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新疆ウイグル自治区の人権問題~内部資料流出と国連の対応(上)

ラジオ
中国西部、新疆ウイグル自治区各地に設置されている、少数民族ウイグル族らを収容する再教育施設。そこに強制的に入れられた収容者の顔写真などデータ、強硬姿勢を示す中国共産党幹部の発言録が流出し、世界14のメディアが一斉に報じた。新疆ウイグル自治区でいま、何が起きているのか?東アジア情勢に詳しい、飯田和郎・元RKB解説委員長がRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で解説した。  

世界14メディアが一斉に報じた内部資料の大量流出

中国新疆ウイグル自治区での、人権弾圧に関する内部資料が大量に流出したということで、昨日の毎日新聞朝刊が1面トップで報道している。共産党幹部の発言記録や収容所施設の内部写真、収容者リストなどの2万件以上の内部資料が流出した。そこには「(中国当局に)挑む者がいれば、すぐに射殺せよ」という共産党幹部の発言や資料から、イスラム教を信仰するウイグル族らを広く脅威とみなし、習近平総書記のもと、徹底して国家の安定維持を図る姿が浮かんでくる。

 

今回の資料は、過去にも流出資料の検証をしているアメリカ在住のドイツ人研究者が入手した。新疆ウイグル自治区内の公安当局のコンピューターに保存されていたものを、第三者がハッキングして手に入れ、この研究者に提供したと言われている。そして、研究者から、毎日新聞を含む世界の14のメディアへ渡った。

 

皆さんにお願いしたいのは、毎日新聞の紙面や、ウェブサイトを読んでほしい。この特報に関する記事や流出写真がたくさん載っている。 さらに、パソコンやスマホの検索機能で「BBC」とアルファベット3文字を打ち込んで、イギリスの公共放送BBCのサイトを見にいくと、ほとんどが理由もわからないまま強制的に収容されたウイグル族の人たちの顔写真(=これも流出したもの)2884人分が並んでいる。その中に、涙目の中年女性の写真がある。悲しみなのか、怒りなのか、恐怖からなのか。心に迫るものがある。

 

これまでも、中国当局の手によって、新疆ウイグル自治区の少数民族に対して大規模な弾圧、同化政策が行われているという話はたくさんあった。罪を犯していない市民を強制的に再教育施設へ長期間、収容しているといった、暴力を含む人権侵害だ。再教育施設から出所した人が、中国から逃れ、西側諸国で手記を出版したり、滞在先の国の議会で証言したりしてきたが、いわゆる「物的証拠」がなく、中国側は「でっち上げ」と反論している。

 

今回もさっそく、中国外務省スポークスマンは「新疆をおとしめようとする反中国勢力の最新のやり方であり、それは彼らがやってきた戦術とまったく同じだ。根も葉もない嘘や噂を広げることで、世界を欺くことはできない」と反論している。しかし、これほど多数の物的証拠が出てきたことで、欧米や日本と中国の関係は一層、厳しいものになるだろう。

 

この資料は毎日新聞やイギリスのBBCのほか、アメリカの新聞USA TODAY、フランスの日刊紙フィガロなど世界の14のメディアが報じた。彼らは「今年の早い時期」に情報提供を受けた後、収容者リストに載っている人の家族への取材、流出写真の撮影情報の確認、衛星写真との比較、専門家への鑑定依頼などを行ってきた。これら取材・確認した結果を共有して検証の精度を高めたという。その結果、「これらの資料はホンモノだ」という結論を出し、報道に踏み切った。

報道後、記者の元に届く“怪しいメッセージ”

最後にひとこと。14メディアのひとつ、毎日新聞で中心になって、この記事を書いたのは、ニューヨーク特派員の隅俊之記者。縁あって、長い付き合いがある私は、このニュースが出たあと「よくやったね」とねぎらいのメールを出した。ほどなく返事のメールが届いたが、隅記者はこう記していた。

「(ニュースをオープンにしたあと)私のもとに、怪しいメッセージが来るので、詳しい話はまた直接お会いしたときに」
自由の国・アメリカのニューヨークにいても、悪意あるウイルスメールなどで、取材データをパソコンから抜き取られないよう、神経を使っているようだ。世界的な特ダネだけに、記者たちの神経戦はこれから続くようだ。  

飯田和郎(いいだ・かずお) 1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。
 

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