院(=最高裁)で審査するが、事実上、これで死刑が確定した。この事件は今も多くの報道があり、大きな関心を呼んでいる。ゼロコロナ政策が続く中国で、庶民のイライラが共産党に向くが、こういう社会ネタが強い関心を呼ぶのは、日本も中国も同じだろう。
順を追って話をしていく。女は小学校の教師だった。しかし、ある男と知り合い、恋人となったことから、転落。教師を辞め、その男とともに国内を点々としていく。
最初の事件は1996年6月に起きた。女はある町のナイトクラブで仕事を得ていた。2人は金を持っていそうな客を物色。目星をつけた男性客を、この女が誘惑をして自宅に連れ込んだ。男性客が家の中に入ったところを、共犯の恋人の男が襲い、金品を奪ったうえ、殺害した。2人は、この男性客の家に向かい、日本円で300万円以上の現金を奪ったうえ、男性客の妻と3歳の娘を殺害。さらに室内を物色し、外国製の高級腕時計などを盗んで逃走した。

翌年1997年10月には再び事件を起こす。2人は約500キロ離れた別の地方都市に移り住んでいた。住み始めた貸家の家主がまとまった金を持っていることを知った2人は、家主を騙して家に入り込み、金品を奪い取った。2人は縛り上げた家主に、別の知人をその家まで呼び寄せさせた。この知人も資産を持っていたからだ。男女はこの知人からも金目のものを奪った挙句、2人とも殺してしまう。

2人はそこから北へ800キロの町へ逃げる。第3の殺人事件が起きるが、手口はこれまでと同じ。1999年7月、女はやはりナイトクラブにホステスとして勤め、羽振りのいい客に目を付けた。

女は、ターゲットの男性客に電話をかけ、自宅アパートへ来るように誘う。のこのことやってきた男性客を、共犯の男が手足を縛り上げて監禁。これとは別の男性を自宅に呼び付けると、即座にこの男性を殺害した。6人目の犠牲者だ。

それを目の前で見ていたナイトクラブの男性客は、2人に言われるままに自分の妻に宛てて「身代金を支払うように」という内容のメモを書かされた。しかし、犯人の男女2人にとって、この男性客はもはや用済み。身代金の支払いを妻に依頼するメモを書いたにもかかわらず、絞殺された。合わせて7人の命が奪われたことになる。

男の逮捕後も整形しながら逃走続けた女

犯人の男はメモを持って、被害者の家を訪れ、その妻に支払いを要求。不審に思った妻が警察に連絡したことで事件が発覚した。駆け付けた警官隊が家を包囲すると、犯人の男は所持していた銃を乱射。結局、男は身柄を押さえられ、のちに死刑に処せられた。

しかし、女は一人になっても、逃亡を続けた。それから20年間、名前を何度も変え、整形をした。女は第3の事件のあった町から1000キロ南の町に移り住んだ。身分証明書を偽造して。やはりナイトクラブに勤め、売れっ子のホステスになっていた。
やがて金持ちの新しい恋人と出会い、一緒の生活が始まった。趣味はピアノ、バイオリンに油絵という優雅な生活。知人・友人は多かったが、20年前の指名手配写真と見比べても、誰も同一人物だと思う人はいない。

中国が誇る「スカイアイ」が突き止める

しかし、逃げ切れなかった。女は新たにできた恋人の経営する時計販売店に毎日、出勤していた。この店は大きなショッピングセンターにあった。ここに、逮捕されるワナが待っていた。

ショッピングセンターにはAI搭載の監視カメラが多数、設置をされている。よく知られているように、中国の顔認証技術は世界トップレベル。カメラは、ショッピングセンターを行き交う人々すべてを撮影し、そのデータは公安当局が所有する犯罪者のデータベース(=クラウド)と照合される。もし、逃亡犯のデータと同じ特徴を持つ人物がいた、とシステムが感知すると、警察にアラートが伝わる。「スカイアイ」(天の目)と呼ばれるシステムだ。

中国が誇るハイテクシステムは、少数民族などへの監視に使われるケースが多いが、対象が年をとったり、整形したりしても見破れる。AIが年齢の加算分も計算する上、一人ひとり異なる眼の瞳孔を読み取るからだ。そして瞬時に逃亡犯と同一人物かどうか判断してしまう。

2019年11月、女は逮捕された。最初の殺人から23年が過ぎていた。

事件を積極的に報道し理解求める当局

日本にも、殺人犯が顔を整形して逃亡するケースがあった。愛媛県松山市で同僚のホステスを殺害した女が整形して全国を転々と逃亡し、15年間の時効直前(21日前)に捕まった「松山ホステス殺害事件」だ。また、千葉県ではイギリス人女性の英会話講師を殺害・遺棄した男が、やはり顔を整形して全国を逃走。2年7か月後に捕まった。顔は別人のようになっていた。

この中国の事件も犯人が整形をしていたのは同じ。ただ、7人を殺害するという事件の凶悪性に加え、高性能の顔認証システムが犯人逮捕に、威力を発揮した点が違う。国家警察にこれらデータが集積されているわけだ。事件も恐ろしいが、中国の顔認証システムも恐ろしい。

この事件は、監視国家と呼ばれる中国を象徴している。治安維持と、人権やプライバシーの兼ね合い。中国では断然、治安維持が優先される。中国では、もちろん社会的関心が高いからメディアが今回の二審判決も、大きく報道されているが、メディアを統括する当局が、このような事例を積極的に報道させることで、市民の理解を得ようとしているのではないだろうか。

中国を旅行する人は、十分に行動に気を付けて。「行動は全部、見られています」

◎飯田和郎(いいだ・かずお)
1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。
 

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