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東アジア情勢に詳しい、元RKB解説委員長で福岡女子大学副理事長の飯田和郎さんが、7月20日放送のRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演し、サッカー・ワールドカップの出来事から国際社会における領有権問題、そして南シナ海を巡る中国の姿勢について解説しました。
サッカーW杯のピッチに持ち込まれた「領有権」の主張
サッカー・ワールドカップの決勝が終わりましたね。スペインがアルゼンチンを1対0で破り、ヨーロッパ勢と南米勢の対決となりました。いつもはアジアの情勢を語る私がなぜこの話題を取り上げるのか不思議に思われるかもしれませんが、注目したいのは準決勝のイングランド戦での出来事です。
試合後、イングランドに勝ったアルゼンチンの選手たちがスタンドに向かって横断幕を掲げました。そこにはスペイン語でこう書かれていました。
「マルビナスはアルゼンチンのものだ」
マルビナスとは、英語名「フォークランド諸島」のアルゼンチンでの名称です。この島々は南米アルゼンチンの東岸沖合約500kmに位置するイギリスの自治海外領です。イギリス政府によれば、イングランドの探検家によってこの島の記録がなされたのは1592年のこと。これが今日、イギリス本土から遠く離れていても領有権を主張する根拠となっています。
このフォークランド諸島をめぐり、1982年にイギリスとアルゼンチンの間で「フォークランド紛争(戦争)」が起きました。アルゼンチンは武力で島を占領しましたが、イギリスが艦隊を派遣し、圧倒的な軍事力で島を奪還しアルゼンチンは降伏しました。
戦争の相手だったイングランドにサッカーで勝利したアルゼンチンの選手たちは、紛争から44年が経過した今でも「島は我々アルゼンチンのものだ」と、ピッチ上で領有権を主張したわけです。
南シナ海の領有権問題と「紙くず」と呼ばれる国際判決
前週のこのコーナーでは沖縄県の尖閣諸島を取り上げ、中国が事実と異なるニセ情報を交えて領有を主張する「認知戦」を展開しているお話をしました。今回はその続編とも言える、尖閣諸島をさらに南下した「南シナ海」における中国の領有権主張についてです。
先日、次のようなニュースが報じられました。
「南シナ海の領有権を巡る中国の主張を全否定した、オランダ・ハーグの仲裁裁判所の判決から10年となった12日、日本、アメリカ、イギリスなど14の国々が、判決を改めて支持する共同声明を発表しました。この声明は、南シナ海で一方的な現状変更の試みを続ける中国を念頭に、『地域の平和と安定を脅かし、安定を損ないかねない行動に強く反対を表明する』と述べています」
オランダの仲裁裁判所とは、外交上の手段では処理できない国際紛争を仲裁する機関で、1901年に設立されました。根拠となる条約には現在120を超える国々が加わっています。今から10年前の2016年7月、この裁判所は南シナ海のほぼ全域を「自分たちのものだ」とする中国側の主張に対し、「根拠がない」と否定する判決を下しました。これは「中国は国連海洋法条約などに違反している」とフィリピンが申し立てたことを受けての判断でした。
しかし、10年が経過した今でも、中国は判決を受け入れるどころか南シナ海の島々に軍隊を駐留させ、滑走路を建設するなど既成事実化を進めています。今回の14カ国による共同声明に対しても、中国外務省は即座に反応し、こうこきおろしました。
「違法であり、拘束力のない紙くずだ」
反発するにしても他に言いようがあるのではと感じますが、実は2016年に判決が下された時も同じ「紙くず」という表現を使っていました。ちなみに、中国自身もこの仲裁裁判所の設立条約締結国です。
中国の主張する根拠と「無主地先占」の原則
では、中国が自国の国土からはるか遠い南シナ海の領有を主張する根拠は何でしょうか。中国政府は1980年に根拠を列記した文書を発表しており、そこには「紀元前2世紀に中国人がこの海域を航行し島々を発見した」「紀元後の3世紀に書かれた書物に島々の地形の特徴が記されている」などと記されています。
しかし、多くの学者や研究者はこれらを「中国人が島々を認識していたという程度のものであり、国家として島々に対して権限を行使していたわけではない」と否定しています。
「無主地先占(むしゅち・せんせん)」という言葉をご存知でしょうか。無主地(主のいない土地)に対し、国家として明確な意思を持って最初に実効支配することで自国の領土とする行為を指し、領土に関する国際ルールの一つとなっています。冒頭で触れたフォークランド諸島についても、イギリスは「自分たちの領土とする明確な意思を持ち、国家として最初に実効支配した」ことを根拠にしています。自分の国からどんなに遠くても、です。
南シナ海の島々についても、この「国家としての意思として支配したかどうか」が争点になっているわけです。
ちなみに、この南シナ海に浮かぶ争いの海は、敗戦までは日本が統治し「新南群島」と呼ばれていた経緯があります。1951年のサンフランシスコ平和条約で日本は権利をすべて放棄しましたが、歴史的には日本も無関係ではありません。
トランプ政権の影と、相対的に高まる中国の存在感
現在、南シナ海の島々については中国とフィリピンのほか、ベトナム、マレーシア、ブルネイ、台湾の6つの国・地域が領有権を主張しています。しかし、仲裁裁判所の判決から10年の節目に出された共同声明に参加したのは、このうちフィリピンだけでした。アジア・大洋州地区全体を見ても、日本、フィリピン、オーストラリア、ニュージーランドのみです。つまり、東南アジアの国々の多くは中国と摩擦を起こしたくないため「沈黙」しているのです。
先週、アメリカの世論調査会社が世界36の国・地域を対象に行った調査結果が発表されました。それによると、なんと27の国・地域で中国への好感度がアメリカを上回ったそうです。前回2025年の調査まではアメリカの方が好感度は高かったのですが、今回初めて逆転しました。
「アメリカ第一主義」を掲げるトランプ政権が南シナ海への関心を薄れさせているとの指摘も多くあります。そうなると、中国が相対的に存在感を高め、中国を刺激したくないと考える国々が増えていくのも自然な流れかもしれません。中国が国際裁判所の判決を堂々と「紙くず」と言い切れる背景には、こうしたパワーバランスの変化があるのかもしれません。
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この記事を書いたひと

飯田和郎
1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。2025年4月から福岡女子大学副理事長を務める。



















