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「上海語を話そう」方言の自由は表現の自由?中国の方言事情と地域文化

飯田和郎

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「上海語は『癒し』であり、『特色ある都市景観』である——」。14億の国民が暮らす中国では、北京を離れると、同じ中国人同士でも意思疎通が不可能なほど強烈な「方言」が存在します。東アジア情勢に詳しい福岡女子大学副理事長で元RKB解説委員長の飯田和郎さんが8月31日のRKBラジオ『田畑竜介Grooooow Up』に出演し、自身の駐在体験と上海地元紙のコラムを事例に、上海語を守ろうとする地元の行政と大学の草の根の動きと、習近平政権が進める標準語統一の間で揺れる、複雑な地域文化のアイデンティティ問題について解説しました。

同じ中国人同士でも通じない?中国の方言事情

中国は広大な国土を持ち、そこに多くの民族、14億の国民が暮らしているだけに、各地の地方独特のことば、つまり方言も数多く存在します。

私が中国に駐在していた時、こんなことがありました。北京を離れ、ある地方に取材に出かけた際、地元の人にインタビューをしたのですが、相手が方言で答えるため、何を言っているのかさっぱり理解できませんでした。そこで同行してくれた地元政府の人に「標準語に訳して、私に教えてくれないか」と頼みました。ところが、その人は「私もこの土地の人間じゃないから、わからない」と言うのです。同じ中国人同士でも意思疎通が難しいのだから、外国人の私に至ってはお手上げでした。

標準語とまったく違う「上海語」の特徴と社会的背景

中国の上海に「新民晩報」というタブロイド判の夕刊紙があります。軟らかい内容の記事が多く、今も上海市民に人気のある新聞ですが、8月22日に掲載されていたコラムに目が留まりました。見出しは「上海語を話そう」。今回は、このコラムを紹介しながら話を進めたいと思います。

コラムは、上海市内で開かれたブックフェアでの出来事から書き起こされています。地元上海の人気コメディアンが本を出版し、サイン会に長蛇の列ができました。コメディアンは感激のあまり、「みんな、上海語を学び、どんどん喋ろうよ」と呼びかけたといいます。

このコメディアンは普段から上海語を操るご当地芸人なのですが、そもそも上海地方の方言である「上海語」は、中国の標準語とかなり違います。

単語3つを例に、発音の違いを比べてみましょう。

「上海」:標準語で「シャンハイ」、上海語では「サンへ」

「こんにちは」:標準語で「ニイハオ」、上海語では「ノンホ」

「日本人」:標準語で「リーベンレン」、上海語では「サンパンニン」

発音は、口の使い方に特徴があります。標準語に比べて四声(日本人には難しい発音の抑揚)があまりはっきりせず、抑揚が少ないのです。また、標準語は喉や舌など口の奥の使い方が難しいのですが、上海語は口の前の方で発音するため、日本語を喋るのに近いかもしれません。

このような特徴を持つため、中国のほかのエリアの人には上海語は理解できません。それゆえ、上海語を操ることには中国最大の経済都市・上海ならではの自尊心がこもっています。例えば、上海っ子が街の食堂に行った際、初めて見かけた従業員に上海語で話しかけ、相手が理解できないと「出稼ぎに来たのか?どこの田舎だ?」というように、相手を見下す道具として使われる側面もあります。

よそ者だからこそ気づく、上海語の魅力

新民晩報のコラムに戻りましょう。「上海語を学び、どんどん喋ろうよ」と呼びかけたコメディアンとは別に、このブックフェアには、ある文学賞を受賞した作家も出席していました。この作家も「上海語をもっと使おう」と提言し、次のように語ったそうです。

「上海語は『癒し』です。路地にある小さな商店や飲食店が上海語で接客するようになれば、それは特色ある都市景観になるのではないでしょうか」

実はこの作家は上海出身ではなく、ロシアと国境を接する東北部の黒竜江省の生まれです。いわばよそ者だからこそ、しかも文字を綴る作家だからこそ、上海語という地域ならではの方言の魅力が見えてくるのかもしれません。コラムによると、この作家はこうも言っていました。

「上海語を話すということ――それは、上海に住むすべての人が流ちょうで完璧な発音を求めるのではありません。言語はコミュニケーションの道具なのです。『新上海人』、つまり学業や仕事で上海に来た人たちが、上海語を使って、路地裏で簡単な挨拶をしたり、市場で値段を尋ねるフレーズで思わず微笑んだりするだけでも、それは上海社会に溶け込むための第一歩になるわけです」

コメディアンの提言や作家の主張を引用したあと、このコラムの筆者は、「上海語」をこのように位置付けています。

「『上海語を話す』ことの真の意味とは、包容力があり、活気に満ちた上海語コミュニティを育むことにある。そのコミュニティは、全員が言語の専門家である必要はない」

標準語統一の動きと、地域文化を守る取り組み

「どんどん上海語を喋ろうよ」という機運がある一方で、言葉は時代とともに変化します。今、上海でも学校では標準語で授業が行われています。若い世代になるほど、上海育ちでも標準語を使うため、「このままでは上海語はやがて消滅する」とも言われています。しかし、筆者の考えは違います。

「『世代が代わるにつれ、上海語も変わった』という考え方にとらわれる必要はない。また、過剰なまでに、『上海語はこう発音すべき』と固執する必要もない。バスの車内で上海語のアナウンスが聞こえてきたり、小さな食堂から『こんにちは』の上海語=『ノンホ』という声が聞こえてきたりする時…。そんな環境そのものが、上海語が家庭の中だけで使われる言語でなく、公共の場でも心温まる表現になることを、我々に示しているのだ」

現在、習近平政権は民族の一体感を高めるために、国民が話す言葉を標準語に統一しようと指導を強めています。独自の言語を持つ少数民族の中には、そうした強制に対して「自分たちのアイデンティティが奪われる」と危機感を強め、時に摩擦まで生まれています。

その一方で、上海では上海語を残そうと、地元の行政と大学が協力し、AI(人工知能)を活用して上海語を喋る人工的な音声を開発しているといいます。今回紹介した地元夕刊紙のコラムや、上海の大学などの取り組みを見ると、中央政府のやり方に表立って反発はしないものの、「方言という地域独自の文化を守っていこう」という考え方を葬り去ることはできないのだと感じさせられます。

さて、中国の話に限らず、私たち自身はどうでしょうか。福岡県や佐賀県など、それぞれのエリアに独自の方言があり、地域によって言葉は異なります。個人の意見ですが、ラジオは自由度の高い媒体と言われています。もっと地域の方言がラジオの番組の中で飛び交ってもいいのではないでしょうか。日本であれ中国であれ、標準語だけがその国を表しているわけではないのですから。

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この記事を書いたひと

飯田和郎

1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。2025年4月から福岡女子大学副理事長を務める。