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ウクライナ報道の「解放」というワードに見るプロパガンダ

ウクライナ報道の「解放」というワードに見るプロパガンダ

ロシア軍はウクライナ東部制圧を目指して本格的な攻勢を続け、戦火は日々激しさを増している。マリウポリの惨状は誰もが心を痛めているが、報道では最近、この地域の名前から「ドンバスの戦い」という呼称が使われ始めた。この「ドンバスの戦い」を伝えるメディアの用語で、気になっている言葉がある、と語るのは飯田和郎・元RKB解説委員長。出演したRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で、ウクライナ戦争に関連したプロパガンダや侵略行為に対して使われる言葉の意味について検証した。

 

「解放」の文字にカギカッコがあるかどうかがカギ

きのう4月20日の毎日新聞朝刊の記事にこんな記述がある。

タス通信によると、ロシアのラブロフ外相は19日、インドメディアのインタビューに、「作戦の次の段階が始まっている」と述べ、「これは全ての特別作戦の中で、非常に重要な瞬間になると確信している」と話した。(中略)作戦の目的は、ウクライナ東部で、ロシアが独立を承認する「ドネツク人民共和国、ルガンスク人民共和国の完全な解放」と改めて主張した。

ロシア側は、ウクライナ政府が承認もしていない「二つの人民共和国」の「完全な解放」をする、と言っている。毎日新聞以外の新聞、通信社もロシア側の動きとして「解放」という言葉を使う場合この「解放」の2文字には必ずカギカッコを付けている。

 

一方、テレビやラジオで、アナウンサーが伝えるニュースを耳で聴く人は、当然その「解放」にカギカッコが付いていることはわからない。ただし、テレビニュースの場合、画面に文字スーパーで「解放」の2文字が表示される時は、必ずカギカッコが付いている。

 

「解放」という言葉が持つ本来の意味は、束縛や制限から解き放って自由にすることだ。「人質の解放」や「緊張からの解放」というように。いま、ウクライナで起きている状況は、「解放」という言葉の本来の意味と違うから、メディアはカギカッコを付けている。「これはロシアの解釈でいう『解放』だ」という懐疑的な意味合いを感じる。

 

この「解放」、AP通信やAFP通信、ロイター通信など、欧米の著名なメディアの英文ニュースでは‟liberate”(解放する・動詞)、‟liberation”(解放・名詞)のように、ダブル・クォーテーションマーク(‟・”)を付けている。日本のメディアと同じだ。例えば、ロシアの行動として

“liberate” east Ukraine(ウクライナ東部を「解放」する)

といった具合だ。報道する者の責任として、客観性を持つ「解放」ではなく、ロシアが主張する「解放」、すなわちこれは大義名分に過ぎない。本当の意味、公平な観点からは「占領」「占拠」だというメディアの主張が込められている。

これまでにもよく使われてきた主観的な「解放」

他国、他地域への侵略や侵攻を行う側は、よくこの「解放」という言葉を使う。例を挙げると、中国が悲願とする台湾統一。中国の習近平主席は繰り返し「2027年の軍の創設100周年までに、台湾解放を実現しなければならない」と公言している。

 

現実はどうか。2,300万人いる台湾のほとんどの住民は、中国との統一を望んでいない。例えば、台湾の政治大学が昨年、台湾住民を対象に実施した世論調査によると、中国と台湾の関係について「現状維持がよい」「台湾は独立するのがよい」という2つの回答を合わせると87%にのぼる。一方「統一するのがよい」という回答はわずか7.4%だった。台湾住民の主たる意識は「自分たちは、中国に解放してもらわなくて結構です」というわけだ。

 

もうひとつ例を挙げると、1950年に始まった朝鮮戦争でも、北朝鮮は「南朝鮮(=韓国)を解放する」と自らの侵攻行為を正当化した。

 

ロシアにしても、中国にしても、彼らの言う「解放」には多くの場合、正当性も大義もなく、もっと言えば大いに疑わしい。「自分たちの行為に正当性がある」と主張しても、多くの共感や共鳴を呼ばない。ロシア軍の兵隊の士気の低さが指摘されているが、やはり軍隊もロシア流の「解放」という言葉の虚しさを感じているのではないだろうか。

ロシア国営メディアの日本語サイトではどう表現されている?

ロシアはウクライナ侵攻を「特別軍事行動」と言っていたが、これもおかしな表現だ。ロシアのメディアは、日本や欧米のメディアがカッコ付きで表現している、この「解放」をどのように報道しているのだろうか。

 

実は、誰でもすぐにチェックできる方法がある。検索サイトで「スプートニク 日本」と打ち込むと、ロシアの通信社・スプートニクが日本語で提供しているニュースサイトがみつかる。そのスプートニク日本語版に今月19日夜、こんなニュースが配信された。

ウクライナ民族主義者の拠点となっていた、東部の要衝マリウポリにあるイリイチ製鉄所が、ドネツク人民共和国の民兵によって解放された。

ドネツク人民共和国、つまり親ロシア派によって解放されたと伝えるこの記事の「解放」には、カギカッコも、ダブル・クォーテーションマークも付いていない。ロシア側の行為は正当なものだと評価していると読み取れる。

 

スプートニク通信はロシアの国営メディアで、巨額の国家予算が投じられている。2015年に開設された日本語版を含め、約30の言語のニュースサイトがある。主にロシアに関するニュースを翻訳して世界へ伝えている。

 

今年3月、EU=欧州連合は、ロシアへの制裁の一環として、EU域内でスプートニクのニュース配信を禁止した。スプートニク通信の幹部の資産を凍結したり、中には渡航も禁じたりした国もある。「ウクライナ侵攻を正当化し、うその情報を拡散している」ことを理由にしている。

中国メディアの日本語ニュースサイトはどう伝えている?

スプートニク通信による海外向けのニュース配信は、プーチン大統領が仕掛ける「情報戦」の一つとも言える。ロシアではウクライナ侵攻に反対する報道を禁止した法律が3月にできた。違反したと当局が認定したら、ロシア人であろうと、外国人であろうと、最高で禁錮15年が科せられる。自由な報道を縛る一方、情報戦を展開している。

ただ、外国向けのプロパガンダはロシアに限ったことではない。中国共産党機関紙「人民日報」は「中国共産党の喉と舌」と言われてきた。つまり中国共産党の代弁者だと自任している。人民日報も日本語版のニュースサイトがある。もちろん、有益な情報も多いが、ウクライナ問題においては、アメリカへの批判を展開する場所になっている。

中国メディアは、ロシアのウクライナ侵攻を表記する場合、「ウクライナ危機」、または「ロシアとウクライナによる衝突」と表現することが多い。「戦争」「侵攻」といった言葉は使っていない。

プーチン大統領は、ナチスドイツとの戦争に勝った記念日である5月9日までに「マリウポリの『解放』を宣言する可能性がある」とも言われている。もちろん、我々の認識としては、この「解放」は、カギカッコをつけなくてはいけない。力による「解放」を許してはいけない。

 

 

飯田和郎(いいだ・かずお) 1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。

日曜劇場『マイファミリー』

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