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ビザ手数料改定がもたらす? 日中間の感情行き違い

飯田和郎

東アジア情勢に詳しい、元RKB解説委員長で福岡女子大学副理事長の飯田和郎さんが、6月29日放送のRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演しました。今回は、7月1日からのビザ発給手数料の値上げを切り口に、日中間の感情のすれ違いや、日本の外国人政策が中国に与える影響についてコメントしました。

パスポート値下げと出国税アップ

あさっての水曜日から7月に入り、2026年も折り返しの後半戦を迎えます。7月1日を機に値上げされる商品も少なくない中、今回は「あるものの値上げ」から日中関係を考えてみたいと思います。

値上げの話をすると言いながら、まずは逆に「値下げ」の話から始めましょう。家計を襲う“値上げラッシュ”の中で何が下がるのかというと、海外旅行に必要なパスポート(旅券)の発行手数料です。

7月1日以降にオンラインでパスポートの取得を申請すると、10年間有効のパスポートの場合、現在の1万5900円から8900円に手数料が引き下げられます。なんと44%、額にして7000円も安くなるのです。

ただし、同時に出国税(正式名称:国際観光旅客税)はアップします。7月1日以降に航空券を購入すると、出国税は現行の1000円から3000円に引き上げられます。航空燃料費の高騰によって燃油サーチャージが上がっており、結果として航空運賃全体は高くなっています。そのため、パスポート発行手数料が大幅に安くなったからといって、そのまま海外旅行への動きに直結するかどうかは不透明です。

訪日ビザ手数料は「一気に5倍」へ

次に値上げの話に移りますが、これは日本のパスポートを持つ人には関係のない話です。

日本を訪れる外国人向けのビザ発給手数料が、7月1日から引き上げられます。1次入国ビザ(入国が1回のみ認められるもの)の手数料は現在の3000円から1万5000円に、そしてマルチビザ(有効期間内なら何回でも訪問できるもの)は6000円から3万円にアップします。外務省は値上げの理由として、「査証(ビザ)手数料は1978年に定められたものであり、物価の上昇や為替相場の変動に対処した」と説明しています。

1次ビザもマルチビザも、手数料が一気に5倍に跳ね上がるわけです。これを「高い。日本に行くのはやめよう」と考えるかどうかは、海外からの旅行者次第でしょう。外務省は「これによってすぐにインバウンド(訪日客)に影響が出るといったことは考えていない」という見解を示しています。

ノービザ渡航できない中国の不満

この日本入国ビザの発行手数料の大幅値上げは、「日本に入国する際にビザが必要な国の旅行者」が支払うものです。ノービザで日本を訪問できる国や地域の旅行者には関係ありません。

距離が近く訪日客が多い東アジアで見ると、韓国や台湾、さらに中国の特別行政区である香港、マカオのパスポート所持者には訪日ビザは不要です。一方で、ビザが必要なのは中国本土やモンゴルなどです(北朝鮮は現在、制裁措置として原則入国禁止です)。

「爆買い」から「日本らしさ」へ、そして広がる風潮

ビザが必要な国でも、人数で圧倒的に多かったのが中国本土からの訪日観光客です。日中関係の悪化によって、中国政府は自国民に日本渡航を自粛するよう繰り返し求めています。ただ、それでも日本を旅する個人の中国人インバウンドは少なくありません。

そういう中国人、とりわけ富裕層と言われる人たちにとって、ビザの発行手数料が一気に5倍になっても、懐が痛いとは感じないでしょう。ただ、一方で、額にして5倍の引き上げ幅以上の障壁、新たな障壁が日中間で生まれていないか、気になります。

もちろん、今回のビザ手数料の大幅値上げは、特定の国を名指しした措置ではありません。ですが、中国側には「なぜ世界第二位の経済大国・中国の国民が……」という不満がくすぶっていました。そんなくすぶる不満に、今回の日本政府の措置は、油を注ぐ結果を招かないでしょうか。

電化製品に、化粧品といったメイド・イン・ジャパンを大量に買い込み、“爆買い”と呼ばれた中国人買い物ツアーの波は、すでに過ぎました。その後、彼らは自分たちの国と違う、いわば“日本らしさ”を求め、この国を目指すケースも増えました。それはグルメや景観だけではありません。表現しにくいですが、“しっとり”とした空気と言うべきものです。

ただ、やって来る人数の多さもあってか、日本国内で「中国人インバウンドこそ、オーバーツーリズムの元凶」と決めつける風潮が広がったのは否定できません。そのうえ、国際社会、とりわけアジアでの中国の振る舞いや、日本への姿勢などなど、日本人が抱く今日の対中感情もそこに重なったといえます。

相互免除の不均衡と、広がる「疑念」

ビザの免除措置は、その国の国際的信頼度だけでなく、二国間関係を映し出します。日本のパスポート所持者は現在、短期滞在であればビザなしで中国を訪問できます。一方、中国人は日本を訪れる際にビザが必要です。日中間で相互免除が実施されておらず、中国側にはこれが不公平に映るわけです。

かつて政府間の協議が行われていた昨年まで、中国は日本に対してビザ発給の条件緩和(手続きの簡素化など)を繰り返し求めてきました。いきなりノービザを要求しなかったのは、大国の自尊心がそのような交渉に仕向けたとも言えるでしょう。

中国政府が「日本は危険だ」と渡航自粛を呼びかけ、関係が冷え込んでいる今となっては、ビザ手数料値上げの実質的な影響は限定的かもしれません。しかし中国側には、「高市政権の一連の対中姿勢が今回の措置に仕向けた」という懐疑的な見方も生まれています。

訪日旅行客だけではありません。日本政府は昨年10月、外国人が日本で起業する際の「経営・管理ビザ」の許可・更新基準を大幅に厳格化しました。必要な資本金要件を500万円以上から3000万円以上(こちらは6倍アップ)に引き上げ、常勤で日本人や永住者を雇用することも義務付けました。日本で暮らす外国人の在留資格を厳しく制限する方向に舵を切ったのです。すでに在留期間の更新が認められず、帰国を余儀なくされた外国人家族も出ています。

昨年末現在、日本国内の在留外国人は412万5395人。国・地域別のトップは中国で93万428人と、前年比で5万7142人増えています。「日本が採る一連の外国人政策は、どの国をターゲットにしているのか」――そんな疑念が今、中国で広がっているのです。

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この記事を書いたひと

飯田和郎

1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。2025年4月から福岡女子大学副理事長を務める。