東アジア情勢に詳しい、元RKB解説委員長で福岡女子大学副理事長の飯田和郎さんが、8月10日放送のRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演し、中国における有害動画規制の現状と、その背景にある国家運営の悩みについて解説しました。
夏休みと子供のスマホ問題
学校が夏休みに入り、子供が家にいる時間が長くなりました。外は酷暑ということもあり、家の中で子供たちが向き合うのはスマホやパソコンというケースも少なくないでしょう。親にしてみれば「我が子に見せたくない」コンテンツもあるはずです。今回はこの「有害動画」について考えてみたいと思います。
私と同年代の知人で、学童保育施設でアルバイト勤務している女性がいます。彼女によると、「夏休みもずっと子供を預かってほしい」と希望する親がいるそうです。理由を尋ねると、「家にいるとスマホにかじりつき、好きな動画をいつまでも見ているから、学童に置いてほしい」とのことでした。
夏休みに限らず、通常の学校がある時でも、夕方になると家に早く帰りたがる子供がいるといいます。仕事に出ている親が帰宅しないうちに、スマホやゲームをしたいからです。親としては子供がスマホに夢中になって勉強しないのも困りますが、何より心配なのが有害な情報に接することでしょう。こうした事情は日本に限らず、どの国でも同じようです。
中国当局による未成年者保護キャンペーン
中国の国家インターネット情報弁公室はこのほど、オンライン上での未成年者の保護を目的としたキャンペーンを開始しました。この部署は、中国国内においてインターネット上に流れる情報を監視し、不適切な情報や国家体制に不利なコンテンツの摘発・削除を行うセクションです。国内外でのデータの流通統制を強めている習近平指導部の肝いりの部署といえます。
オンライン上での未成年者の保護といえば、オーストラリア政府が先鞭をつけたことが記憶に新しいでしょう。2025年12月、有害コンテンツの視聴やSNSでの性加害・被害を防ぐ目的で、16歳未満のSNS利用を禁止する法律が施行されました。国家としてはオーストラリアが世界で初めての措置であり、各国・地域も規制に動いています。
さて、中国のキャンペーンですが、その背景にはある問題が存在します。メディアの調査によると、様々なプラットフォーム上に「有害なアニメーション」が存在することが明らかになりました。これらは可愛らしい動物のキャラクターを登場させているものの、過激な描写を含んでいます。それにもかかわらず、子供たちの多くがこれらを視聴し、「いいね」の評価をしたり、歓迎のコメントを寄せたりしているのです。
巧妙化する「有害なアニメーション」
このキャンペーンを紹介した中国メディアは、問題点をさらに深く指摘しています。世間に広く出回っている下品で不適切な動画と比較しても、こうした「有害なアニメ」がもたらす害悪ははるかに陰湿で、広範囲に及びます。一見すると可愛らしい画風で親や子供の警戒心を解きながら、実際には暴力や身体の切断といった衝撃的なストーリーや描写を含んでいるのです。
どの国でも同じですが、こうしたコンテンツは子供に精神的なトラウマを負わせる恐れがあるだけではありません。善悪に関する価値観を歪め、画面上で描かれる暴力行為や過激な行動を真似することにつながりかねないのです。
中には、長年にわたって人気を集めてきたアニメのキャラクターを、AI(人工知能)を使ってパロディ化している悪質なものもあるといいます。「あのキャラクターだ」と子供らを引き付けておいて、暴力シーンなどを織り交ぜる手口です。また、子供たちはそうしたコンテンツを自ら積極的に検索したわけではないのに、アルゴリズムによって「有害なアニメーション」へと誘導されてしまうケースも見られます。
国家の断固たる決意と背景にある体制維持
中国政府が乗り出したこのキャンペーンについて、中国メディアの論評は「規制の取り組みは、有害なオンラインコンテンツを厳しく取り締まり、未成年者の健全な成長を守ろうとする国家の断固たる決意を示すものだ」と位置付けています。
「国家の断固たる決意」。子供は国の宝であり、中国もその例外ではありません。一方で、日本や欧米と異なるのは、共産党支配体制、ひいては習近平指導体制を支え、そこからはみ出さない国民に育成していくためにも、過激な暴力シーンに代表される害毒から子供たちを遠ざけなければならないという独自の事情がある点です。
同時に、この夏休み期間中は子供たちのスクリーンタイム(スマホやパソコンの画面を見る時間)が急増します。未成年者を守るためのオンライン上の対策を最も強化しなくてはいけない時期ともいえます。
トラフィック至上主義と日本のスタンス
こうした問題の背景には、日本と同様に、アクセス数やページビュー数によって利益を得ようとする運営側の狙いがあります。「トラフィック至上主義」と呼ばれる、コンピューターが情報を整理し、画面上に表示される動画の順番や内容を自動で決める手法が広く普及しています。しかし、そのアルゴリズムに悪意が介在すると、いわゆる「ページビュー稼ぎ」のために青少年を有害サイトへ導くことになってしまいます。
ここで一つの数字を紹介しましょう。青少年へのネット規制を主導した中国国家インターネット情報弁公室が公表した最新の報告書「国家情報化発展報告(2025年)」によると、2025年の中国デジタル産業の売上高は日本円で約900兆円に達し、前年比8.8%も増加しました。これほど「儲かる産業」であるからこそ、危険も潜んでいるわけです。
スマホやパソコンに潜む「青少年への害毒」という社会問題は、中国に限らず日本でも同じです。では、日本の未成年のネット規制へのスタンスはどうでしょうか。
総務省は今年6月、未成年の適切なSNS利用に向けた報告書案をまとめました。安心・安全に利用できる環境整備の重要性、具体的にはスマートフォンの購入時に店舗での年齢確認を徹底することや、端末のフィルタリング機能強化などを唱える一方で、「諸外国のように年齢で一律に利用を制限することは望ましくない」としています。
人々が生活していくうえでインターネットが当たり前の存在になった今、どの程度の規制が正解かを見極めるのは非常に困難です。中国にも我々と同じように、子や孫の生育を心配する親や祖父母がいます。自分たちの世代では存在しなかった、あるいは影響度が限られていたネットの世界。様々な難問を抱える日中関係ですが、そう考えると、庶民レベルで同じように抱く悩みも少なくないのです。
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この記事を書いたひと

飯田和郎
1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。2025年4月から福岡女子大学副理事長を務める。




















